ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From New York <ニューヨーク>: 最新の記事

From New York <ニューヨーク>: 月別アーカイブ

ブルーシャ西村 text by BRUIXA NISHIMURA 
[2014.11.10]

一定の速度をもった動きの連なりが同じテンポで繰り返され、ピナ・バウシュ独特のダンスを創った

Tanztheater Wuppertal Pina Bausch ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団
“Kontakthof” by Pina Bausch
『コンタクトホーフ』ピナ・バウシュ:振付

2009年6月に永眠したピナ・バウシュの意思を引き継いで、彼女の作品は今でも上演されています。バウシュの生前からファンでした。なんとも不思議なカオスのようなバウシュの作品にはとても惹かれます。
そのバウシュの作品の一つ、1978年初演の代表作である『コンタクトホーフ』が今回、上演されました。後にドキュメンタリー映画にもなりました。

ny1411a_0004.jpg 「コンタクトホーフ」Photo (C) Julieta Cevantes

私は10月24日に観劇しました。休憩をはさんで2時間50分の大作です。第一幕は100分、第二幕は50分ほどでした。
古びた学校の講堂のような舞台セットで、舞台全体が大きな部屋の内側として作られていました。舞台後方、上手下手が、それぞれ部屋の壁になっていて、その3つの壁際に沿って黒い簡素なイスがたくさん置かれています。舞台上手奥には大きなドアがついていて、その手前にはピアノが置かれていました。後方一面には大きな淡い色のカーテンがつけられていました。
ダンサーたちは23名が出演、みんな正装で、女性は背中が開いたサテンのドレス、男性はスーツ姿でした。
バウシュの作品は、ダンスというより演劇の要素が強く、舞台セット、演劇、ダンスが合わさって一つの総合芸術作品となっています。そのため、ダンス一つ一つは日常の人間の簡単な動作やしぐさが多く使われています。クラシック・バレエのような難易度の高い振付は一つもないです。でも出演ダンサーたちは皆、普段からダンスのトレーニングを積み上げて鍛え上げられてきたしっかりした体の人々ばかりで、作品は簡単な動作がほとんどでも、ダンサーはちゃんと鍛錬を積んでいるので、動きが安定していて安心感がありました。
ダンサーは、若い人から年老いた人まで、年齢、国籍、身長、体つきも様々でした。カーリーヘアーの、味のある演技をする女性はもうかなりの年齢だとお察ししますが、今でもこのダンスカンパニーで健在で出演していました。相変わらず、このカーリーヘアーの女性ダンサーは異彩を放っていて、出てきて佇んだだけで一際、目立っています。とても存在感がある女性です。
出演ダンサーたちは、その体全身から、それまでのそれぞれの人生経験を無言で語っているかのように、それぞれが個性的でした。それが面白かったです。皆、色んな人生を背負っている感じが現われていました。

ny1411a_0128.jpg

顔の表情だけで表現したり、泣いたり、叫んだり、大笑いしたり、悶えたり、苦しんだり、人間の感情を大げさにたくさん表現していました。大笑いしすぎて頭と髪を振り乱して、急にパタッと床に倒れたり、ネズミのようなものを男性が女性に投げ続けて、女性はものすごく大きな金切り声で絶叫して逃げ続けたりしました。
とても高いヒールを履いた女性たちが1人ずつ、舞台の対角線上に後ろのドアから出てきて、歩きにくそうにぎこちなく一歩一歩踏み出して、踏みしめながら顔をしかめたり無表情で歩き、連なって進み続けるところは、客席は大笑いしていました。
そのように、ところどころ、ジョークのように人を笑わせるシーンや仕掛けもたくさんあって、私も大笑いしました。
違う場面と動作が延々と、淡々と、一定の速度でずっと連なり続けました。その様子が、バウシュらしいです。独特なテンポ、空気がずっと流れるのです。一つ一つの動作のタイミングや長さが、全てピタッとはまっていて決まっているので、不思議とバランスよくまとまっています。このバウシュの間合いのセンスは絶妙です。動作がこれ以上長すぎても短すぎてもダメ、ちょうどピッタリのところで区切った動きがずっと続いていたので、タイミングの感覚が見事でした。これは生まれ持ったセンスの良さだと感心しました。

ny1411a_0103.jpg 「コンタクトホーフ」Photo (C) Julieta Cevantes

男女のペアが何組も同時に、からみあい向かい合って動き、求愛や愛情表現をしているかと思ったら、やがてそれが暴力へとだんだん変わっていって、しまいにはお互いの身体に交互にかみついたり、相手の毛を抜いたり、仕返ししたり、つねったり、足をヒールでふんづけたりしているシーンは、なんだか人間の悲哀を考えさせられてしまいました。
女性2人組(1人は前述のカーリーヘアーの女性)がシフォンのピンク色のフワフワのドレスを着てでてきて、蝶が舞っているかのようにフワフワしたメルヘンチックに踊ったシーンは、作品全体でこのシーンだけが浮いていて、味になっていました。ここでは2人は長く踊り続けていて、振付もダンスらしいものでした。面白い独特な振付です。
途中、舞台上にスクリーンがでてきて、そこに池と野生のアヒルたちのようなものが映っていました。アヒルの生態の様子を映した映画です。それを舞台上にイスを並べてダンサーたちが真剣に見つめて、“オ〜!”とため息をついて感嘆しているシーンは、客席は大笑いして受けていました。それまでの動きと演劇と踊りとのギャップも含めて、その映像のはさみ方がシュールでした。
舞台下手に設置された、子供用のような古い馬のおもちゃは、実際にコインを入れたら数分間動くものでした。作品全体を通じて、時々、この馬のおもちゃにまたがってコインをいれて動かす女性が、入れ替わり立ち替わり、出てきました。
最後のほうに、この馬を動かすためのコインを、前方のお客さんにダンサーがねだって、何枚かもらっていました。このシーンも面白かったです。
バウシュの作品の世界は個性的で独特で、長時間作品なのに時間を感じずに見入っていて、終わった後も不思議なフワフワした感触が残りました。楽しい作品です。
(2014年10月24日夜  BAM Howard Gilman Opera House)

ny1411a_0033.jpg ny1411a_0449.jpg
ny1411a_0476.jpg ny1411a_0580.jpg
「コンタクトホーフ」Photo (C) Julieta Cevantes (すべて)