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さまざまなダンススタイルがコラージュされたマーク・モリス小品集

Mostly Mozart 「モストリー・モーツアルト」
Mark Morris “Renard” “Festival Dance” “Socrates”
マーク・モリス振付『レナール』『フェスティヴァル・ダンス』『ソクラテス』
ny1109c03.jpg 『レナール』

毎年、リンカーンセンター主催で8月に、「モストリー・モーツアルト」というモーツァルトにゆかりのある音楽にちなんだフェスティバルが行われます。クラシック音楽のオーケストラやオペラ、ダンスカンパニーが招聘され、1ヶ月間たくさんの公演が行われます。今回、このフェスティバルに招聘されたダンスカンパニーはマーク・モリス・ダンス・グループの一つだけで、8月18日から20日まで公演が行われました。

マーク・モリスは、1980年に自身が率いるマーク・モリス・ダンス・グループを創立して、これまでに130以上のダンス作品を創作してきました。1988年から91年まで、ブリュッセルの国立モネ劇場の舞踊監督を務め、再びニューヨークに戻ってきました。ニューヨークで活躍する現役ダンサーたちの中には、彼のことを「天才」と言って尊敬しているダンサーもいます。
マーク・モリスは、振付家・芸術監督として地元ニューヨークでは絶大な人気を誇っているので、今回の公演チケットも早々にソールドアウトでした。

ny1109c02.jpg 『レナール』

今回の公演は、3つの小品集です。ストラヴィンスキーの『レナール』(ニューヨーク初演)、フンメルの“ピアノトリオ”を使った『フェスティバル・ダンス』、エリック・サティの『ソクラテス』です。
彼のカンパニーは、MMDGミュージック・アンサンブルという生演奏付きです。MMDGミュージック・アンサンブルは、マーク・モリス・ダンス・グループと共にパフォーマンスするために1996年に創立されまています。
今回は、テノールの男性歌手2名、バリトンの男性歌手2名、バスの男性歌手1名が生で歌いました。
マーク・モリスの作品の特徴は、アメリカらしい何でも色々な種類のダンスがてんこ盛りになっていて、しかも軽くて明るくて自由なところだと思います。クラシック・バレエ、モダンバレエ、コンテンポラリー・ダンスと古今東西の様々なダンススタイルが混ぜられ、折衷されていて、軽い感じでバランスがとれています。

1つめの作品、ストラヴィンスキーの音楽の『レナール』は、童話のようなストーリーでした。振付はダンスというより演劇の要素が強いものでした。衣装も現代的で斬新でした。動物たちが主人公で、FOX、COCK、CAT、GOATとそれぞれが上半身に着ているTシャツのようなものの前身ごろと後ろ身ごろにその文字が書いてありました。明るい色彩のかわいらしい衣装で子供服のようで、頭にはそれぞれ動物のかぶり物をして、尻尾もつけていました。
「キツネが雄鶏をだまし、ネコとヤギは雄鶏を救い、キツネは雄鶏をだまし、ネコとヤギはキツネを殺す」というお話です。
テンポが速く物語が次々に展開していき、ダンサーたちはほとんど表情と演劇で表現していて、スリルがありました。最後、キツネが殺されたときは大きなバッテン(バツ印)がついたメガネをかけて表現していました。

ny1109c01.jpg 『レナール』 ny1109c04.jpg 『レナール』
ny1109c05.jpg 『フェスティバルダンス』

2つ目の作品、『フェスティバルダンス』は、フンメルの音楽“ピアノトリオ”を使ったもので、今年3月初演の新しい作品です。アレグロ、アンダンテ、ロンドという3つの曲調で構成されていました。
男女のダンサーたちは全員裸足で、シンプルな衣装でした。男女ペアが1組から数組でてきたり、大勢で10名くらいで踊ったり、次々に細かいグループのダンスが少しずつ重なって入れ替わっていき、流れるような速さとなめらかさで展開し続けました。
ダンサーたちが会話するようなコミュニケーションがある振付で詩的でした。リフトも多用され、すべて音楽のリズムとメロディーにピッタリと合わせた振付で、音符の一つ一つの長さにダンサーたちの身体の動きが合っているのです。最近のコンテンポラリー・ダンスの振付には、音楽にリズムと身体の動きを全く合わせていないスタイルも多く、不協和音のような不快感を表現しているものもあります。そういう風潮の中で、このような音楽の良さを利用して音とピッタリ合っている踊りは、観ていて安心した気持ちで心地よかったです。そこに流れている美しい音楽にピッタリ合っている振付のほうが、観客に心の安定と安心を与えてくれると思います。
ダンサーたちも、顔の表情までとても豊かで良かったです。
この作品の中では2つめの曲調の“アンダンテ”の踊りが一番好きでした。男女のリフトでは、男性が女性を遠心力を使ってブンブン振り回したり、男性と女性でサポートの役目を交互に入れ替わって、繰り返したりしていました。

ny1109c06.jpg 『フェスティバルダンス』 ny1109c07.jpg 『フェスティバルダンス』

休憩をはさんで3つ目の作品、『ソクラテス』はエリック・サティの静かな曲です。
意表をつかれた振付に、特にビックリしてしまったところがありました。クラシック・バレエの2番ポジションでのグランプリエのまま、お尻を上下に数回ピョンピョンとバウンドして、表向き、1歩出して裏向き、また表向きと、そのグランプリエで数回バウンドというのを何度も繰り返して進んでいったのがおかしかったです。思わず笑ってしまいました。これは、バレエをやったことがある方が観ると余計におかしく面白く感じる場面です。
まさかクラシックのグランプリエをそこだけ妙な形で切り取って、格好悪くおかしくこんな風に使って振付けるなんて! 意外でした。例えると、重々しい油彩の古典絵画の一部分だけ切り取って、全く新しく現代彫刻の像の中にペタッとそのまま貼付けてコラージュして、ぜんぜん別の意味の作品に仕立てているような斬新な印象を受けました。マーク・モリスは発想が自由なのだなと感心させられ、ニューヨーカーには人気があるなと思いました。
(2011年8月18日夜、ローズ・シアター)