ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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皆様お元気ですか。ニューヨークは気温40度を記録したほど猛暑になりました。
この真夏の季節には毎年、リンカーンセンター・フェスティバルなど大きなフェスティバルが行われます。今回はこのフェスティバルについてレポートします。ABTの公演が7月9日まであったので、写真を掲載します。

ロシア風の素晴らしい色彩感覚が鮮やかだった『イワンと仔馬』

The Mariinsky Ballet マリインスキー・バレエ団
Alexei Ratmansky “The Little Humpbacked Horse”
アレクセイ・ラトマンスキー振付『イワンと仔馬』

毎年恒例のニューヨークのリンカーンセンター・フェスティバルが7月5日から8月14日まで行われています。今年は、バレエ・ダンスのジャンルとしては一つだけ、ロシアのマリインスキー・バレエ団が招聘されました。マリインスキー・バレエ団の公演は7月11日から16日までで、3種類の演目がメトロポリタン・オペラ・ハウス(MET)で上演されました。『アンナ・カレーニナ』『イワンと仔馬』『カルメン組曲』『シンフォニー・イン・C』の小品集です。
正統派で伝統のあるマリインスキー・バレエ団のニューヨーク公演は早々にソールドアウトになりました。

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私が観劇したのは7月12日夜の『イワンと仔馬』です。アレクセイ・ラトマンスキー振付、音楽はシチェドリン作曲、2009年初演です。もともとはロシアの民話、詩人エルショーフによる民話をもとに、アルチュール・サン=レオン振付、チェザーレ・プーニ作曲で1864年初演された作品です。舞台美術と衣装デザインはマクシム・イサーエフです。休憩をはさんで2幕で構成され、2時間半の作品でした。ダンサーたちは全員、とてもスタイルが良く、身体能力も高く、踊りも洗練されていてレベルが高かったです。

12日の配役は、イワンはウラジミール・シクリャローフ、仔馬はワシリー・トカチェンコ、2頭の馬はアンドレイ・エルマコフとカミーリ・ヤングラゾフ、雌馬はアナスタシア・ペトゥシコーワ、王様はアンドレイ・イワーノフ、王様の侍従はユーリ・スメカロフ、火の鳥のお姫様はヴィクトリア・テリョーシキナ、海のプリンセスはエカテリーナ・コンダウーロワなどです。

この公演で私がとても感心したのは、舞台セットと衣装デザインです。特にこの作品全体の美術・デザインのセンスの素晴らしさに感動しました。色使いが、中間色を絶妙にセンス良く組み合わせていて感心しました。その色の雰囲気はロシアの建築物っぽくて、ロシア独特の色彩感覚だと思いました。日本やアメリカや西ヨーロッパとはまた違う色の組み合わせが多かったです。地域ごとの色彩感覚は、天候と関係があると思います。

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クラシック・バレエなのに舞台セットはとてもシンプルで、ヴィヴィッドな色、赤や緑や黄の板状の簡単な形のものを少し配置しているだけでした。日本の美的感覚のようにミニマムなもので、詩的でした。現代的で簡素な舞台セットで、観客の想像力をふくらませることに成功していたと思います。
衣装も現代的なデザインでした。馬たち、仔馬の衣装は、全体にグレーっぽかったです。馬の色を、茶系ではなくて、全身グレー系を選んだところがロシアらしい色使いです。舞台セットや周りの登場人物たちの衣装の色とグレーで調和させているのです。
特に私が好きな衣装は、海の精たちと海のプリンセス、ジプシーたちのものでした。
ジプシーの衣装はゆったりとしたサイズで、前身ごろに大きな顔がうっすらとプリントアウトされていたので斬新でした。
海の精の衣装は、グリーンがかった鮮やかな水色で頭をすっぽり包んでそのままの長いスソまでつながっていて、前身ごろには肩のラインから逆さまに等身大の顔がうっすらプリントアウトされていました。この逆さの顔は、海の精が頭だけを水の上に出したときに水面に映る顔の様子を表現しているのだと思います。ゆったりとした衣装で効果的でした。その逆さの顔が全員の衣装にプリントされているので、ゆらめいているような踊りと合わさって、本当に海の中に住んでいる海の精のような感じがしていました。この振付はコンテンポラリーの要素も混ぜていました。ちなみにダンサーは男女で、男性も女性と同じ衣装を着ていました。
バレエ公演でも衣装と舞台セットでさらに全体の美術が完成するのだなと思いました。

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ストーリーは童話で、分かりやすい個性の役柄が配置されていて、子供でも楽しめるものでした。魔法が使える賢い仔馬、バカ扱いされるイワン(素直すぎて天真爛漫な子供)、背の低い間抜けな王様(はだかの王様のような役)、みんなの憧れの美しいお姫様などです。最後は童話らしい残酷な終わり方でのハッピーエンドです。
主人公のイワンと仔馬は全編、ずっと舞台に出っぱなしに近かったです。

最初に火の鳥たちが登場したときにイワンはその羽をもらいました。イワンは羽を持ちながら飛び回って元気いっぱいに踊りました。ここが、一番はじけて元気さと天真爛漫さがはじけている振付でした。
8名のジプシー男女の踊りは、ロシア帽をかぶっていてロシアのフォークダンス、ポルカのような踊りでした。ポルカ風でクラシック・バレエ・ベースの振付です。
仔馬のトカチェンコは、こぶしと腕で自分の耳や顔を掻くようなしぐさをして、仔馬を表していました。
王様に命じられてイワンと仔馬が火の鳥のお姫様を探して連れてくるシーンでは、彼ら2人が石のようになったお姫様を実際に抱えたまま移動する表現が、面白かったです。
火の鳥たちの中に一人、白っぽいドレスを着てティアラを着けたテリョーシキナのお姫様が出てきました。とても可憐で美しく、手足が長く、手の動きがとても優雅でした。最初はお姫様はイワンを怖がってスルリと逃げていたのですが、すっかり一目ぼれして何度も抱きついてくるイワンに、だんだんにまんざらでもない様子になっていき、最後は親しくなりました。イワンとお姫様のパ・ド・ドゥもあり、彼らに仔馬も加わって踊るところもありました。そしてお姫様は彼らに連れられていくことを了解したのでした。

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その後、先ほど書きました海の精の踊りが印象的でした。また王様に命じられて、海の底にある宝石をイワンと仔馬が探しに行ったのです。指輪を持って帰ってくると、王様に指輪だけ取られてイワンと仔馬は追い払われてしまいます。

王様と結婚したくないお姫様が「お湯に飛び込んだら若くハンサムになれる」とそそのかしたため、試しにイワンがお湯の中に落とされてしまいます。でも仔馬が魔法を使ってイワンに別の衣装を渡し、仔馬がその前で踊っている最中にイワンが着替えて王子様に変身しました。
それを観た王様がすぐに自分も若くハンサムになりたいと、そのお湯の中に飛び込みましたが、沈んだまま浮かんできませんでした。王様はお湯で煮えて死んでしまったのです。
イワンは新しい王様になり、イワンとお姫様は結婚することになりました。彼らのパ・ド・ドゥは一番の見せ場でした。楽しそうで嬉しそうな感じを表現していて、大胆で明るかったです。大ジャンプ、ピルエットなどの回転が多く出てきました。イワンはロシア風の振付でも踊り、空中で180度の大開脚をしたままジャンプしたところもでは、大歓声があがりました。
(2011年7月12日夜 メトロポリタン・オペラハウス)