ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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皆様こんにちは。日本も急に肌寒くなってきたそうですね。ニューヨークは朝夜は肌寒いです。いつも、日中は寒かったり暑くなったりを繰り返しながら、だんだんに寒い冬になっていきます。

雨が降りしきる大掛かりなセットで踊られたピナ・バウシュ『フルムーン』

Tanztheater Wuppertal Pina Bausch ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団
Pina Bausch “Vollmond”(Full Moon) ピナ・バウシュ『フルムーン』

ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団の『Vollmond』(Full Moon)(初演2006年5月)の公演が、9月29日から10月9日までBAM(Brooklyn Academy of Music)のHoward Gilman Opera Houseで行われました。昨年6月30日に、ピナ・バウシュは永眠しましたが、彼女の作品と意思は継がれていました。出演ダンサーは12名、振付はピナ・バウシュ。音楽はトム・ウェイツなど12名の様々な曲のオムニバスで、舞台セットデザインはピーター・パブスト、衣装はマリオン・スィートーです。
私もピナ・バウシュの大ファンで、今回の公演もとても楽しみにしていました。ニューヨークでも大人気のため、会場は満席でチケットはソールドアウトでした。

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満月の夜に繰り広げられている設定ですが、舞台上にはどこにも満月そのものは出ていません。舞台の背景の壁はすべて真っ黒で、闇夜に満月の明かりが照らされている様子を照明で表現していました。舞台上手側に巨大な岩が一つ、置かれています。
舞台セットは大掛かりなもので、第一幕の途中からずっと舞台上に雨が降っていて、床には大きな水たまりができ、舞台を左右に横ぎって流れる川のようになっていました。
休憩をはさんで第一幕、第二幕で、2時間半の作品ですが全く飽きることなく、舞台上の不思議な世界に引き込まれていました。

ダンサーたちは雨が降る中、ずぶ濡れになりながら恋愛、悲哀、人間ドラマを演じ続けました。ピナ・バウシュ独特の構成で、最初から最後まで一貫して同じ位のテンポの演技が続いていました。次々にシーンが入れ替わって続いき、一つの舞台上で2~3組の別々のシーンが少しずつ展開されて重なり続けました。
起承転結ではなくて、様々な人間模様とドラマが淡々と、まるで何でもないかのように、クールに次々に続くところが彼女の作品の良さだと思います。そしてそのそれぞれのドラマが続く速度が速くもなく遅くもなく、ちょうどバランスが良い速度なのです。
舞台上で通り過ぎていく一つ一つのストーリーはよく考えるとそれぞれ大事なドラマがあるのですが、それを取り出してドラマチックに仕上げるのではなくて淡々とつないでいるのです。そのため観客は深読みもできるしそれぞれドラマを垣間見て想像をふくらますこともできます。またはただボーっと無意識に流れをながめ続けることもできます。
ただ淡々と、前後のつながりのない別々のドラマをつないで続けていく様子は、「人間は毎日色々な喜怒哀楽があっても、それとは関係なしに心臓の鼓動はいつも同じ調子で淡々と動き続けている」というイメージに私の中では重なりました。
 

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ほとんどがダンスというよりは演劇の要素が強いのですが、演じている人たちはみんな鍛えられた肉体のダンサーでした。ダンスの振付が少なめで鍛えられたダンサーたちの肉体をマックスで使い切っていないところも、舞台全体の流れと同じく淡々としていて、それのせいで余裕が感じられて心地良い雰囲気になっているのだと思います。
途中、長い黒髪の小柄なオリエンタルの女性が2名、かなり長いソロのダンスをところどころで踊るのですが、その小柄さとエキゾチックな雰囲気と振付がとても合っています。
時々、セリフを言いながら独特な味をかもし出して通り過ぎるカーリーヘアーの年配の女性ダンサーは、一見ここに出演していなくても良いのではないかと思わせるような道化役なのですが、時々出てくるほうが空気が変わって面白いのです。個性的な味が出ていて、やはり彼女は欠かせないなと思いました。例えば、突然、売り子となってカゴを持って出てきたりしていました。また、ピンクのドレス姿で出てきて足を一歩踏み出すごとに床のその足の周りをチョークでお花型に描いて囲んで、そのままそれを右左右左と繰り返して進んでいった時は、客席は笑っていました。

男性たちが棒を床についきながら動き回っている時に突然雨の量が多くなり、舞台後ろ半分ではザーザー降りになっていました。これも絵になっていました。
岩の上にレインコートを着た男性が登ってきて座ってうつむきました。
土砂降りになった雨が、舞台後ろ半分には川のように大きな水たまりになっていって、そこに男性たちが1人ずつ、次々と平泳ぎで通り過ぎました。舞台上にできた水たまりで泳ぐなんて、すごい舞台装置です。その平泳ぎの男性たちの前でまた、オリエンタルの小柄な女性ダンサーがソロで踊り続けました。これもピナ・バウシュ独特の不思議な、個性的な動きの踊りです。
大きな岩の下にはトンネルのように低い穴が開いていて、そこを平泳ぎで水たまりを泳いで岩の下を通り抜けた人もいました。
男女ぺアが何組も出てきて通り過ぎて、さまざまなドラマ、絡み合いを演じていきました。
 

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第二幕の終わりのほうになってくると、だんだん電子音楽が激しく大きくなり、男性5人が大きなバケツやタライを持って出てきて、床の上にすごく大きくなった水たまりの水をすくって岩にずっとかけまくっり、すごい水しぶきでした。
そのままさらに演技やダンスの振付が続き、雨が更にだんだん激しくなり、その中で岩の周りで人々が踊り、誰かが岩の上に登って飛び降りたり、踊って通り過ぎたり続きました。音楽もどんどん大きくなっていきました。
2~3人ずつ次々とダンサーたちが走り回って、あばれて、踊ったりしながら通り過ぎていき続け、最後は全員が出てきて座って水浸しになり、大暴れで動き続けてそのまま大雨のまま、照明が消えて終わりました。
客席は大勢が立ち上がり、大きな拍手につつまれました。
(2010年10月2日夜、BAMのHoward Gilman Opera Houseにて)

Photos:(C)Julieta Cervantes
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