ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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皆様、こんにちは。日本でもワールドカップで連日盛り上がっていることでしょう。ニューヨークも暑くなってきました。 今はABTの公演期間中なので、レポートをお届けします。

ABTがノイマイヤーの『椿姫』をメトロポリタン・オペラ・ハウスで初演

American Ballet Theatre
アメリカン・バレエ・シアター
Jhon Neumeier "Lady of Camellias"
ジョン・ノイマイヤー振付『椿姫』

今シーズンのABTでは『椿姫』が初演されると聞いて、とても楽しみにしていました。オペラではなくバレエの『椿姫』はどんな作品なのだろう、と期待して観にいきました。
アレクサンドル・デュマの原作をベースにしたジョン・ノイマイヤー振付の作品で、照明コンセプトもジョン・ノイマイヤー自身によるものです。
ノイマイヤーらしい現代的な作品で、全体を通して演劇風、舞台上に複数のシーンが同時に平行して演出されていました。音楽はフレデリック・ショパンで、オーケストラとともにメインはピアノ曲でした。プロローグと3幕で構成されています。

高級娼婦マルグリッドにはジュリー・ケント、ブルジョワ階級の青年アルマンはロベルト・ボッレでした。ジュリー・ケントは元々とてもエレガントなダンサーなので、彼女が踊る娼婦役は上品な感じでした。ボッレは若々しくハンサムで、アルマンがとてもはまり役でした。
最初から幕が開いているプロローグでは、マルグリッドの死後、彼女の自宅でオークションが行われているシーンから、音楽なしで始まりました。踊りはなく演技のみ。ナニ―ナ(マルグリッドのメイド)が黒いマントを着て黄色っぽいカゴのスーツケースを持って登場し、真ん中のソファに座りました。次々に大勢の男性が入ってきて、家の中のものを運び出します。女性(シオマラ・レイエスなど)も2人入ってきて、部屋の中を見渡し、もう1人シルクハットの男性も入ってきました。みんな喪服のような全身黒の衣裳を着けています。

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アルマンが入ってきて、オークションの看板を見て泣き出しました。そしてマルグリッドの紫のドレスを手に、悲しそうに物思いにふけっていきました。
舞台後方が赤いカーテンになり、劇中劇(バレエ)が始まり別のシーンになりました。マルグリッドが生きていた時の回想シーンとして第1幕が始まります。スターのように華やかに紫のドレスで着飾ったマルグリッドが大勢の取り巻きの男性たちと登場し、劇場の席に着きました。その彼女の美しさに目を奪われたアルマンが、彼女を見つめてボーっとして近くの席に座りました。バレエ『マノン』を観劇しています。男性をさまざまに翻弄してきて息絶える悲劇のヒロインのマノン・レスコーに、マルグリッドが自分を重ね合わせます。アルマンはデ・グリューに自分を想います。劇中のマノン・レスコーはジリアン・マーフィー、デ・グリューのデヴィッド・ホールバーグとパ・ド・ドゥを踊りました。

マルグリッドは自宅に帰り、彼女の取り巻きのお客たちも数名入ってきました。みんなで踊ってしばらくして、マルグリッドが寝室にかけこみ咳こみます。病を抱えている様子で、大きな鏡を見つめています。そこにアルマンが入ってきました。マルグリッドはカウチにアルマンに座るようにすすめましたが、彼はふざけて床に倒れました。ここからがパ・ド・ドゥの始まりです。ケントがまず1人で踊り始めました。
少し悲しそうでロマンティックな演出でした。マルグリッドはアルマンに情熱的なアプローチを受けていました。2人はキスをして、マルグリッドはアルマンに椿の花を渡し、再会を約束して分かれました。

第二幕では場面が変わり、大勢の男女が出てきてペアで社交ダンスを踊っています。7組の男女が出てきました。マルグリッドのパトロン(公爵)の避暑のための別荘で、舞踏会です。舞台上の左端にグランドピアノが1台置かれていて生演奏です。そのピアノの後ろにゲスト役の加治屋百合子が立っています。
パ・ド・ドゥもありリフトも入れて、とても上手なダンスを披露しています。レイエスも加治屋も踊りました。みんな笑ったり、楽しそうに踊って遊んでいます。
公爵が現れて、ピアノの鍵盤をバーンとたたいて不協和音が鳴り響き、静まり返りました。アルマンとマルグリッドをにらみつけます。しかしマルグリッドはアルマンの手を離さずにいました。マルグリッドは公爵よりもアルマンを選んだのです。
そしてみんなが帰った後、アルマンとマルグリッドは2人になり、パ・ド・ドゥを踊ります。ケントは白いドレス。リフトが多く、宙を舞い続けているような軽やかな踊りでした。2人は何度もキスをして抱き合い、寄り添っているところで終わりました。
そこにメイドのナニ―ナがメモを持ってマルグリッドに何かを知らせに来て、彼女はアルマンを帰しました。アルマンの父親が来て、マルグリッドにアルマンと別れてほしいと頼みました。それを聞いたマルグリッドはショックで、彼に向かってとても激しいソロを踊りました。「嫌だ」と拒絶を表すような激しい踊りです。ケントはしばらくショックを受けていましたが、やがて受け入れた様子で落ち込んでいきます。
マルグリッドは1人になるとカウチに座り、しばらくしてソロで踊り始めました。そこにアルマンが戻ってきて、2人はまたキスをして楽しそうに踊ります。アルマンが帰った後、マルグリッドは悲しみのあまり倒れました。咳き込んでやつれています。

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やがてアルマンは、マルグリッドが手紙だけを残してパリに帰ったことを知ると、ショックと怒りでいっぱいになり、ボッレが激しくソロで踊りました。舞台後方に薄いスクリーンが現れて、そのスクリーンの向こう側にあるベッドの上で、マルグリッドと誰か他の男性が戯れる情景が現れました。アルマンがマルグリッドのパリの自宅に行って、彼女がもう別の誰かと抱き合っているのを知ってしまったのです。それはアルマンの妄想のようなシーンですが、アルマンの様子とマルグリッドの現在の様子を同時に同じ舞台上で表現していました。ボッレがその思いで苦しんで絶望しているところで第2幕が閉じました。

第3幕は、パリのシーンで始まります。シャンゼリゼ通りで偶然にアルマンと新しい彼女(オリンピア)がいるところに、マルグリッドが出くわしてしまいます。マルグリッドは驚いて手に持っていた白い椿を落としました。病が進んでさらにやつれている様子です。それをアルマンが拾って渡し、手の甲にキスをしました。別の男性がマルグリッドのところへやって来て、楽しそうに彼女をエスコートしました。オリンピアもアルマンに手を差し出しましたが、キスはせずに握っただけです。この様子で彼の心の中を表現しているようでした。
アルマンとマルグリッドはじっと見つめあいますが、それぞれのお相手に引っ張っていかれます。

アルマンはマルグリッドの前でわざと当てつけのようにオリンピアとエロティックに踊ります。このシーンの振付は特に現代風でした。クラシック・ベースなのですが、すごくエロティックな表現です。マルグリッドはショックで愕然としていました。マルグリッドも相手の男性と踊りますが、嫌そうな感じで我慢しながら踊って表現していました。
舞台の右端のほうに行き、アルマンはオリンピアの服を脱がして押し倒していました。このシーンで観客席では「まあ!なんてこと!」などとつぶやいて驚いている年配の女性たちがいたり、客席はどよめきました。今までのクラシック・バレエにはあまりないような過激なシーンでした。アルマンはオリンピアのことは愛していないので自己嫌悪に陥りました。

アルマンが自分の部屋で落ち込んでいると、マルグリッドがやってきました。マルグリッドは悲しそうな様子で、アルマンの侮辱がショックでたまらなくなっていたのです。アルマンは驚いて飛び上がって、一瞬ためらいましたが、近寄ってマルグリッドを抱きしめました。
ここからケントとボッレのパ・ド・ドゥです。
だんだん2人の踊りは情熱的に激しさを増していきました。2人は激しく踊り続け、マルグリッドは服を脱いで白い下着姿になり、ボッレと絡み合い、リフトで激しく振り回されたり、何度もキスをしていました。ソロで1人ずつ情熱的に踊り、また2人で近づいたり離れたりしながら踊り、抱きしめあいましたが、マルグリッドは我に返って1人で去っていきました。

舞踏会で、マルグリッドと公爵、アルマンとオリンピアがまた再会しました。見せつけるようにアルマンはオリンピアと踊ります。アルマンはマルグリッドに封筒を渡しました。その中には一晩代のお金が入っていたのです。

それ以来もう2人は会うことはなく、マルグリッドは家に戻ってきて病気が悪化し、日記を書き続けました。
マルグリッドは部屋で真っ赤なドレスに着替えて、再び『マノン』を観劇しに出かけます。でも彼女の病状はさらに悪くなっていて、その場で倒れかけて周りの人に抱えられてやっとでイスに座りました。劇中のマノンがデ・グリューに抱かれて息絶えていくシーンを見て、自分と重ね合わせて恍惚となっていました。
劇が終わる前にマルグリッドは家に帰り、舞台前方にさきほどの劇中の瀕死のマノンがデ・グリューに抱えられて踊っているシーンが幻で映り、マノンの幻がとうとう倒れて息絶えると、その上にマルグリッドも倒れました。
マルグリッドはやがて起き上がり、何かを日記に書いていましたが、とうとう息絶えてしまいました。

異なったシーンが重なり、マルグリッドの死後に競売で見つけた日記をアルマンが読んでいます。読みながら歩いてきて、真相を知ってショックを受けていました。マルグリッドを思い出し、天を見上げて、ピアノの悲しい曲が静かに鳴り続けて終わりました。
ショパンのピアノ曲がとても合っていて感動的でした。
(2010年6月5日夜 メトロポリタン・オペラ・ハウス)

Photo:Rosalie O'Connor
Photo:Gene Schiavone
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