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かつては『ウエスト・サイド・ストーリー』も踊ったエリオット・フェルドの実験的作品

Ballet Tech "Mandance Project"
バレエ・テック『マンダンス・プロジェクト』

 3月25日から4月5日まで、ジョイスシアターにて、バレエ・テックの「マンダンスプロジェクト」の公演が行われました。私は、3月25日のオープニング・ナイト・ガラ公演を観ました。

バレエ・テックは、こちらのコラムで何度か取材して取り上げたもので、ニューヨーク・ブルックリン出身の元ダンサーのエリオット・フェルド(Eliot Feld)が主宰しているものです。スクールと財団も付属してます。
すべての振付、芸術監督は、エリオット・フェルドです。フェルドは16歳でブロードウェイ・ミュージカルの『ウエスト・サイド・ストーリー』のキャストとして参加し、映画ヴァージョンではベイビー・ジョン役で出演しました。そして、1967年からABTや自分自身のカンパニーに140以上もの作品を振付けています。若い時期からダンサーと振付家として輝かしい成功を収めてきました。
後輩のダンサーたちの育成にも力を入れていて、バレエ・テックは財団と青少年のためのバレエスクールです。ダンサーの卵は奨学金制度で授業が受けられます。フェルドは素晴らしい社会貢献をしていると思います。

この公演は、男性のウーカン・チャン(Wu-Kang Chan)と、女性のハ・チ・ユー(Ha-Chi Yu)の2名の東洋人ダンサーにスポットライトを当てて、彼らが主役でした。

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『ラディアンス』は今回が初演で、ハ・チ・ユーのソロでした。彼女は東洋人ばなれしてとてもスタイルが良く、舞台で映えるダンサーです。
リズムがほとんどない音楽で、振付はわざと実験的にそうしたのかどうか、足はほとんど開脚せずにずっと上半身と手や腕ばかりを使って踊っていて、最初から最後まで同じようなテンションと動きでした。4拍子の1,2拍目で動いて、3,4拍目で止まってためているような動きがずっとえんえんと続きました。カクカクした感じの動きの振付でしたので、なめらかで流れる振付とは対照的な作品でした。途中、2回だけ、足を上に上げて180度開脚の状態でしばらく静止したところなどもありました。

次の『プロヴァーブ』はウーカン・チャンのソロで、2004年初演の作品です。これは以前、同じレポートをこちらのコラムに書いたことがあるので、詳細は省略いたします。彼がベージュのパンツ一枚で上半身裸で出てきて、両手の平に2個ずつ電球をつけています。舞台は真っ暗でほとんど照明はなく、彼が両手の平につけた電球を自分の身体に向けて光を当てたり、客席に向けたり、舞台後方の壁に当てたりしながら踊ります。とても美しい作品です。

オープニング・アクトだけ、『ザ・バレエ・テック・スクール・デモンストレーション』として、バレエ・テック・スクールの生徒たちが普段の黒いレオタード姿でたくさん登場しました。6歳くらいからのチビッ子たちが中心でした。ほとんどが小学生くらいで、中学生がすこし混じっていました。みんな並んで、1番ポジションでアンオウして手の動きを見せたあと、5番ポジションでシャンディマンをして、ルルベとピケを繰り返したりしていました。そしてだんだん、パッセしたままルルベでバランスをとったり、ピルエットもしていました。上級生たちも後からでてきて、トリプル・シャンディマンを繰り返してピルエット4回転を何度か披露したところでは、大拍手が起こりました。みんな楽しそうに生き生きしていて、とても可愛らしかったです。

第二幕は、今回初演の『ザ・スパゲッティー・ダンス』で、ハ・チ・ユーが主役でした。他、6名もでていました。演劇かミュージカルのような、ストーリー展開がある、とても実験的な作品でした。しかしそのお話しは全体に脈略がなくて、いろいろな話がごちゃ混ぜになっているような感じで、長い作品でした。
出演者たちが何度も舞台上で下着姿になって着替えているところを見せたり、盲目の少女とか電気イスとか世間でタブーとされているテーマを色々と入れていました。舞台セットも大掛かりでした。ダンスを披露する要素は少なかったです。これも、おそらく、実験的な新しい作品を作ろうという努力だろうと思います。

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次の『ダスト』も初演で、ウーカン・チャンのソロでした。これも、ダンスというよりは、大掛かりな舞台セットを使った実験的作品だと思います。踊りの要素はひとつもなかったように見えました。これもダンスなのでしょうか? 
コンテンポラリー・ダンスには、ダンスとはかけはなれたように見える作品も多く見受けられますね。観客を驚かす目的とか、不快な気持ちにさせる目的で作られた作品も多く目にします。この作品でも、途中で席を立って帰っていった人が何人もいました。アメリカ人は、観劇中でもつまらないと感じたらすぐに席を立って帰ります。私の感想は、これはダンス作品と思って観ないほうがいい、これは驚かすためのショーだと思ってみたら納得する、ということです。
舞台上には舞台いっぱいに、上下左右を天井まで全部、網で囲んで、蚊帳のようにしてあり、その地面にはものすごくたくさんの切り刻まれた新聞が敷き詰められていました。そして舞台左右には前後2列ずつ、20台ずつくらい合計40台くらいの巨大な扇風機が置かれていました。ダンサーは一人でパンツ1枚で蚊帳の中に入り、じっとしていました。そして舞台いっぱいの新聞紙の切れ端を歩いていっては抱えて、真ん中に持ってきて下ろすという動作を延々と、しかもゆっくりゆっくりと動いてくりかえしました。ものすごくゆっくり動いて繰り返し続けました。ここ でまず席を立った人が続出でした。
次に、ウ~ンというサイレンのような音がなり続けると、それは扇風機たちの騒音で、いっせいに扇風機がつけられて、舞台上の新聞紙の切れ端は2つの円を描いて舞い上がり続けました。そのすさまじい風圧の中、舞台上のダンサーは、寝転がったり、壁に張付いたり、真ん中に来たり、それをものすごくゆっくりと歩いてくり返し、その度に、だんだんダンサーの足とか腕のすき間に紙の切れ端が束になって風圧ではさまってきたり、取れたりしていました。中で逆立ちもしている様子でした。ゴミでダンサーはほとんど見えません。
ずっと、いつになったら踊りが始まるのかな、これで終わりではないでしょう?と思って観続けましたが、これが延々と続いて、電気が消えて終わりました。
ですからこれは、いわゆるダンス作品ではないです。客席の人々の感情を動かすための、非日常のショーです。大掛かりなショーとして観れば、面白かったです。
(2009年3月25日夜 ジョイスシアター)