ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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リンカーンセンター・フェスティバルの公演から~その1

 毎年恒例の、リンカーンセンター・フェスティバルが、7月10日から30日まで行われました。その中のダンス公演で、まず今月は3つのレポートを報告いたします。

スターブ・エキストリーム・アクション

 スターブ・エキストリーム・アクションの『スターブ VS グラヴィティー』の公演がありました。エリザベス・スターブが率いるダンスカンパニーで、振付、芸術監督は彼女がすべてやっています。彼女は20年以上にわたって振付や作品の発表を続け、数々の賞を受賞しています。ニューヨークで作品を発表し始めたのは1976年からです。

 作品は、ダンスというよりも、音楽を使った体操やスポーツのようなアクションかスタントものでした。ダンサーたちの体つきも、体操選手のような筋肉の付き方です。ダンスと一口に言っても、色々なものがあるのだなあと改めて認識しました。バレエが好きな人はこのカンパニーは好みではないと思いますが、真新しいダンスを観たい人はきっと気に入ると思います。

大きなビデオのスクリーンを使って、ダンサーの動きを客席とは違う方向から同時に映し出したり、録画の映像を映したり、ニューメディアをダンスにミックスしていました。逆さづりになってぐるぐる回ったり、分厚いマットレスの上で体操のような側転やバック宙を繰り返したり、綱渡りや空中ブランコのようなものもありました。大がかりな器具を使ったものもいくつかあり、巨大な半円のシーソーのようなものの上にダンサー達が上って、大きく揺れながら上で数々の動きをしていました。また、宙に浮いて固定されている、回転している巨大な車輪の中や上で、ダンサー達が動いてサーカスのようなことをしていました。スリル満点の公演でした。

エマニュエル・ガット・ダンス

 イスラエルからの招聘で、エマニュエル・ガット・ダンスの『ウィンター・ボヤージ』と『リング・オブ・スプリング』の公演がありました。エマニュエルは1969年、イスラエル生まれです。今回の公演は、エマニュエル本人も含めて全部で5人のダンサーたちが出演していました。

『ウィンター・ボヤージ』は、最初は音無しで始まり、2人のスキンヘッドの男性たちが、長いロングドレスのコートのようなものを着て、2人で走ったり止まったりしながら、同じ振付で踊りました。リズムは一定ではなく、速くなったり遅くなったり、メリハリがありました。そしてシューベルトのピアノ曲が始まりましたが、リズムは一定ではない難しいものでした。振付と音を合わせるのが大変だっただろうと思います。音が静かになると振付も止まったり静かになり、音が激しくなってくると振付も激しくなり、走り回ったりしていました。面白い振付で、何か物語がありそうな感じでした。

『リング・オブ・スプリング』は、女性も出てきました。全部で5人のダンサーたちで、照明をうまく使っていました。一部分だけ赤いスポットライトを当てて他を暗くしたり、全体にライトをつけたり、交互に使っていました。音楽はストラヴィンスキーです。全体に、メリハリがあり、詩的な振付で、とても面白かったです。



勅使川原三郎の『Bones in Pages』

 日本から招聘されて、現在、世界で注目されていて活躍中の、勅使川原三郎の、『Bones in Pages』の公演がありました。私も、今回特にこの公演を観るのをとても楽しみにしていました。

 勅使川原三郎は、81年に彫刻とクラシック・バレエの勉強を終えた後、本格的に東京で踊りの活動を始めました。85年、宮田佳と共にカンパニーKARASを設立し、それから毎年、世界各地や国際的な芸術フェスティバルに招かれ公演しています。バレエの真似でもなく、日本の伝統や舞踏とも違った、彼独特の新しい方向性を持った振付家として絶賛されています。オペラ座バレエ団にレパートリー作品を創作した最初の日本人です。

 1時間以内のとても短い作品で、舞台上はほとんど勅使川原のソロと、カラスが1匹出ていました。舞台の手前は薄い幕で覆われ、透けて見える形になっていました。おそらく、カラスが舞台上に脱走しないようにしているのでしょう。舞台左側の壁は、開かれた本が貼り付けられ、それで埋め尽くされていました。舞台右側は、たくさんの男物の靴で埋め尽くされていました。きれいに整列されて並べられていました。舞台前方には、2つに真ん中で割られた丸いテーブルが、真ん中にガラスの壁を付けられて向かい合わせに並べられていました。

 彼の動きは、舞踏のような身体を硬直させたような感じや、手だけとか足だけとか、独特なリズムの無い動きをしていて、不思議な感じでした。ダンスというより、自由な身体の表現で、彼が動くと、身体から何かエネルギーや気持ちなど高まったものを放出しているように見えました。衣装も上下黒づくめで色が抑えられていたので、余計に彼の動きだけが目立って目に入ってきました。音楽のリズムも一定でなく、動きは音楽と合っていたので、振付はあったのだろうと思いますが、観ている方は、彼の動きは即興なのではないかと感じるような、自由な不思議な動きでした。突然音楽が止まって、彼が左側の壁に立ち、そこだけがスポットライトが当たっていた時は、あまりにも彼がそのままじっと動かずに止まっている状態が続き、観客は「彼はまだ動かないのかな、もうすぐ動くのかな」とそわそわと考え始めてもまだ動かずにじっとしていたままでした。この時は、客席の人々は、どうリアクションしてよいのか分からなくなってそのままじっと不快なまま舞台を見つめている様子でした。沈黙と静止を長時間振付に加えるという発想は、「ダンスというものは身体を動かすものだ」という常識を逆手に取って観客を混乱させるという、新しい発想だと思いました。引き算の作業ですね。

 1匹のカラスも彼に誘導されて振付の背景の一部として動いているような、アクセントになっていました。途中、2人の女性ダンサーたちも出てきました。混乱と不快感と不思議を味わったような、面白い、どこか心にひっかかる公演でした。芸術的だと思いました。