ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.03.10]

サドラーズ・ウェルズ・サンプルド:サドラーズの新しい試み

 2月2日から4日までの3日間、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で、「Sadler’s Wells Sampled」と銘打った特別なプログラムが上演された。
プレス・リリースによると今回の様式は、ニュー・ヨークのシティ・センターで毎年催される「Fall for Dance」を参考にしたとのこと。各日、2月から春先までサドラーズ・ウェルズ劇場、及びピーコック・シアターでの上演が予定されている様々なパフォー ミング・アーツをいろいろと紹介する、というもの。パリ公演の初日を数日後に控えていたアメリカン・バレエ・シアターからもアンヘル・コレーラとジリア ン・マーフィーが参加し、『白鳥の湖』の第3幕の黒鳥のパ・ド・ドゥで観客から盛大な喝采を受けたそうだ。


プログラムのオフィシャルフォト

フラメンコのエヴェ・イェルバボエナ


 サドラーズは、純粋なバレエやダンスだけを取り上げることに特化しているわけではないので、今回のように異なる演目が並ぶと、普通だったら観にいくこと すら考えないであろうパフォーマンスに接して、新たな魅力を発見できる楽しさがあった。反面、不得手な分野がさらにお近づきになりたくない、という危険性 もはらんでいる。筆者にとって前者の好例は、タップ・ダンスのジェイソン・サミュエルズ・スミス。後者は、イスラエル出身のホーフェシュ・シェヒ ター(Hofesh Shechter)が振付けた、『Uprising』。コンテンポラリーの世界では有望だそうだが、踊りですらなかった。さらにに、コンテンポラリーに携 わる振付家、ダンサーは、ダンスという表現手段は、悲しみと苦悩しか表現できないとでも思い込んでいるのではないかと危惧してしまう。観ている側が、思わ ず舞台に駆け上がり、表現する喜びを分かち合いたいという衝動に駆られるような、幸福感に溢れたコンテンポラリー・ダンスを観たいものだ。

 オムニバス形式で進む舞台は、演目と演目の間に進行役をつとめる人物がいた。初日は、サドラーズのアソシエイト・アーティストのJonzi Dが通常のサドラーズでは見る機会の少ない舞台側と観客の一体感を巧みに引き出していた。
このプログラムをいっそうユニークなもの、またサドラーズ・ウェルズ劇場の新しい試みへの積極的な姿勢と思えた点が二つ有る。まず、このプログラム自体 が、「PlayStation Season」という6ヶ月に及ぶ企画の一環で、劇場内部の数箇所にプレイステイションを使った企画が設けられていた。例えば、最新の手に持つタイプのプ レイステイションの画面に表示されるステップを真似て、観客が劇場内のバーや、オープン・スペースで踊るといったもの。

「Uprising」

 


ランベールの『スワンプ』のイメージ
  二点目は、今回のプログラムに参加したカンパニーやパフォーマーによる観客参加型のワークショップが催されたこと。参加は無料だが、本公演のチケット (10ポンド)を購入するのが条件。イングリッシュ・ナショナル・バレエによるバレエ・クラス、「JUMP」の出演者によるテコンドー、ロイヤル・バレエ の常任振付家に任命されたウェイン・マックグレガーが主催するランダム・ダンスや、ランベールによるコンテンポラリー・ダンスのワークショップなど。ワー クショップに参加することで、観る側のそれぞれのパフォーマンスへの理解を深める機会になったように思う。
チケットが、10ポンドということもあって、3日間ともほぼ完売だったようだ。このプログラムが今後も続くかどうかは今の時点では発表されていない。仮 に続くとすれば、構成に関しては、変更されるべき点がいくつかあると思う。しかしながら、このような新しい企画を次々と発表するサドラーズ・ウェルズ劇場 は、新たな変貌の時代を迎えているようだ。