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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.02.11]

英国スタイルが蘇った舞台『スケートをする人々』

  1月8日、『スケートをする人々』と『ベアトリクス・ポターの世界』最終日を観る。

 

『スケートをする人々』は、ロイヤル・バレエ団創設時の振付家サー・フレデリック・アシュトンによる1937年振付作品である。
今も上演されるアシュトン卿の当時の作品としては『ファサード』(31年)、『レ・ランデブー』(33年)と共に、最も初期の物である。

幕が開くとそこは古き良き時代のイギリス。
上流階級の令嬢、子息の若者たちが、色とりどりのランタンの明かりが灯る真白き氷上でスケートに興じている。
グループでスケートを楽しむブラウン・ガール、ブラウン・ボーイ、高速スピンを見せる超絶技巧のスケーター、ブルー・ボーイと2人のおしゃまなブルー・ガールの3人組、ロマンティックなホワイト・カップル。

 

時に氷上で転んでしまおうとも、それは上流階級の令嬢たちのこと。まるで「ごめんあそばせ」とでもいう言葉が聞こえてきそうなほどに、失態をクールに取り繕う姿が観客の笑いを誘う。

 

(c) Angela Kase (c) Angela Kase

 

テクニックと体のコントロールが要求されるブルー・ボーイやブルー・ガール役は、技巧に秀でた日本人ダンサーによく似合うことから、ロイヤル・バレエ時 代の熊川哲也は『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルと共に、この作品のブルー・ボーイを当たり役としたし、吉田都も良くブルー・ガールに配役された。
また若者たちが主人公であるこの作品は、バレエ・スクールの生徒たちによって踊られることも多い。
今回この作品でブルー・ボーイに抜擢され話題になったバレエ団の新星スティーブン・マックレーは、スクール在学中にバーミンガムでのガラ公演で同役を披露している。

30分弱のこの小品は、見ている観客の目にこそ楽しく映るが、ダンサーにとっては個々の品性と音楽性、技巧を大いに問われる作品である。

 

特に群舞のブラウンには、男女が向き合って互いの手を取り見つめあいながら小さくジャンプし、つま先を打つステップ、男性には難易度の高いリフトもあり、一時たりとも気をぬくことが許されない。

 

私が観た最終日は、ブラウン、ブルー、ホワイトの全ダンサーが、アシュトンのスタイルを見事に体現しており、大いに感心させられた。

 

(c) Angela Kase
(c) Angela Kase  

 

ヨーロッパの冬、鉛色の空に疲れた観客たちは、群舞のブラウンから、ブルーの3人組マルティン、ラム、ガリアッツィの一人一人が発散する快活さや若さの 華やぎに大いに元気付けられたし、マーゴ・フォンティーンを髣髴とさせる品格と優美さをもって、ロマンティックなパ・ド・ドゥを踊ったホワイト・カップル のアンサネッリに、しばしの夢を見せてもらったのである。

  ロイヤル・バレエは、長いこと芸術監督として腕をふるったアントニー・ダウエル勇退後、外部の芸術監督を迎え試行錯誤した時代があった。バレエ団には付属 のバレエ・スクールでの教育を受けたことの無い外国人ダンサーが増え、マクミランやアシュトン作品を踊っても群舞や中堅のダンサーがロイヤル・スタイルを 体現することができなくなっていた。

 

それがどうだろう、モニカ・メイソンが芸術監督を引き継いで5シーズン目の今、バレエ団の群舞からソリスト、プリンシパルに到るまでが、英国ロイヤル・スタイルを再び魅力的に表現できるように蘇り、関係者を大いに安堵させた。

 

(c) Angela Kase (c) Angela Kase (c) Angela Kase