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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2010.04.12]

バーミンガム移転20周年記念公演は華やかに、ライト、ビントレー他の傑作の数々を上演

The Birmingham Royal Ballet
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
A Celebration of 20 Years in Birmingham
バーミンガム移転20周年記念公演

バーミンガム・ロイヤル・バレエは旧称をサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団といい、イギリスに2つあるロイヤル・バレエ団のうち、主として国内の地方都市で公演を行うツアー・カンパニーであった。
1990年にイギリス第二の都市バーミンガムに誘致され、名称を改め今年で20年周年。その節目を祝うガラ公演が3月9、 10日に本拠地であるバーミンガム・ヒポドローム劇場で行われた。
 
初日の9日、劇場に足を踏み入れると、場内にたくさんのフラットスクリーンが設置されている。バレエ団の歴史と歩み、ヒポドローム劇場が今も誇るダンサーのための最新設備、移転後の活動までが映像で詳しく紹介するためであった。
公演が始ると20年前、特別列車にバレエ団幹部とダンサーを乗せてバーミンガムに移転した際の映像が映し出された。車内ではイギリス・バレエの母、マダムこと故ニネッタ・ド・ヴァロワがインタビューされている。マダムは語る「私はね、元々このバレエ団はバーミンガムをベースにすると良いのではないか、とずいぶん早いうちから考えていたのよ」と。

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移転当時の芸術監督ピータ・ライト卿、ライト卿勇退後その座を引き継いだデイヴィッド・ビントレーのインタビュー。
映像と共にバレエ団ゆかりの演目の抜粋が披露された。ガラの演目は公演の幕開け作品は、ビントレーの『オルフェ組曲』より、若きオルフェとその父である芸術の神アポロを中心に男性群舞が入り乱れて妙技を披露する冒頭シーン。
ギリシャ神話を元に、だがビントレーの想像力は、芸術の神アポロを黒人ジャズ・ミュージシャンにしてバンドリーダーのデューク・エリントンにみたて、白い燕尾服姿のアポロと、黒いタキシードに白い蝶ネクタイの男性群舞が、ジャズ音楽をバックに狂ったようにサキソフォンを吹き鳴らす身振りを見せる。
アポロ役のマシュー・ローレンス、オルフェのロバート・パーカーと共に、群舞のジョゼフ・ケイリー、アーロン・ロビソン、ジェイムス・バートンらが素晴らしい跳躍や旋回の美技を披露し音楽性を奮う大熱演。作品と踊り手が一体となってかもし出す熱狂と陶酔は、ヒポドローム劇場に集った観客の心を鷲づかみにし、ガラはその始まりからたいへんな熱気につつまれたのであった。

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続いてピーラー・ライト振付BRB版『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥを踊ったのはゲイリーン・カマフィールドとイアン・マッケイ。
マッケイは2年前にバレエ団を離れスペインに居を移し、アンヘル・コレーラ率いるコレーラ・バレエ団に移籍。アンヘルの姉でバレエ団プリンシパルと副芸術監督を兼任する長身のカルメン・コレーラのパートナーとして活躍していた。
昨年9月、ビントレー振付『シラノ』の再演にあたり一時的にバレエ団に戻り客演。長身で古典からネオクラシック、ビントレー作品までを踊りこなす芸域の広さ、パートナーリングの巧みさ、人柄の良い彼の復帰はバレエ団にもバレエ・ファンにも大歓迎され、今年2月正式にバレエ団に戻ることになった。
長身のカマフィールドとマッケイは身体的な相性も良く充実のパフォーマンス。完全復帰後のマッケイは踊る喜びにあふれ、円熟したアーティストとして今後の活躍がますます期待される。

ガラにはロイヤル・バレエ・スクール(RBS)とBRBの付属校であるエルムハースト・バレエ・スクールの選抜生徒たちも出演した。
RBSからは、昨年YBDY(ヤング・ブリティッシュ・ダンサー・オブ・ザ・イヤー)第1位受賞のヤスミン・ナグディがパートナーのサンダー・ブロマートとマクミランの『コンチェルト』の第2楽章を、エルムハーストからは今年ローザンヌ国際バレエ・コンクールでスカラシップ賞受賞の男子ルイス・ターナーを含むグループが作品を披露しガラに花を添えた。

演目の合間に紹介される映像でビントレーはバレエ団の人気ダンサーの多くが、現在指導者として活躍していることを紹介。その後、長らくプリンシパルをつとめ今ではバレエ・マスターになっているマイケル・オヘアの現役時にチャーミングなオヘアを主役にビントレーが振付た『ホブソンの選択』が上演された。往年の人気ダンサーのスペシャル・パフォーマンスに古くからのファンは大喜び。

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ガラ公演は2日間3公演行われ、同じ演目を初日と2日目に一部異なる配役で披露され、2日目の3月10日の夜にはチャールズ皇太子ご夫妻がご臨席になられた。

佐久間奈緒と曹馳(ツァオ・チ)は私が観た初日は第1部に『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥで第1部を、『テーマとバリエーション』で第2部およびガラを締めくくった。
98年米ジャクソン・コンクール特別賞受賞の佐久間と98年ヴァルナ金賞の曹馳は初期より古典作品を踊らせてバレエ団最高と言われたペア。
20代初めより女優バレリーナとして『ジゼル』やビントレー振付『アーサー王パートII』のグィネヴィア姫役で観客の紅涙を絞らせていた佐久間に対して、曹馳は若いころは技巧への関心が高く、演技に開眼したのは5年ほど前のこと。映画『毛沢東のバレエ・ダンサー』主演の1年ほど前から演技の勉強に励み、見事に習得してアーティストとして円熟した。
9日午後のゲネプロで佐久間、曹馳の2人が『2羽の鳩』を踊ると観客席にいた関係者や仲間の踊り手たちは2人の紡ぎだす世界に言葉を失って観入り、パ・ド・ドゥが終わると同時に2人に惜しみない拍手が贈られた。
ガラ初日の第1部は、バルコニーで初恋に胸を躍らせる佐久間のジュリエットと悲恋の予感を胸に、だがジュリエットにこがれる心を抑えられない貴公子ロミオを演じ踊る、曹馳の演舞で幕となった。
長くバレエ団とダンサー、ライト卿やビントレーを応援してきたファンにとって珠玉のバレエ小品とトップダンサーの名人芸は何よりの贈り物。佐久間と曹馳の好演は観客を感動とその余韻で包んだのであった。

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第2部では『美女と野獣』のパ・ド・ドゥをエリーシャ・ウィリスとイアン・マッケイが、 『アラジン』を「音楽とダンスの夕べ」に続いて平田桃子とアレクサンダー・キャンベルが踊ったほか、『2羽の鳩』あり、バレエ団団員キット・ホルダー振付作品『プリンター・ジャム』が若手のクリスティン・マクガリティーとジョゼフ・ケイリーによって踊られ、佐久間が群舞を従えた『テーマとバリエーション』で幕となった。
デイヴィッド・ビントレーが会場に集った観客のサポートに感謝するスピーチも心温まる物で、ガラは大成功理にその幕を下ろした。

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(2010年3月9日 バーミンガム・ヒポドローム劇場。写真は9日午後の最終ドレス・リハーサルにて撮影。一部初日の舞台と撮影キャストが異なります)

撮影:Angela Kase
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