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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2010.02.10]

崔由姫、小林ひかる、高田茜、平野亮一などが大いに活躍

The Royal Ballet
英国ロイヤル・バレエ
Sir Frederick Ashton : Les Patineurs, Tales of Beatrix Potter
サー・フレデリック・アシュトン振付『スケートをする人々』『ベアトリクス・ポターの世界』

この冬、ヨーロッパは厳しい寒波にみまわれ、ロンドンはクリスマス直前の12月22日頃まで雪の日が続いた。メキシコ湾暖流のおかげで、冬もさほど寒くないイギリスで毎日雪が降るというのはとても稀なこと。子供たちは家の庭や公園で雪だるまを作るなどして大はしゃぎ。
だが、その一方で交通網が打撃を受け移動に信じがたい時間がかかったり、凍りついた歩道で転び怪我をする者も続出。流通が途切れたためにスーパーから野菜などの生鮮食料品がほとんどなくなってしまったこともあった。また主要空港の閉鎖や連日のユーロスター不通のため、予定通り冬休みを海外で過ごすことが出来なくなったり、帰省できず涙する者も多かった。

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いつになく寒さが厳しいこの冬にロイヤル・バレエがリバイバル上演したのが『スケートをする人々』と『ベアトリクス・ポターの世界』。12月11日には一般上演初日に先立って、就学児童を招いての特別上演会が催され、初日は12月14日。その後1月13日までの1カ月に12公演が行われた。
『ベアトリクス・ポターの世界』は日本でもK バレエ カンパニーが昨年『バレエ ピーターラビットと仲間たち』として上演したのでご覧になった方も多いことだろう。
ピーター・ラビットやカエルのジェレミー・フィッシャー氏、リスのナトキンなど、ベアトリクス・ポター原作の絵本でお馴染の動物たちが主人公の着ぐるみバレエである。
ヨーロッパでも動物愛護運動が最も盛んなことで知られるイギリスでは、元はこの作品の観客はほとんど大人であったのだが、前回のリバイバル上演中に作品がBBCで放映され、お茶の間の老若男女の間で話題になったことから、この冬は夜の公演でも家族客が目立った。

バレエを年に一度観るか観ないかの家族客に対して、同じ作品をくりかえし観るバレエ・ファンにとっては、お気に入りのダンサーの顔や体が着ぐるみで隠れてしまう『ベアトリクス・ポターの世界』よりも『スケートをする人々』のほうが気になるものだ。
『スケートをする人々』は、今回5配役。日本出身のダンサーも多くキャストされ、それぞれのキャストが非常に魅力的であった。

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チケット売り出し当初は、ファースト・キャストのホワイト・カップル男性に佐々木陽平、ファースト・キャスト以外でも、華やかなスケート技術を見せるブルー・ガールに崔由姫と高田茜、ホワイト・カップルの男性を平野亮一が踊るとの発表があり、ロンドンや近郊在住の日本人バレエ・ファンを喜ばせた。
一般ファンに最も人気が高かったのは、長い怪我から復帰したサラ・ラムと、今シーズン、プリンシパル昇進を遂げたバレエ団の若きホープ、スティーブン・マックレーが踊る予定のファースト・キャスト。ラムはロマンティックなホワイト・カップルの女性、マックレーは超絶技巧を披露するブルー・ボーイを踊る予定で、この配役の3公演(12月14日、1月6、13日)は、チケット売り出し当初から人気であった。
その後配役に変更が生じ、アシュトン作品を得意とする佐々木陽平の名前が消え、ファンをがっかりさせたのだが、マックレーについては1月9日も踊ることになり公演数が増えた。

1月に入っても寒さは緩まず、ロンドンは1月6日に、再び朝から大雪に見舞われた。この頃になって、やっと雪と共生することに慣れつつあったロンドンや近郊のバレエ・ファンの多くは、マックレーのパフォーマンスを楽しみに、悪天候の中ROH(ロイヤル・オペラ・ハウス)に足を運んだ。ところがそのマックレーがブルー・ボーイを降板。先シーズンから好調の波にのるブライアン・マロニーが代役に立った。
筆者が日本の読者にペネファーザー、ラム、マックレーによる公演をレポートすべくROH入りしたのは、ゲネプロ撮影からちょうど1ヵ月後にあたる1月9日土曜日。雪こそ降らなかったが、しんしんとした底冷えのする真冬の夜のことであった。

バレエ団は新シーズン初めから『マイヤリング うたかたの恋』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』とソリストを多数必要とする全幕作品を立て続けに上演した。それら全幕公演と新年から上演予定の『ロミオとジュリエット』のリハーサル疲れから怪我をするダンサーが多く、この日も公演直前に配られる配役変更を知らせる用紙にたくさんのダンサーの名前が記され、劇場に集まった者を一喜一憂させた。
この日もマックレーはブルー・ボーイを降板、6日に続いてブライアン・マロニーが踊った。私に配役変更の紙をくれたROHの若い男性スタッフは、相当ダンサーのゴシップに詳しい様子で、私をはじめとする観客に、さかんにマックレー降板を嘆いていた。
私が降板の理由を尋ねると、怪我や病気ではなく故郷のオーストラリアから前日の夜か当日の夜帰って来る予定だったが、主演公演に間に合わなかったのだ、という。何やら判然としない降板理由だが、怪我でも病気でもないことがファンの多くに「最終日13日にはマックレーが観られるかもしれない」という一縷の希望を抱かせた。

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当日、筆者にとって嬉しい配役変更は、ブルー・ガールに崔由姫と高田茜という日本出身のバレリーナが揃ったことであった。当初この2人は別々の日に踊る予定が、ヘレン・クローフォードの怪我により高田が代役に立ち実現した顔合わせであった。。
この作品ではブルー・ボーイとブルー・ガール2人が、スケートの数々の技巧をバレエのテクニックを駆使して表現する。
マロニーが四肢を存分に広げて美しいグラン・ジュテ他の跳躍や少年らしく勢いのあるフェッテを見せれば、崔はビクトリア時代の上流階級の淑女らしくポアントでエレガントにフェッテを披露し、軽やかなグラン・ジュテで下手に消える。高田は左右にポアントでのパンシェ・アラベスクをシャープにかつ艶やかにきめる。急な配役であったことから3人が手を携えて踊る場面で、手を握りきれないなど小さな問題があったが、それぞれが表現力に富む技巧派だけに、観客にそれを気付かせない堂々の好演となった。

高田は昨年ローザンヌ・コンクールのスカラシップでバレエ団に研修生として参加。その後、無事入団が決まったばかり。研修生の頃から一際目立つ存在であったが、入団直後よりマクレガーの新作『リーメン』に抜擢された他、すでに『眠れる森の美女』のプロローグの妖精や、オーロラの結婚の場面では、フロレスタンの姉妹などソリストの役を多数踊る大活躍。
昨年末に話題になったロイヤル・オペラによるチャイコフスキー作曲のロシア・オペラ『女帝のスリッパ』のバレエ・パートにも怪我をしたバレリーナの代役で入り、オペラ・ファンにもあまねく顔を知られている。
大人びた容姿と美貌、外国人にひけをとらないプロポーションを持つ。何よりも特筆すべきは、スター性の大きさである。ロイヤルの主役やプリンシパルと並んでも負けない輝きを放ち、観客の目を一身に集めてしまう魅力の持ち主。女性としては久々の大型新人として将来が楽しみである。

当日ホワイト・カップルを踊ったのはサラ。ラムとルーパート・ペネファーザー。大分身長差のあるペアだが、けぶるブロンドとエレガンスの調和が見事で、当日はも観客をイギリスが最も栄えた古きよきビクトリア朝の昔に誘った。

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『ベアトリクス・ポターの世界』もまたオールスター・キャストであった。
リッカルド・セルヴェーラが得意とする街のねずみのジョニー、アヒルのジェマイマをラウラ・モレーラ、旅の途中で素敵なメスの子豚と出会い恋に落ちるオス豚のピグリン・ブランドをジョナサン・ハウエルズ、小林ひかるが怪我をしたクローフォードの代役としてピグ・ウィグ、ジェレミー・フィッシャーは平野亮一が踊った。
それぞれが好演したが、中でもモレーラのジェマイマ、セルヴェーラのジョニーが、音楽性、身体能力ともに素晴らしかった

ミアベアーによる『スケートをする人々』の軽快な音楽は、厳しい冬に疲れたイギリスのバレエ・ファンや家族連れに元気を、今は亡きジョン・ランチベリーによる『ベアトリクス・ポターの世界」のスコアは、観客にイギリスの田園地方の太陽輝く暖かな日々を思い出させてくれ、われわれはダンサーと作品に大いに癒されて帰路についた。

結局マックレーは最終日の13日もブルー・ボーイを降板。11日のゲネプロから始った『ロミオとジュリエット』のマキューシォ役でも忙しかったマロニーを殺人的なスケジュールで悩ませた他、『スフィンクス』『スケートをする人々』で彼の活躍を楽しみにしていたファンを大いに嘆かせたのであった。
(2010年1月9日を鑑賞 12月9日の非公開ドレス・リハーサルを撮影)

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撮影:Angela Kase
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