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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2009.12.10]

マクレガーの新作『リーメン』に高田茜が抜擢

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
George Balanchine :Agon ジョージ・バランシン振付『アゴン』
Glen Tetley : Sphinx グレン・テトリー振付『スフィンクス』
Wayne McGregor : Limen ウェイン・マクレガー振付『リーメン』
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ロイヤル・バレエは11月4日〜18日まで「バレエ小品集」を上演した。
バランシンの『アゴン』、グレン・テトリーの『スフィンクス』と、ウェイン・マクレガーによる新作『リーメン』という興味深い取りあわせのトリプル・ビルであった。
 
当初『アゴン』は、初日を踊るファースト・キャストに、カルロス・アコスタとゼナイダ・ヤノースキー、ローレン・カスバートソンらが予定されていた。またテトリーの『スフィンクス』はファースト・キャストにマリネラ・ヌニェズ、ルーパート・ペネファーザー、エドワード・ワトソンが、セカンド・キャストをアリーナ・コジョカル、セルゲイ・ポルーニン、スティーブン・マクレーが踊ると発表されたため、多くのファンは2つの配役を観るべくチケットを予約購入し公演当日に想いを馳せていた。ところがまたダンサーの怪我や降板劇が相次ぎ、結果は発表とは大いに様子を異にした。
 
配役変更によるファンの失望が最も大きかったのが『スフィンクス』で、アリーナ・コジョカルが主演を断念したことから、この作品に共にデビューするはずだったセカンド・キャストのポルーニン、マクレーまで降板を余儀なくされ、彼らの公演に期待していたファンを嘆かせたのである。

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11月18日の公演を観る。
『アゴン』は、パ・ド・ドゥをアコスタと降板したヤノースキーに代わり、『マイヤリング』でマリー・ヴェッツラを主演して以来、関係者やファンに大いに注目されるメリッサ・ハミルトンがつとめた。また、第一のパ・ド・トロワをプトロフと崔由姫、サマンサ・レイン、第二のパ・ド・トロワをガリアッツィ、フリストフ、マロニーが踊った。
 
11月3日のゲネプロ撮影時は、第1のパ・ド・トロワをヨハン・コボー、 小林ひかる、 崔由姫 が踊り、第2のパ・ド・トロワのガリアッツィ、フリストフ、マロニーらと共に、絶妙なまでにバランシン・スタイルを体現した。それに比べるとレインが加わった18日の第1のパ・ド・トロワは、やや印象が弱かったことは否めない。だが冒頭の4人の男性(アコスタ、プトロフ、マロニー、フリストフ)によるムーブメントは、プトロフが加わることで、芸術性が加わり興味深い内容となった。
アコスタとハミルトンによるパ・ド・ドゥは視覚的には面白かったものの、スター性が未だ希薄なハミルトンと、世界的スターであるアコスタの魅力のアンバランスさが「闘いの舞」であるはずのこのパ・ド・ドゥの印象を大いに弱めてしまった。
ユニットとして当日最も光っていたのが、ガリアッツィ、フリストフとマロニーの3人で、バランシン作品の究極のゴールである「音楽の視覚化」を巧み表現していた。
また崔由姫もバランシンを踊って見事であった。小林は翌日に『眠れる森の美女』
を主演する予定であったため、18日はこの作品には出演しておらず残念。

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グレン・テトリーの『スフィンクス』は、フランスの詩人ジャン・コクトーの戯曲『地獄の機械』に触発されて作られた小品バレエ。登場人物は、スフィンクスと、ジャッカルの頭を持つ死の神アヌビス、若き旅人オイデプスの3人である。
美しい人間の女性の顔と声、胸に、動物の身体と翼を持つスフィンクスは、砂漠を行く旅人を見つけるたびに、謎をかけ答えられない者を情け容赦なく殺す。だがスフィンクスはある日、若く美しい旅人オイデプスと恋に落ち、愛ゆえに彼の命を奪うことを拒み、美しい姿を永遠に失う。

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スフィンクス役のマリネラ・ヌニェズが大人びた美貌と氷のような冴えた性的魅力を垣間見せタイトル・ロールに何とも適役であった。彼女には『ジゼル』や『眠れる森の美女』『白鳥の湖』といった古典よりも、この作品に代表されるような20世紀のモダン・バレエの主役が良く似合う。
若者と恋に落ち、破滅するスフィンクスの横で、彼らの恋愛劇に嫉妬し怒り狂うアヌビス神を踊ったエドワード・ワトソンも、豊かな演技力と持ち前の柔軟な肢体を
テトリー作品ならではの特徴ある跳躍技で存分に披露し、非常な存在感を発揮し、ヌニェズと共にオペラ・ハウスに集った観客をその魅力で支配した。
たった3人の登場人物ではあるが、それぞれが役にピタリとフィットしたことが作品の成功につながったようだ。
 
今年春に行われた09・10シーズン演目発表プレス・コンファレンスの場で、バレエ団芸術監督のモニカ・メイソンは、「当初テトリーの別の振付作品の上演を考えていたのですが上演料金の関係から実現できず、より安いオプションであった『スフィンクス』を選ぶことになりました。」と語った。
 
『スフィンクス』については、一部の英国バレエ関係者が作品やダンサー酷評をしているようだが、私自身は必要最小限の舞台装置と舞台衣装、たった3人のダンサーで、コクトーの世界と美意識を十二分に再現した振付家グレン・テトリーと舞台装置家ルーベン・テル・アルチュニアンの才能を大いに評価するとともに、ヌニェズ、ワトソンといった古典バレエの役柄だけでは、その個性の一部しか発揮できないプリンシパルをこの作品に抜擢したメイソンの英断にもまた敬意を表してやまない。

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マクレガーの新作『リーメン』に抜擢されたのは女性8人、男性7人の計15名。
女性はベンジャミン、ヌニェズ、ラム、ガリアッツィ、ハミルトン、崔由姫 の他、レティシア・ストック、高田茜ら新人。男性はワトソン、アンダーウッド、マクレー、オンデヴィエラ、マロニー、ポール・ケイに、高田と同じく今期入団の新人トリスタン・ダイアーであった。
 
この作品のセットデザインは、発光ダイオードLEDを使った作品で世界的に有名なインスタレーション・アーティストである宮島達男が担当。紗幕の上をうごめく数字が作品に深遠さや現代性を与えていた。
 
ダンサーは作品の冒頭のシーンでは各人がポップな蛍光色の衣装を着用、後半は全員肌色の衣装に着替える。ダンサー全員が観客に背を向け、宇宙に瞬く星のような背景に目をやるフィナーレでは、思わず人間の肉体と生死、果ては輪廻転生にまで思いを馳せた。
多数のダンサーが出演しているものの、最も印象に残る振付を与えられたのは、サラ・ラムとエリック・アンダーウッドの2人であった。この2名は、デユエットにおいて、ある時はそれぞれが醸し出す体温の確かな暖かさを感じさせる一方で、時に人間を超越したサイボーグのようにすら見え、この作品の中心ペアとして忘れ難い印象を残した。

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(2009年11月18日 コベント・ガーデン ロイヤル・オペラ・ハウス。舞台写真は11月3日の公開ドレス・リハーサルを撮影)

撮影:Angela Kase
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