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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2009.03.10]

ロイヤル・バレエのエク『カルメン』 タケット『七つの大罪』ほかの小品集

The Royal Ballet
William Tuckett : "The Seven Deadly Sins", Mats Ek : "Carmen",
Christopher Wheeldon : "DGV"
英国ロイヤル・バレエ
ウィリアム・タケット『七つの大罪』、マッツ・エク『カルメン』、クリストファー・ウイールドン『DGV』

 ロイヤル・バレエ団は1月31より2月14日まで、マッツ・エク版『カルメン』を含むバレエ小品集を上演した。 
どの作品もリバイバルであり、一般的には大きな話題にはならなかったが、昨年オペラ歌手の夫サイモン・キンリーサイドとの第1子を出産にあたって長らく産休を取っていたゼナイダ・ヤノースキーが、自分のために振付けられた『七つの大罪』で舞台復帰すること、そしてバレエ団のスターであるタマラ・ロホが久しぶりにエク版『カルメン』を踊ることなどがあり、関係者とコアなバレエ・ファンにとっては、このバレエ団の2大女優バレリーナの対決が気になるところであった。
 
『七つの大罪」はバレエというより舞踊劇といった雰囲気の作品である。アンナ2のマルサ・ウェインライトがストーリーを歌って説明する中、バレエ団のダンサーが踊る趣向となっている。
ヤノースキー扮するアンナ1がルイジアナの田舎から都会に出て苦労し、モーテルでお客をとったり、ストリッパーとして日々を送るようになる。その後、映画監督に出会ったことから銀幕デビューし、何不自由ない生活をおくるが、華やかな生活に疲れ、再び故郷に帰るという内容。
ストリッパーに扮したラウラ・モレーラと、英国舞台批評家賞最優秀男性ダンサー賞を受賞し好調の波に乗るエドワード・ワトソンのフェルナンドが素晴らしい。ティアゴ・ソアーレスのストリップ・クラブのオーナーという役どころもピッタリであった。
シーズン開幕よりコジョカル、ラムといった女性スターの怪我に翻弄されてきた英国バレエ・ファンにとって、大女優のオーラをまとい産後ますます美しくなった趣のあるヤノースキーの姿は、ことのほか眩しく映ったことであろう。このスター・バレリーナの今後ますますの活躍が楽しみである。
 

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 マッツ・エクの『カルメン』は、前回ロイヤル・バレエ団が初演した際は、シルヴィ・ギエムとタマラ・ロホの2人がタイトル・ロールに挑戦。類稀なる身体能力を持ってエクの舞踊スタイルをことも無げに踊りこなし、こ惑的に男性を挑発するギエムに対し、ふくいくと香る女性らしさで周囲に男たちを集め、最後にホセの刃に倒れるロホはあまりに対照的であった。ロイヤル・バレエ団を代表するダンスール・ノーブルであったジョナサン・コープが、安っぽい光りを発するラメの衣装に身をつつんで、ギエムの相手役として闘牛士エスカリミオを踊ったのも今は懐かしい思い出である。
 
今回はホセにトマス・ホワイトヘッド、エスカリミオにベネット・ガートサイド、Mにローレン・カスバートソン、ジプシーをブライアン・マロニー、オフィサーにヴァチェスラフ・サミョードロフが扮した。
久しぶりのエク作品の上演ということで、見所は各ダンサーが古典バレエと大いに異なるエクのスタイルを踊りこなせるかという点に集中することになる。
ロホの好演はいうまでもないが、持ち前の上品な魅力でエクを踊るカスバートソンには、踊り手としての大いなる成長を感じさせられた。また今シーズン蔵健太とともに、何を踊っても個性的で強い印象を残すブライアン・マロニーのエク・スタイルでの輝き、そしてオフィサー役への変身ぶりのあまりの見事さに、一瞬、誰なのかわからなかったサミョードロフの七変化と、踊り手としての芸域の広さにも唸らせられた。

ロホは、コジョカルの長期降板、ギエムなき今、ロイヤル・バレエのトップ・スターとして美貌とスター性を存分に振り撒き、圧倒的な存在感を見せた。日本のファンには、古典バレエでフェッテに代表される旋回技に超絶技巧をふるうチャーミングなロホのイメージが強いかと思うが、決してそれだけのアーティストではない。エクに代表される異なるスタイルを踊ることにも非常に長けた踊り手なのである。3月11日初日予定のイサドラ・ダンカンの一生を描いた小品バレエ、新『イサドラ』を踊るロホに大いなる期待が寄せられる。
『カルメン』についていうと、ホワイトヘッドとガートサイドというホセとエスカリミオを踊る男性2人のスター性の欠落が作品をやや退屈なものにしてしまった。

ウィールドンの『DGV』は初演時にはダーシー・バッセルがいた。彼女の引退と女性スターの怪我での降板、男性プリンシパルであるフェデリコ・ボネッリの降板が、作品の印象を大いに弱めてしまっっていた。
また、首の怪我で長期降板中のコジョカルは手術し、現在回復と舞台復帰をうかがっていると聞く。サラ・ラムの復帰にはまだまだ時間がかかりそうだ。
(2009年2月21日 ロイヤル・オペラ・ハウス 撮影は1月30日のドレス・リハーサル)

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