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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.12.10]

ロイヤル・バレエ『セレナーデ』『船旅への招待』『テーマとヴァリエーションズ』

 10月28日、ロイヤル・バレエは、シーズン第2作にあたるバレエ小品集を上演。バランシン振付『セレナーデ』と『テーマとバリエーションズ』、マイケル・コーダーの1982年振付作品『船旅への招待』を披露した。
スタ-・ダンサーの降板により、チケット発売当時より配役が大きく代わりファンを嘆かせたが、一方でこれまでほとんど名を知られなかった新人の抜擢や成長著しい若手ダンサーの活躍があり、バレエ団の現在とこれからを知る良いチャンスとなった。

  コーダーによる小品『船旅への招待』は、23年ぶりのリバイバル。フランス後期ロマン派の作曲家アンリ・ルパルクがボードレールやテオフィール・ゴーティ エらの詩に触発され作った歌曲『旅へのいざない』をスコアに振付けた作品で、衣装と舞台装置はダウエル版『白鳥の湖』で知られる奇才ヨランダ・ソナベント が担当した。
幕が上がると、幻想的なセットの舞台にメゾ・ソプラノ歌手ハリエット・ウィリアムズが登場。5つの歌曲を歌う中、華麗でエキゾチックな衣装を纏ったダンサーが現れ踊る趣向。
美術と音楽〈歌と詩〉・舞踊が見事に一体化した作品で、25分弱ながら観客の眠れる視聴覚を覚醒させ陶酔と耽溺の極地へと誘う、耽美派バレエ作品であった。

 5つの詩のうち冒頭の「フィディーレ」を踊ったのはアマ・マグワイアーとセルゲイ・ポルーニン。ポルーニンは、ローザンヌ、セルジュ・リファール賞、ユース・アメリカ・グランプリの3冠保持者で先シーズン入団。入団初年度より数々の抜擢を受けた大型新人である。
06年にローザンヌ・コンクールで脚光を浴びた時分は、まだ身体が成長しきっておらず小柄で素朴な容姿の少年であった。ところが、今シーズンになってこ のコーダー作品でロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に登場したポルーニンは、ロマンティックな雰囲気のダンスール・ノーブルに変貌し、関係者や観客を大いに 驚かせた。
 入団2年目にして、ダンスール・ノーブルが大成するために不可欠なリリシズムと叙情、ロマンティックな香気を身に付け、素朴な少年から、時代がかった華美な衣装を着こなし、観客を酔わせるアーティストに変貌を遂げた。
ゲネプロ撮影時と初日はマリネラ・ヌニェズという現在バレエ団で最もゴージャスな美女を優雅にエスコート。ヌニェズの存在に負けるどころか彼女を大いに引き立て、包容力とスター性を見せて、関係者とファンに大いなる成長の跡を印象付けた。
ポルーニンは12月に『くるみ割り人形』の王子、1月下旬に『ラ・バヤデール』全幕主演デビューが決まっており、今後の更なる成長が楽しみである。

 ボードレールの詩「ラ・ヴィ・アンテリエール」を踊ったのはフェデリコ・ボネッリ、リアン・ベンジャミン、ベサニー・キーティング、ヨハネス・ステパネク、アーンスト・マイスナー。
ボネッリとベンジャミンのパートナーシップ、ボネッリとマイスナーが時折垣間見せる中性的でセンシャルな雰囲気が、作品をより豊かなものにした。

 5つ目の歌曲「旅へのいざない」を踊ったのはメリッサ・ハミルトン、エドワード・ワトソン、リアン・ベンジャミンとフェデリコ・ボネッリ。
ハミルトンは柔軟な四肢を持つ金髪の美女。男性離れした柔軟な身体の持ち主であるワトソンとのパートナーシップも絵になり、この耽美的な作品に大いにマッチしていた。

 現在バレエ団は、ウェイン・マックレガーを常任振付家に据え、非常に現代的な新作を発表しつつも、コーダーのような異なる作風を紡ぐ自国の作家を も忘れることなく招聘し、興味深い作品を披露。今回のトリプル・ビルについては、芸術監督モニカ・メイソンのセンスと手腕の良さが大いに光った。

Photo/Angela Kase

『セレナーデ』はカスバートソン、ペネファーザ-らイギリス出身のプリンシパルに混じって、ガリアッツィ、フリツトフ、NYCB出身で、バランシン作品に優れるアンサネッリが踊った。
先シーズンの上演に続いて小林ひかるがアンサンブルの中で光り、観客にバランシン作品を得意とすることをアピ-ルした。

『テーマとヴァリエーションズ』は当初アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーが初日を飾る予定であったがコジョカルの怪我により、マルケスとコボー、タマラ・ロッホとフェデリコ・ボネッリの2組が主演した。
私が見た最終日11月10日はロッホとボネリが主演。怪我から復帰のロッホが再びロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に戻り、ボネッリと共に技巧とスター性を奮い、素晴らしいパフォーマンスを見せた。
他にカスバートソン、セルヴェーラ、フリストフらに混じって、佐々木、小林、蔵、崔、平野といった日本出身のダンサーが総出演で活躍し、作品をより一層引き立て、充実させる牽引車となっていたのが印象的であった。
(2008年11月10日 ロイヤル・オペラ・ハウス 10月27日ゲネプロを撮影)

Photo/Angela Kase