庭園の緑燃え、国花である薔薇が咲き乱れる6月は、イギリスが最も美しく輝く季節である。日没が夜の9時過ぎという1年で最も日照時間の長いこの時期 は、エリザベス女王の公式誕生日にはじまり、アスコットの競馬、ウィンブルドンのテニスといった世界的なイベントも盛りだくさんだ。
バレエ公演についていうと、今やこの時期のロンドンの夏の風物詩の一つになった感があるのが、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)のロイヤル・アルバート・ホールでの夏季公演である。
このバレエ団は、ロンドンに本拠地を置くものの、ロンドンでの公演は夏と冬のみ。それ以外はイギリスの地方都市で公演を行うツアー・カンパニーである。
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| プロローグ | プロローグ |
6月のサマー・シーズンは、ハイドパークの南にそびえる客席7000のロイヤル・アルバート・ホールで10日間、冬はトラファルガー広場近くのコロシアム劇場で3週間の公演を行う。
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| オークス、エデュール | バーバラ・クック | コビローヴァ、ヴェネット |
夏季公演についていうと、7000席のホールを連日満席にするため、『白鳥の湖』『ロミオとジュリエット』といった全幕バレエに、毎年世界各国から話題のダンサーを招聘し、公演を行っている。
ザハロワ、ボッレ、フォーゲルなど、若かりし日にENBのアルバート・ホール・シーズンに招かれ主役を踊り、その後、世界の檜舞台を席巻した踊り手は数多い。
またホールは、威風堂々とした円柱形の建物で、客席は建物中央の円形舞台を取り囲むすりばち型アリーナであるため、ここで上演されるバレエは、舞台を取 り囲む観客が、どの角度からみても主役や群舞を楽しめるような振付がほどこされた特別なアリーナ・バージョンを踊るのである。
たとえばENBのアリーナ版『白鳥の湖』二幕では、ニ組の四羽の白鳥が左右前後に交差しながら四方八方の観客にアピールする趣向だ。主役についていうと 巨大な円形舞台を大きく移動しながら、旋回技や跳躍を立て続けに披露する必要があるため、これまでスタミナと回転に優れる若手のホープが起用されることが 多かった。
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| グルーアジデ、フォーゲル | グルーアジデ、フォーゲル |
今年ENBはバレエ団に長らく芸術監督兼振付家として君臨したデレク・ディーンが、『ラプソディー・イン・ブルー』『サマー・タイム』『シャル・ウィ・ ダンス(踊らん哉)』といったガーシュインの有名な音楽を使って振付けた『ストリクトリー・ガーシュイン』を世界初演した。
同バレエ団を足がかりに、その後ロイヤル・バレエ団に移籍したタマラ・ロホ、シュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲル、カナダ国立バレエ 団のギヨーム・コテをゲストに、バレエ団のプリンシパルと、イギリスの競技ダンス・ラテン・チャンピオンの夫婦ペア、ダレン・ベネット、リリア・コピロ ヴァや、ポール・ロビンソンとダグラス・ミルズによる男性タップ・コンビ、およびアメリカ人のベテラン女性シンガー、バーバラ・クックをゲストに迎え、バ レエ、競技ダンス、タップ、ラインダンスなど様々なダンス・スタイルが楽しめるダンス・ショーを披露。
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舞台は2部構成で、第1部は「ブロードウェイのガーシュイン」、ダリア・クリメントヴァとドミトリー・グルジェエフのプリンシパル・ペアを中心にバレエ 団の団員がバーの代わりに、互いの手を握って見せるバー・レッスンに始まり、大小の跳躍を見せるセンターのお稽古を披露するプロローグから始まった。
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| 「パリのアメリカ人」 |
その後、雰囲気が一転して闇につつまれた舞台に一条のスポットライトが投げかけられると、その中に日本でも人気のバレエ団のベテラン・プリンシパルのアグネス・オークスが現れ、夫君のトマス・エデュールとムードいっぱいに『ザ・マン・アイ・ラブ』を踊った。
その後、バーバラ・クックの歌唱、ミルズとロビンソンのタップ、ベネット、コピローヴァの大人っぽいラテン・ダンスといったエンターテーメントが続く と、バレエ団のグルジア人プリンシパルのエレーナ・グルジーゼとシュツットガルト・バレエのフリーデマン・フォーゲルがジンジャー・ロジャースとフレッ ド・アステアに扮して、ロング・ドレスと燕尾服に身を包んで群舞を従え華麗なステップやポーズを披露。
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| クリメントヴァ、フォーゲル | クリメントヴァ、フォーゲル | クリメントヴァ、フォーゲル |
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| ラインダンス |
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第1部の最後は、エッフェル塔の頭飾りをつけ色とりどりのドレスを身にまとったバレリーナ達や、古きよき時代のパリのおまわりさん、レトロなベビー・ カーを押すパリ市民や群集が、舞台を縦横無尽に闊歩し、踊る中、ロイヤル・バレエ団のタマラ・ロホとカナダ国立バレエのギヨーム・コテが、レスリー・キャ ロンとジーン・ケリーに扮して踊る『パリのアメリカ人』で大いに盛り上がって、休憩となった。
第2部は「レディ・ビー・グッド」の音楽に乗ってミルズとケリー・バーケットというチャーミングな女性タップダンサーと、ミルズ、ロビンソンの男性タッ プ・コンビがゴキゲンなタップを、そしてスタイリッシュなシガレット・パンツにサスペンダー、シャツにボーラー・ハット姿のENBの群舞を率いてのライン ダンスでの幕開け。
その後、フォーゲルとバレエ団の長身プリンシパル、クリメントヴァが『サマー・タイム』をムードいっぱいに踊ったり、ドミトリ・グルジェーエフ、高橋絵 里奈、ヤット・セン・チェンというバレエ団のベテラン実力派ダンサーによる『フー・ケアーズ』、バーバラ・クックが『フォギー・デイ』で霧のロンドンを歌 えば、出演者総出の『ストライク・アップ・ザ・バンド』のアメリカ賛歌、最後はブルーのチュチュ姿の女性群舞と黒のチュニックの男性ダンサーが優美に古典 バレエを踊る『ラプソディー・イン・ブルー』で幕となった。
同公演は公演前こそチケットの売れ足が鈍く、得チケが出回ったものの、一度新聞に舞台評が掲載されるや、ロンドンっ子や世界からの観光客が大挙して押し寄せ、公演後半はチケットが完売となりダフ屋も出回るほどであった。
客層は年齢・国籍も様々であったが、青春時代にジンジャー・ロジャースとフレッド・アステア、ジーン・ケリーのミュージカル映画を楽しんだのであろうお年寄りファンが数多く見受けられた。
古典バレエだけを期待したバレエ・ファンにはお目当てのダンサーの出番が少なく、がっかりされたむきもあろうが、ほとんどの観客は様々なスタイルのダンスとガーシュインの音楽を満喫し、心楽しく家路についたのであった。
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| ロッホ、コテ | 「フー・ケアーズ」 |
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| ラプソディー・イン・ブルー |
ダンサーでは、ロホが『パリのアメリカ人』でフェミニンな魅力を発散、ギヨーム・コテはエネルギッシュでありながら、フランス系カナダ人ならではの粋と 古典ダンサーの節度をあわせ持ち、かつスター性も充分で、将来が大いに期待される。フォーゲルはアステアのエレガンスを大いに体現し、相手役や歌手のバー バラ・クックのエスコートも優雅。ロホはロイヤル・バレエ団の極東公演直前まで数回のゲストで、以降はバレエ団のフェルナンダ・オリビエラが『パリのアメ リカ人』と『ラプソディー・イン・ブルー』を踊った。『パリのアメリカ人』でロホの魅力が圧倒的に勝っていたが、『ラプソディー・イン・ブルー』ではオリ ビエラのプロポーションの良さと機敏さが印象に残っている。
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| タマラ・ロホ | タマラ・ロホ |
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| カーテンコール | カーテンコール |
(ロンドン ロイヤル・アルバート・ホール 2008年6月21日。写真は6月17日の最終ドレス・リハーサルを撮影)またジャズ・バンドや有名ピアニストが、誰もが一度は耳にしたことのあるガーシュイン兄弟の音楽を奏でたものだから、7000人を超える観客は、舞踊と音楽のそれぞれを大いに満喫することができたのである。