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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.02.11]

英国舞台批評家協会賞が発表された

1月22日、毎年恒例の英国舞台批評家賞の発表があった。
これは英国にて前年に際立った活動・活躍をした団体やダンサー、関係者に贈られる賞である。
昨年は、吉田都が最優秀女性ダンサー賞、カルロス・アコスタが最優秀男性ダンサー賞、スティーブン・マックレーが最優秀新人賞、コンテンポラリーのバッ クグラウンドしか持たないにもかかわらず常任振付家に就任したウェイン・マクレガーがモダン作品部門の振付家賞を受賞するなど、ロイヤル・バレエ関係者が ほとんどの賞を受賞して話題であった。

今年は06、07年と2年続けてロンドン公演を行ったボリショイ・バレエ団と、同団体のダンサーが、最優秀女性ダンサー賞、スポットライト賞(男性部門)、海外バレエ団賞の三冠に輝くなどロシア勢の活躍が目立った。

結果は下記の通り

*最優秀女性ダンサー賞
ナターリア・オシポワ(ボリショイ・バレエ)

*最優秀男性ダンサー賞
ジョナサン・ゴッダード(リチャード・アルストン・ダンス・カンパニー)

*振付賞(古典の部)
ウェイン・マクレッガー(ロイヤル・バレエ団『クローマ』)

*バレエ団賞(古典)
スコティッシュ・バレエ

*海外バレエ団賞
ボリショイ・バレエ

*女性スポットライト賞(古典の部)
キャロル・アン・ミラー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ)

*男性スポットライト賞(古典の部)
イヴァン・ワシリエフ(ボリショイ・バレエ)

*パトロン賞
ダーシー・バッセル

今年激戦であったのは、振付家賞。2年連続して受賞したマクレガーの他、クリストファー・ウィールドンとアレクセイ・ラトマンスキーといった21世紀を代表する新進振付家3人がノミネートされていた。

最優秀女性ダンサー賞のナターリア・オシポワは、弱冠23歳ながら、『ドン・キホーテ』『明るい小川』の全幕2作品、『クラス・コンサート』とサープの『イン・ジ・アッパールーム』など数々の作品での好演と、演技面での成長が評価されたようだ。

ダージー・バッセル
(パトロン賞受賞)
(c) Angela Kase
ナターリア・オシポワ
(最優秀女性ダンサー賞受賞)
(c) Angela Kase

イヴァン・ワシリエフ
(男性スポットライト賞受賞)
(c) Angela Kase
崔 由姫
(女性スポットライト賞ノミネート)
(c) Angela Kase

マーティン・ハーヴェイ
(c) Angela Kase
  納得がいかないのが「スポットライト賞」と受賞のイヴァン・ワシリエフである。この賞は昨年まではなかった物である。「昨年最もスポットライトのあたったダンサー」に与えられる賞なのであろう。
確かにワシリエフは昨年夏の英国公演に先立って、オシポワと共にロンドンにプロモーションに現れ、取材陣の前で緩急自在にコントロールできる旋回技やダイナミックな跳躍を披露し大いに話題になった。
だがアーティストとしては、あまりにも荒削りで未完であり、高く跳躍しても着地に失敗することが多く、プレイシング(舞台上のスペース配分)の甘さも目立ち、またパートナーリングにおいても多いに努力が必要である。
それら未完成な部分をワシリエフの18歳という「若さ」のせいだとコメントする関係者も多い。確かにパートナーリングについては、若さからくる経験不足 が関係しているであろう。だが、あまりにも頻繁に起こる着地の失敗はどうしたものか。スポーツであろうと、美を競う分野において着地ミスは大きな減点の対 象ではないのか?
大いにスポットライトをあびたからといって、発展途上にある若者が、演舞に優れ、今やますます舞台人としての存在感を増し大成しようとしているマーティ ン・ハーヴェイ(昨年はロイヤル、バーミンガムの2つのロイヤル・バレエで、バレエの男性舞踊手にとって最も難役である『マイヤリング うたかたの恋』の 皇太子ルドルフや、ビントレー振付『エドワード2世』の愛人ギャベストンを好演)のような、英国の優れたアーティストをさしおいて受賞して良いのであろう か?

またダンサーにスポットライトを当てるのは、バレエ団の広報活動の手腕によるところが大きい。プロモーションに積極的なラトマンスキー体制化の現ボリ ショイ・バレエに対して、現在のロイヤル・バレエは、作品のテレビ中継の数こそ増やし、バレエ団HPで映像を紹介するといった新しい活動こそ始めながら も、ギエム、バッセル、コープという3大スターを失ったにもかかわらず、それ続くスターを作ろうという努力があまりにも希薄に思えてならない。
ボリショイ・バレエ団は授与式当日まで4年ぶりのパリ公演を行っていた関係で、バレエ団総裁のイクサノフや、オシポワ本人が、会場であるロイヤル・オペ ラ・ハウスにトロフィーを受け取りに現れ、英国の批評家たちに、またしてもさりげなくバレエ団とダンサーの魅力をアピールしたのであった。