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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2007.11.12]

マカロヴァ版『ラ・バヤデール』

プートロフ、マルケス
  英国ロイヤル・バレエ団の新シーズンは、10月6日にマカロヴァ版『ラ・バヤデール』で開幕。ニキヤをタマラ・ロッホ、ソロルをカルロス・アコスタ、ガムザッティをマリネラ・ヌネェズが踊った。

15、18、25日の公演を観る。
15日はニキヤをゼナイダ・ヤノースキー、ソロルをミラノから客演のロベルト・ボッレ、ガムザッティをマーラ・ガリアッツィが踊った。
ヤノースキーは当日がニキヤ・デビューであった。ヴァルナ・コンクール銀賞、ジャクソン金賞受賞者で、演技力も申し分ないが、非常な長身であることが災いして、これまで役柄が限られていたのである。
アーティストとして充実した30代での満を持したデビューである。1幕から得意の演技力をふるい、国で一番の戦士を熱愛する巫女ニキヤを鮮やかに踊る充実のパフォーマンスを見せた。 ヤノースキー、ボッレは共に端正で長身、優れた舞踊技術を誇示することなく、物語バレエでは役になりきることに焦点を置く似合いのペアだから、今後の共演も期待される。
ガムザッティのガリアッツィは、イタリアン・フェッテにもう少し安定感がほしい。

プートロフ、マルケスロベルタ・マルケス
ロベルタ・マルケスアリステア・マリオットローレン・カスパートソン

18日は初日と同じロッホ、アコスタ、ヌニェズ組。
女性2人の演舞と美貌を競うバレリーナ対決、戦士役が似合うアコスタの婚約披露宴のパ・ド・ドゥでひときわ高い跳躍をみせるなど、見所が盛りだくさんで飽 きない。ロッホは「影の王国」のピルエットで脅威の8回転を見せたし、ヌニェズはイタリアン・フェッテにバランスに技巧をふるった。英国ロイヤル・バレエ 団が世界に誇るカリスマ・ダンサーたちの競演に、コベント・ガーデンが大いに沸いた一夜であった。

25日はロベルタ・マルケス、イヴァン・プートロフ、ローレン・カスバートソン。
マルケスが花籠のソロと「影の王国」で得意のバランスを長々と見せれば、ヴァルナ銀賞のカスバートソンも婚約披露宴のグラン・パ・ド・ドゥで華やかな跳躍を次々と繰り出し観客の目を奪った。この組のバレリーナ対決も非常に見ごたえがあった。
またカスバートソンは数々のソロを流して踊ることなく、上手にアクセントを付けることによって役の表現に説得力を与え、プートロフは婚約披露宴や「影の王 国」のソロのマネージュで、優れた音楽性を生かして音に絶妙なタイミングでのることによって、視覚的なインパクトを大きくダイナミックな物にした。
二人は演技もまた巧みで、カスバートソンはラジャの娘としての驕慢さを、プートロフは戦士としての威厳に満ち、2人の女性に愛される男の逡巡や苦悩を巧み に表現した。プートロフは苦手なパートナーリングでの破綻もなく、怪我からの確かな復帰とアーティストとしての成長を大いに印象付けた。

イヴァン・プートロフローレン・カスパートソンマルケス、カスパートン

日本出身のダンサーは佐々木陽平がブロンズ・アイドルを、小林ひかると崔由姫が「影の王国」のソリストをそれぞれ踊った他、蔵健太がマグダベーヤ、平野亮一が婚約式のグラン・パ・ド・ドゥに花を添えるなど活躍している。
またローザンヌ・コンクールからロイヤル・バレエ・スクールに留学し、その後バレエ団に入団したフランス人ダンサー、ルドヴィック・オンデビエラが地味ながら芸術性あふれるブロンズ・アイドルを踊ったのも印象に残った。

小林ひかる崔由姫


7月10日に、アリーナ・コジョカルと共に主演予定であったヨハン・コボーの怪我により、シーズン初めから一部の配役に大きな変更があった。
10日の『ラ・バヤデール』はコジョカルとロベルト・ボッレという非常な身長差のあるペアが急遽出演。またコジョカルとコボー主演が予定されていた、10月16日の『ロミオとジュリエット』初日は、入団3年目のスティーブン・マックレーが大抜擢された。
当日のマックレーはやや緊張がみられたものの、マキューシオ、ベンヴォーリオと踊るシーンで、堂々主役オーラを発散、バルコニーのパ・ド・ドゥのソロでもシャープな跳躍を次々と繰り出し、大役を見事につとめきった。
マキューシォ役はホセ・マルティン、ベンヴォーリオ役は佐々木陽平。佐々木は、キャピュレット家の舞踏会に忍び込む前の3人の踊りの場面で、初役のマック レーを優しく中央に導くべく大きく場所をあけた後サポートにまわり、新人のデビューを、固唾を飲んで見守る観客や関係者の心に暖かいものを残した。