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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.07.10]

Farewell to Bussell:ロイヤル・バレエのトリプル・ビル 『チェックメイト』 『シンフォニック・ヴァリエイションズ』

ロイヤル・バレエの2006/07のシーズンを締めくくるトリプル・ビルは、カンパニー創立75周年を祝う特別な2シーズンの最後でもあった。プログラ ムは、ロイヤル・バレエを、さらにイギリス・バレエの礎を築いた3人、ニネット・ド・ヴァロワ、フレデリック・アシュトン、ケネス・マクミランそれぞれの 1幕もので構成されていた。

そして、イギリス人プリンシパル・ダンサーとして、過去18年間カンパニーを代表してきたダーシー・バッセルが、6月8日の『大地の歌』でカンパニーに、そして多くのバレエ・ファンにさよならを告げた。

『チェックメイト』
ヤナウスキー、マリオット
  ロイヤル・バレエの創設者、ド・ヴァロワが1937年に振付けた1幕物で、特別な筋はなく、タイトルから推察できるように、チェスになぞらえて黒と赤の 戦いを舞台に再現したもの。結末は、黒の女王が赤の王を打ちのめす形で終わる。今回、かつてのプリンシパル・ダンサーであった、Dame Beryl Greyが80歳の誕生日を迎えたそうで、この演目は彼女に捧げられていた。初日の6月2日に舞台に現れた彼女は、とてもその年齢に見えないほど颯爽とし ていた。
群舞のフォーメーションでは面白い動きがあるのだが、それだけ、という印象を否めない。また、このバレエの物語の趣旨を、ダンサーたちがどこまで理解し ていたのか、という疑問が舞台を観ているときに浮かんだ。というのも、コール・ドのメンバーの表情がてんでばらばらで全く統一感がなかった。微笑んでいる ダンサーの横で、ずっとしかめ面をしているダンサー。初日の舞台終了後、知り合いのイギリス人に、どんな感想を持ったかを尋ねた。その知人曰く、「この作 品が造られた時代の雰囲気を知っているともっと理解できるかも。つまり、第一次世界大戦終了後の、厭世的な時代背景を映し出しているのではないかな」、と のことだった。仮にこの見方が正しいとするならば、歴史的な価値はあるのかもしれないが、振付としては普遍的なものとは言いがたい印象を拭いきれない。ま た踊る側にしても、振付へのアプローチが難しいのではないかと想像する。

セナイダ・ヤナウスキー
(ブラック・クィーン)
  そんな中、ダンサーで際立っていたのは、ブラック・クィーンを踊ったセナイダ・ヤナウスキーと、今シーズンからロイヤル・バレエに移籍してきた、エリック・アンダーウッド。
ヤナウスキーは、今シーズンはそれほど大きくメディアに取り上げられることはなかったが、着実に技術、演技が進化しつづけている。バッセルの引退によ り、女性プリンシパルの中でただ一人の長身のダンサーになってしまったが、今シーズンの安定した活躍からは、来シーズン以降も充実した舞台を期待できるよ うに思う。既に発表になっている来シーズンのピリオド1のプログラムでは、ファンが待ち望んでいたであろう、『ラ・バヤデール』でのニキヤ役のデビューが 予定されている。
アンダーウッドは、古典全幕ではまだコールドの一員にとどまっているが、モダンやコンテンポラリーでは、かなり大きな役にキャスティングされている。カ ンパニーがどのように彼を使っていくかにもよるが、是非、古典やアシュトンなどのロイヤル・バレエの伝統を感じさせる演目で、彼の活躍を見てみたいもの だ。
セナイダ・ヤナウスキー

(CHECKMATE 振付:Ninette de Valois 音楽:Arthur Bliss デザイン:E. McKnight Kauffer)


『シンフォニック・ヴァリエイションズ』

(左から)ロベルタ・マルケス、ラウラ・モレイラ、ベリンダ・ハトレイ、フェデリコ・ボネッリ
  アシュトンが1946年に創作した『シンフォニック・ヴァリエイションズ』は、20分弱の小品ながら、とても難しい振付であることを再確認した。
舞台に立つのは、男女各3人、合計6人のダンサーのみ。幕が上がり終わるまで、誰一人として舞台からいなくなることはない。言い換えると、踊っていると きのみならず、佇んでいる時ですら観客の目から逃れることはできない。一瞬たりとも気が抜けない振付だ。
ダンサーにとっては、持っている技術、ダンサーとしての資質が高度なレヴェルで試される振付といえるだろう。踊りの技術は言うに及ばず、音楽とどこまで一体になれるか、そして自分の「個性」をどうやって振付に同化させるか。
ファースト・キャストは、ロベルタ・マルケス、ベリンダ・ハトレイ、ラウラ・モレイラ、フェデリコ・ボネッリ、スィテーブン・マックレー、ルドヴィク・ オンディヴィエラ。セカンドは、サラ・ラム、イザベル・マックミーカン、ローレン・カスバートソン、ルパート・ペネファザー、ホセ・マーティン、佐々木陽 平。
ここ数年のうち、正直な所、最もがっかりしたのが今回のキャストだった。特にセカンド・キャストは、アンサンブルがちぐはぐで、振付が要求する、ばらば らに踊っているように見えたダンサーが、徐々に一体化していく静かな、それでいてダイナミックな様式美を見ることが出来なかった。ファーストは、センター を踊ったマルケスが、自分自身に酔ってしまっているようで、彼女がウィーク・ポイントになってしまった。最近、マルケスの踊りが雑に感じてしまうことが多 く、残念だ。

ハトレイ、ボネッリ、モレイラ、マルケス マルケス、ボネッリ ハトレイ、マックレー

アシュトンらしさを最も鮮明に感じさせてくれたのは、やはり6月8日が最後の舞台となった、ファースト・ソロイストのハトレイ。技術的には決して派手な ダンサーではないが、上半身と下半身に全く異なる動きが要求されながら、そうとは感じさせない踊りをみせなければならないアシュトンの振付を、まるで普通 に呼吸するかのように自然に踊っていた。
6月8日、彼女の引退を惜しむファンに請われて、カーテン・コールで満足げな笑顔を絶やさなかったハトレイ。多くの観客は、どうして彼女に大きな拍手が 送られているのか判らなかったようだが、一人また、素晴らしいダンサーが舞台を離れた夜だった。

(SYMPHONIC VARIATIONS 振付:Frederick Ashton 音楽:C&eacute;sar Franck デザイン:Sophie Fedorovitch)