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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.06.10]

『白鳥の湖』:カンパニーの思惑はどこに

今シーズン2度目となる、ロイヤル・バレエの『白鳥の湖』。5月15日のマチネ公演で、共にイギリス人、共にファースト・ソロイストの、ローレン・カス バートソンとルパート・ペネファザーがそれぞれオデット/オディール、ジークフリート役のデビューを果たした。
カンパニーのダンサーの多国籍化を受け入れつつも、矢張りプリンシパル・ランクにもっとイギリス人ダンサーを、とロイヤル・バレエの上層部は思っている のだろう。ロイヤル・オペラ・ハウスのフレンズ会員向雑誌ではこの二人の特集が組まれ、ボックス・オフィスのそばのヴィデオ・プロジェクターでは、アンソ ニー・ダウエルとアントワネット・シブリーが、カスバートソンとペネファザーを指導しているクリップが何度も流れていた。
カンパニーの期待以上のできで、終演後、舞台上でダブル昇進の劇的な発表があるか、と思っていたのだが、この日は何も起こらなかった。逆に昇進が発表さ れでもしたら、それこそ大変な騒ぎになっていただろう、というのが舞台を観終わっての印象だった。
今回の主役デビュー、二人の緊張は想像に難くない。カスバートソン、ペネファザー、共に技術を売りにするタイプではない。役への理解をどこまで深める か、ということが舞台の評価を左右するのではと考えていた。二人は、のしかかるようなプレッシャーを、様々な場面で感じていたことだろう。デビューを温か く見守りたいと思いつつ。
まず、カンパニーの拙策は否めない。二人とも既にいくつかのプリンシパル・ロールや主役をこなしてきてはいるが、彼ら二人だけで、というのは今回が初め てのはず(カスバートソンはオーロラ、ジュリエットなどを。ペネファザーはアミンタ、ジェイムズなど)。    
今回のデビューでも、仮に彼らのパートナーがプリンシパルであったのであれば、舞台上でのサポートがあってもっと自然な舞台になったのではないだろう か。実際の舞台は、お互いが自分自身のことで精一杯で、パートナーシップの妙、というものは筆者の目には皆無だった。特に、全体を通してペネファザーの技 術の完成度の低さ、演技の浅さが目についてしまった。
カスバートソンは、第2幕、オデットの腕の動きは、白鳥の羽のそれではなく、緊張感による硬い動きが痛々しいほどだった。が、場が進むほどに自信を回復 したようで、とくにソロ・パートでは「ファースト・ソロイスト」としては、及第といった所だ。惜しかったのは、彼女のメイキャップ。昨年のオーロラ姫デ ビューのときにも感じたことだが、彼女は舞台上で自分がどう見えるか、ということを知ったほうがいいのではと思う。あの濃さでは、彼女らしさが全く生かさ れていない。
最後に。今回、プリンシパル・ダンサーが一人も居ない古典バレエの全幕を、ロイヤル・バレエでは初めて経験した。一般論として語ってはいけないことは承 知しつつも、バレエ・カンパニーの階級が持つ意味を改めて実感した舞台でもあった。