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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.05.10]

ギエムとマリファントの『PUSH』

2005年9月のセンセイショナルな初演以来、ロンドンで3回目の公演となったシルヴィ・ギエムとラッセル・マリファントのコラボレイション、 『PUSH』(サドラーズ・ウェルズ劇場)。全く同じ構成による3度目の公演ともなれば、常に変化しつづけるギエムとはいえ、多少なりともマンネリ気味に 感じるのではと思っていた。が、実際の舞台は、すべての演目がまるで初めてみたかのように新鮮だった。
初演時の、ポスト・パフォーマンス・トークでのギエムの発言が思い出された。「ラッセルはいつも振付けを変えるのよ」。その言葉の通り、マリファントの ソロ、『Shift』以外の3演目、『Solo』、『Two』そして『PUSH』は程度の差こそあれ、変更が加えられていた。

とりわけ印象が強かったのは、『Solo』。もともと、古典バレエ・ダンサーとしてのギエムを表現する振付だ。抽象的な振りなので、特にどこが顕著に変 わったと指摘するのは難しいが、「表現者」であると同時に「ダンサー」としてギエム自身が過去から未来へと向かっているのを感じた。言い換えると、いつま でも柔軟さを失わないギエムらしさを以前よりも鮮明に感じた。公演全体として、舞台上に「熟成」と「進化」が同時に存在しているようだった。

昨年のインタヴュー時に、サドラーズのスポルディング芸術監督が触れていたギエムとの新しい企画は、どこまですすんでいるのか、現段階では発表されてい ない。が、仮に、またマリファントとのコラボレーションになったとしても、充分、刺激と驚きに満ちたものになるのではないかと想像する。
ちなみに、別項でふれる、ロイヤル・バレエの2007/08シーズンのプログラムが発表された時に、モニカ・メイソン監督から、2007/08シーズ ン、ギエムがロイヤル・バレエで踊ることはない、と発表されたようだ。シルヴィ・ギエムという稀有なダンサーがどこに向かっているのかを知っているのは、 ギエム本人だけだろう。
『PUSH』
シルヴィ・ギエム、ラッセル・マリファント