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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.02.10]

ロイヤル・バレエの『ラプソディ』『ラ・シルフィード』『ナポリ』

 ロイヤル・バレエ、2007年の最初のプログラムは、『ラプソディ』/『ラ・シルフィード』、もしく は『ナポリ』/『ラ・シルフィード』の変則ダブル・ビル。一ヶ月に及ぶ『くるみ割り人形』が終了してすぐだったので、ダンサーにとっては厳しいスケジュー ルだったと思うが、興味深いプログラムだった。

初日の1月15日、フレデリック・アシュトンが1980年にバリシニコフに振付けた『ラプソディ』から始まった。プロダクションは、2005年4月号で 船引さんがレポートしているのと同じもの。1月の公演は、前回同様、主要ダンサーの二人はリアン・ベンジャミンとカルロス・アコスタ。2月は吉田都と、ホ セ・マーティンが踊る予定になっている。


 

「ラプソディ」

 

アコスタは、風格が漂っているような余裕が感じられ、前回の舞台で乏しいように思えたウィットに富んだ存在感をいい感じで表情、身振りから醸し出してい た。パフォーマンス自体も、観客が常にアコスタに望んでいるレヴェルにあったと思う。が、技のきれはいつも通りなのだが、「その回転は後2回転加えられる のでは」とか、「前回は、もっと宙空を滑走するような跳躍をしていたのに」、とも感じられた。前回上演時、2日目のパフォーマンスの時、アコスタは舞台上 で怪我をしたので、それが思い出されたのか。それとも、過密なスケジュールで体力が充分ではなかったのか、そんな印象が残る踊りでもあった。



 

「ラプソディ」

 

 パートナーのリアン・ベンジャミンは、現在、プリンシパル・ダンサーの中で最年長になる。そんな年齢への偏見を舞台のはるか後方に吹き飛ばしてしまうほ ど、彼女の踊りは見ごたえのあるものだった。スロー・パートでの緩やかで優美な動き。対照的に、素早い音楽にのって、瞬時に身体を止め、また瞬時に動き出 す全く無駄のないボディ・コントロール。本人の想いは判らないが、ベンジャミンのパフォーマンスからは、彼女はまだキャリアのピークに到達していないので はないかとさえ思った。


「ラ・シルフィード」ロホ、ボネッリ
  2005のシーズンにロイヤル・バレエのレパートリーに加わった『ラ・シルフィード』。カンパニーのプリンシパル・ダンサーで、デンマーク人のヨハン・コ ボーが手がけたこのプロダクションは、ロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に馴染んでいるような安定感が既に生まれていた。
初日の15日の、タマラ・ロホ(シルフィード)、フェデリコ・ボネッリ(ジェイムズ)、ホセ・マーティン(ガーン)、ラウラ・モレーラ(エフィ)、ギャ リー・エイヴィス(マッジ)、17日、サラ・ラム(シルフィード)、ヴィャチェスラフ・サモドゥロフ(ジェイムズ)、ブライアン・マロニー(ガーン)、カ ロライン・ドゥプロー(エフィ)、エリザベス・マックゴリアン(マッジ)の舞台を観た。


ギャリー・エイヴィス

ラウラ・モレーラ

ロホとボネッリ

  ロホ、ボネッリの踊りには、カンパニーを代表するダンサーとしての高度な技術、プリンシパル・ダンサーとしてのステージ・プレゼンスがあった。違和感が あったのは、ロホの、もしくはシルフィードを踊るダンサーにかなりの頻度で見受けられる共通点を感じたこと。『ジゼル』の影を見出すことが多いのだが、そ の解釈だとどうしても、『ラ・シルフィード』の本来の姿と違うのではないか、という思いが強くある。ロホの表情、仕種を見ていると、どこかしらに時折ジゼ ルの影響が感じられた。 

ロホとボネッリ


ボネッリ

ボネッリ

 逆にこちらの思い込みを満足させてくれたのは、サラ・ラム。常に笑みをたやさずに、ジェイムズの気を惹こうとする表現、踊りからは、乾いた残酷感を感じ た。言い換えると、子供が示すような、またヨーロッパのお伽話でよく見られるような、他者を省みない自分を満足させるためだけの独占欲を、ラムのシル フィードは表現していたように思う。


ボネッリ

ボネッリ


第1幕のリール
  一つ心配なのは、16日にジェイムズにキャスティングされていたヨハン・コボーが、今回も怪我で降板したこと。シーズン開幕時に怪我をしたのか、それとも 古傷の足首をいためたとも言われているが、彼の姿が舞台から遠ざかってかなり経つ。2月6日にもキャスティングされているが、ロイヤル・オペラ・ハウスで 伝統のブルノンヴィル・スタイルを観ることは叶うのだろうか。



第1幕のリール

2幕より



ロホとボネッリ

ロホとボネッリ

 『ラ・シルフィード』同様、今回の『ナポリ・ディヴェティスメント』はヨハン・コボーが手掛けたプロダクショ ン。通常は省かれることの多い前半部分の群舞を加えたのが注目された。また、プリンシパルからコール・ドまですべてのランクからダンサーが選ばれたのもロ イヤル・バレエにあっては、かなり画期的な試みだったと思う。舞台セットはいたって簡素で、ダンサーの踊りに集中できた。


「ナポリ・ディヴェティスメント」

「ナポリ・ディヴェティスメント」

 明るい印象のある『ナポリ』だが、ダンサーには体力的にきつい演目だ。とりわけ、ブルノンヴィル・スタイルの特徴、細かく素早い足さばきと跳躍のコンビ ネイションは、長期間に渡るきちんとしたトレーニングを受けていないダンサーには、一朝一夕でこなせるものではないだろう。ロイヤル・バレエのダンサーた ちは、そんな振付を自分たちのスタイルとして消化していた。が、特に前半で踊られたアンサンブル・パートでは、後ろに蹴り上げた足へ集中するあまり、他の ダンサーとのタイミングがばらばらになってしまったシーンが散見された。ただ、回数をこなせば、この点は向上していくとも思う。


「ナポリ・ディヴェティスメント」

「ナポリ・ディヴェティスメント」

「ナポリ・ディヴェティスメント」

 ダンサーで特に際立っていたのが、マリアネラ・ヌニェスとスティーヴン・マックレー。ヌニェスは明るい性格ということで、昨シーズンの『リーズの結婚』 やシーズン前半の『コッペリア』で、役への解釈と踊りの両方で高い評価を受けている。『ナポリ』でも、絶えることの無い微笑とプリンシパル・ダンサーが見 せて当然の技術がとても自然に融合し、舞台を輝かせる太陽のようだった。
破竹の勢いでカンパニーのランクを駆け上がっているマックレーは、本領発揮と言った所か。誰よりも高く、ぶれの無い跳躍はまるで空中に止まっているよう。また、細かな跳躍ではあたかも空中を浮遊していると思えるほど、彼の足は舞台から離れていた。



「ナポリ・ディヴェティスメント」

「ナポリ・ディヴェティスメント」

「ナポリ・ディヴェティスメント」