ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.01.10]

『The Wind in the Willows』:舞台から溢れでるイングリッシュネス

  2002年12月に、ロイヤル・オペラ・ハウスの地下にあるリンベリー・スタジオ・シアターで世界初演となった、『The Wind in the Willows』が3シーズンぶりに上演された。原作は、1906年にケネス・グレアム(Kenneth Grahame)によって書かれた子供向けの物語。テムズ河の岸辺に暮らす、もぐら、ねずみ、バジャーやカエルの暮らしを描いたもの。イギリスでは、ピー ター・ラビットと同じくらい広く愛されている物語だ。余談になるが、グレアムが舞台に選んだのは、ロンドン西部に位置するバークシャーを流れるテムズの岸 辺。最近、その岸辺を含む一帯が、大規模な開発計画によって消滅の危機にさらされているらしい。

振付と演出は、ウィリアム・タケット、舞台はThe Quay Brothers、ニッキー・ギリブランドが衣装、音楽は20世紀前半に活躍したイギリスの作曲家、ジョージ・バターワースの曲が使われている。
物語は、川岸の平和なひと時から、スポーツ・カーを乗り回すカエルが引き起こす混乱、最後は脱獄したカエルが、もぐらやアナグマと協力していたちを追い 払い、川岸は元の平和を取り戻す、というもの。舞台上にはナレーターがいて、歌手がいてと、厳密にはバレエとは言えないが、うたい文句の「5歳から105 歳まで楽しめる」の言葉通り、大人から子供まで楽しめる舞台だ。

ルーク・ヘイドン、
トム・サプスフォード


マシュー・ハート

うさぎ

マシュー・ハート

2002年の初演時は、アナグマにアダム・クーパー、カエルにマシュー・ハート、ねずみをウィル・ケンプ、そしてロイヤル・バレエ元芸術監督のアンソ ニー・ダウエル卿がナレーターと豪華なキャストだった。今回は、オリジナル・キャストのルーク・ヘイドンとトム・サプスフォード(両者とも昨年の『ピノッ キオ』にも出演)以外は、リシャール・クルト(Richard Curto、バジャー)、ニコラス・カフェツァキス(Nikolas Kafetzakis、ねずみ)、ユワン・ワードロップ(Ewan Wardrop、カエル)など、マシュー・ボーンやアダム・クーパーの舞台で活躍してきたパフォーマーが集まった。初演時、再演時にハートがみせた何かが 振り切れてしまった感じのパフォーマンス、言い換えれば「いったい、これは何?」、という衝撃は、残念ながら、ワードロップからは感じられなかった。が、 舞台の緊張感を高めるエキセントリックな存在感はさすがというべきか。最近、タケットの作品には欠かせない存在のロイヤル・バレエの元プリンシパル・キャ ラクター・アーティストのヘイドンの芸達者ぶりは、見ていてホッとする。飄々とした中にも、暖かみのあるコミカルさとでもいうのか、ヘイドンの姿自体が 「イギリス」のように思えた。
原作を知っていても、外国人には少々とっつきにくい作品かも知れない。が、舞台のそこかしこから感じる暖かさは、骨の芯に寒さがじわじわと沁み込んでくる真冬のイギリスで、暖炉の前で転寝しながら見る夢のような暖かさだった。
※画像は今回の公演のものではありません。