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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2006.11.10]

「ストラヴィンスキー・ヴァイオリン・コンチェルト」
ロイヤル・バレエのシーズン開幕のミックス・プログラム

 ロンドンの公園、通りの木々の黄葉が濃くなるのにあわせるように、ロイヤル・バレエの2006/07のシーズンが開幕した。過去2シーズン同様、ミックス・プログラムでの開幕となった。
上演された3作品はすべて1970年代に創作されたもの。モダン・バレエは、どちらかというとロイヤル・バレエにとってはあまり相性がよくないのでは、と の印象がある。始まる前は、不安半分、だが待たされたのだから、素晴らしい舞台を見せてもらわなければ、いや見せてくれるはず、とどきどきしながらロイヤ ル・オペラ・ハウスに向かった。
ミックス・プログラムのよい点は、一晩で、何人ものプリンシパル・ダンサーから、多くのコール・ドのダンサーを観ることが出来る所。今回、ファーストとセ カンド、双方のキャストを観たが、どのランクのダンサーもほぼトップ・フォームで踊っていた。結果として、こちらの期待をはるかに上回る充実した舞台での シーズン開幕となった。

最初の演目は、ジョージ・バランシンがニュー・ヨーク・シティ・バレエに1972年に振付けた『ストラヴィンスキー・ヴァイオリン・コンチェルト』。ロイヤル・バレエは1990年にレパートリーに取り入れた。

エドワード・ワトソン


ヨハン・コボー
  プリンシパル・カップル2組に、男女各8人、合計20人が踊るステージ。取り立てて筋のない抽象的なバレエだが、ダンサーが鋭くステージを横切るたび、 ウィットに富んだ仕種と表情を見せ、ストーリーが生み出されているように感じるほど、ロイヤルのダンサーたちはこの難しい振付を自分たちのものにしていた ように感じられた。自信と技術がとても上手く合わさった舞台だった。
筆者がファースト・キャストの二日目を見に行った10月13日、残念なことに、リアン・ベンジャミンのパートナーだったヨハン・コボーが怪我で降板。急 遽、ファースト・ソロイストのリカルド・セルヴェラが代役で踊った。ファースト・キャストのもう一組は、ダーシー・バッセル(今シーズンからプリンシパ ル・ゲスト・アーティスト)とエドワード・ワトソン。バランシンのプログラムで既に高い評価を得ているコボーを観ることが出来なかったのは残念だが、バッ セル、ワトソン、ベンジャミン、セルヴェラの舞台を観ていたら、別の感慨を持った。


左端は蔵健太

バッセルとワトソン

ベンジャミンとコボー

  ロイヤル・バレエのダンサーが国際色豊かになっていることは、多くの方がご存知だろう。ここでその是非を論じるつもりはない。実際、ベンジャミンはオース トラリア、セルヴェラはスペイン出身だが、13日に踊ったプリンシパル・ロールの4人はすべて、ロイヤル・バレエ学校で学び、ロイヤル・バレエに入団し、 少なくともトータルで10年以上はコヴェント・ガーデンで踊りつづけている(バッセルは25年以上ではないだろうか)。バッセルとワトソン、ベンジャミン とセルヴェラというペアはこれまで観たことがない。しかしながら、常に一緒にロイヤル・バレエのステージを創りつづけてきた経験を共有しているからだろ う、ぎごちなさは一切見て取れず、とてもスムーズで刺激に満ちたパ・ド・ドゥを4人は披露した。ロイヤル・バレエに限らずだが、こういったダンサーの継続 性が如何に素晴らしいステージを創り出すか、目に見えなくてもバレエ・カンパニーにとってどれほど得がたいものか、ということを強く感じた。


ベンジャミンとコボー

ベンジャミンとコボー

ベンジャミンとコボー

 2作品目は、今年80歳になるグレン・テトリーが、シュツットガルト・バレエに、1973年に振付けた『ヴォ ランタリーズ』。テトリーとほぼ同世代のジョン・クランコに招かれて、初めてシュツットガルト・バレエ団に振付けた作品を、クランコは目にするとことなく 突然の死を迎えた。彼を悼むため、とは厳密には言われていないようだ。にもかかわらず、振付が醸し出す雰囲気は、使われているプーランクの『オルガン・コ ンチェルト』の厳かな旋律とともに、観る者に静かに、しかし強く「運命」を訴えかけるものだった。


コジョカルとボネッリ

コジョカルとボネッリ

アリーナ・コジョカル

振付は複雑なフォーメーション、難易度の高いリフトが何度も繰り返される。充分にリハーサルをしたのだろう、ロイヤル・バレエのダンサーたちは、とても自 然に踊っていたように見えた。シンプルなセットとともに、これもまた舞台に物語が描き出されていると感じるほど、説得力のある踊りだった。セカンド・キャ ストを踊ったマリアネラ・ヌニェスとマーラ・ガレアッツィもとても美しく踊ったのだが、ファーストのアリーナ・コジョカルとサラ・ラムはこの振付で、バレ エ・ダンサーとして次のステージに到達したのではないかと思うほど、ドラマティックで完成度の高い存在感を示した。恐らく、振付家が彼女たちに望んだすべ てを舞台の上で再現していたのではないだろうか。



コジョカルとボネッリ

ルパート・ペネファザー

『ヴォランタリーズ』

2回目のインターヴァルが終了し、メイン・オーディトリアムの照明がおち、指揮者がタクトを振り上げた直後、ロイヤル・ボックスから金管の力強くエネル ギーに満ちたファンファーレがオペラ・ハウス内に響き渡る。同時に、緑滴る丘陵地帯を遠くに望むセットを背に、セルヴェラ、ホセ・マーティン、スティー ヴ・マックレイなどがトップ・スピードにのり、舞台を縦横無尽に、見事な踊りを披露し始める。

イリ・キリアンが1978年に創作した『シンフォニエッタ』を、ロイヤル・バレエがレパートリーに加えたのは、2003年とつい最近だ。初演時は、プリ ンシパル・ダンサーの技術で漸く乗り切った印象だったように記憶している。それが、今回は、一人としてプリンシパル・ダンサーは踊らず、ファースト・ソロ イスト以下カンパニーの中堅、若手がこれまでにないほど生命力溢れる舞台を創り上げていた。ややもすると器械体操のような踊りになってしまう危険をはらん でいる振付だが、ヤナーチェクの音楽にあわせて、躍動感と詩情が一体になった踊りだった。



『シンフォニエッタ』

『シンフォニエッタ』

『シンフォニエッタ』

今回の開幕プログラムで、ロイヤル・バレエのダンサーたちへの強力なサポートとなったのが音楽。普段は、馴染み の指揮者が演目ごとに年に数回のローテーションで、という具合なのだが、今回は久しぶりに(恐らく2回目)、ロイヤル・オペラの音楽監督であるアントニ オ・パッパーノが指揮をした。いつもの指揮者が悪いというわけではない。が、オーケストラのことを知り尽くしている彼が指揮をすると、こうまで音楽の充実 度が違うのか、と。更にその音楽に引き出されるかのように、ダンサーたちの動きも見違えるよう。バレエにおける音楽の重要さを改めて思い知らされた。

世界で活躍するパッパーノのことだから、スケジュール調整は難しいだろう。今回は、ロイヤル・オペラの『ムツェンスク郡のマクベス夫人』と掛け持ちで、連 夜、オーケストラ・ピットにいたようだ。が、出来れば近い将来、全幕バレエ、例えばチャイコフスキーの3大バレエの一つをパッパーノに指揮して欲しいもの だ。加えて、ストラヴィンスキーのヴァイオリン・ソロは、コンサート・マスターのワスコ・ワシリエフ、プーランクのオルガン・パートはロイヤル・オペラ・ コーラスのアシスタント・マスター、スティーヴン・ウェストロップが担当。ロイヤル・オペラ・ハウスのバレエ部門と音楽部門の相乗による、素晴らしいシー ズン開幕となった。