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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2005.12.10]

●「マルグリットとアルマン」ほかのミックス・プログラム

 ロイヤル・バレエ2005/06シーズンの二つ目のプログラムは、1幕バレエ3作品からなるミックス・プログラム。 上演順に、『ラ・フェイト・エトランジェ(奇妙な祝宴)』(アンドレ・ホワード振付、1940年初演)、『月に憑かれたピエロ(Pierrot Lunaire)』(グレン・テトリー振付、1962年初演)、 『マルグリットとアルマン』(フレデリック・アシュトン振付、1963年初演)。 何故この3作品が組み合わされたのかというと、人生の中で起こり得る三角関係を描いたもの、というのが共通項のように思う。 20世紀に創作された傑作バレエの一つとして名高い『月に憑かれたピエロ』のロイヤル・バレエ初演や、タマラ・ロホがマルグリット役を初めて踊るなど話題を集めたプログラムだった。

『ラ・フェイト・エトランジェ』
 ガブリエル・フォーレの曲に乗り、所々でソプラノ歌手の歌が挿入されるこの演目は森に迷い込んだ少年が、荘園の中庭に現われる所から始まる。
 少年は、その館で結婚の祝宴が進んでいるのを知る。バルコニーに現れた花嫁は、花婿が現れるのを心待ちにしているが、少年に気付く。 中庭では、祝宴に訪れた人々が音楽を奏でたりしながら楽しんでいる様子。

 そこに花婿が現れ、花嫁は彼によりそう。二人の幸せに満ちた踊りを見つめる少年。花婿が祝宴の場から離れたあと、少年は花嫁に近づく。 花嫁は少年も自分の結婚を祝福してくれていると思い、感謝の気持ちで彼と踊り始める。その場に戻ってきた花婿は、二人の踊りを花嫁の背信と勘違いし、彼女の懇願を冷たく拒絶する。 少年はなすすべなく花嫁に寄り添いつづけようとするが、その姿は花婿の不審をより強いものにし、最後は3人すべてばらばらの方向に離れていく。

キャストは、ダーシー・バッセル/ゼナイダ・ヤナウスキー(花嫁)、リカルド・セルヴェラ/ブライアン・マロニー(少年)、クリストファー・サウンダース/ギャリー・エイヴィス(花婿)のダブル。

ヤナウスキーとエイヴィス

ブライアン・マロニー
 花嫁、花婿を演じた四人の演技は、安心してみていられるものだった。が、英国バレエのお手本を体現したバッセルと演技派として名高いヤナウスキーをもってしても、この作品の印象は薄かった。 ホワードの振付が、主要登場人物の内面を深くまで掘り下げなかったのが一因と思える。 2000年秋にロイヤル・バレエが上演したアントニー・チューダーの『ライラック・ガーデン』が登場人物の数を絞ることで主要キャラクターの苦悩と心理的葛藤を抉り出していたのに対し、 ホワードは登場人物の心の葛藤には余り関係のないキャラクターを取りいれすぎたようだ。

バッセルとサウンダース

バッセルとセルヴェラ

ヤナウスキーとエイヴィス

ヤナウスキー

『月に憑かれたピエロ』
ア メリカ人振付家、テトリーが80歳になるのを記念して、初めてロイヤル・バレエのプログラムに加わった。 シェーンベルクが1912年に作曲した同名の曲を使い、同曲の構成にインスパイアされた振付も有る。 が、踊りのコンセプトは、曲で使われた詩によったものではなく、少年期から思春期、そして青年期へ至るまでの心の葛藤、性への戸惑いを描いたものと解釈し た。

  幕が上がると、舞台の真中にジャングルジムのようなものがぽつんとおいてある。真っ白な顔をして、帽子から足下まで白ずくめのピエロが嬉しそうに一人で戯 れている。 しばらくすると白塗りの女性(コロンバイン)が現れる。ピエロは、彼女に近づこうとしたり、彼女の洗濯物に興味を示すが、自分ひとりで遊んでいるほうが楽 しげだ。 しかし、しばらくすると、彼女への興味が強くなってきたようで、ある拍子に彼女の胸に手を当ててしまう。驚くピエロ。彼の頬を叩き、怒って舞台から去るコ ロンバイン。

プトロフとアコスタ


プトロフ、アコスタ、チャップマン
  黒いマスクをかぶった、怪しげな男(ブリゲラ、または誘惑者)がピエロに近づいてくる。ブリゲラは、まるで鏡に映っているかのように、ピエロと全く同じ動 きをする。不思議そうなピエロ。 ブリゲラに手渡された剣をピエロがもてあそんでいる間に、ブリゲラは「情婦」を連れてくる。ピエロを情婦にけしかけるブリゲラ。 おずおずと、やがて彼女との踊りにのめりこんでいくピエロ。その姿は、もう以前のピエロとは別人のよう。困惑するピエロの手足に紐をくくりつけ、操ろうと するブリゲラと女。 ピエロは何とかそこから逃れるが、疲れ果てて倒れこんでしまう。

  動かなくなったピエロから、彼の白い帽子と服を剥ぎ取ったブリゲラは、それを身につけ高笑いする。 気がついたピエロは、自分が何をしたのか、自分の身に何が起きたのかが全くわからないかのよう。 その様を、ジャングルジムの上から静かに眺める誘惑者と女。やがてピエロは彼らのもとに上る。誘惑者は、ピエロに彼の白い帽子を返すが、それを捨てるピエ ロ。 終曲の「古き香り」が奏でられる中、誘惑者と女の間に立ったピエロは、二人を自分の肩に優しく抱き寄せる。もとの自分には戻れないのを悟ったかのように。  

プトロフとチャップマン

 この演目を上演予定に見つけたとき、正直誰が踊れるのか見当もつかなかった。しかし、ファースト・キャストで ピエロを踊ったイヴァン・プトロフの熱演はカンパニー初演の夜に相応しいものだった。 約40分間もの間舞台に出ずっぱり、その間中激しい踊りから伝わるピエロの心の葛藤が、観る者全てに自分たちの過去を想起させるかのような迫真の踊りだっ た。 更に、ブリゲラ/誘惑者を踊ったカルロス・アコスタ。氷のような冷たさを放ちながら、燃えあがる邪な欲望を隠そうともしないふてぶてしい踊りは、強烈だっ た。 ここ最近、抽象的な1幕物でのアコスタは、外れがない、といってもいいくらい。 また、ランバート・ダンス・カンパニーに在籍時、すでにコロンバイン/情婦を踊っているダイアドレ・チャップマンも、聖と俗の描き分けが見事だった。 この三人(ファーストキャスト)の熱演は、カンパニーのクォリティの高さを証明したと言えるだろう。


プトロフとチャップマン

プトロフ

プトロフ

アコスタ

『マルグリットとアルマン』
 この春に続く上演とういことで、演目自体への新鮮味は余り感じられなかったが、注目はタマラ・ロホのマルグリット役のデビュー。
既にマクミランの『ロミオとジュリエット』、『マイヤーリング』、クランコの『オネーギン』のタチアナなどのドラマティックな役で、それぞれの深い解釈 で高い評価を得ているロホ。 彼女のマルグリットは思いのほかあっさりしたもの、というのが第一印象だ。特にアルマン(フェデリコ・ボネッリ)との愛を確かめあうパ・ド・ドゥなど、成 熟した大人の女性というより、儚さを秘めた10代の少女ようにみえた。が、最後、アルマンに抱えられながら、腕を天へと伸ばすシーンでは、アルマンへの愛 がほとばしるのが判る熱のこもった演技だった。

シルヴィ・ギエム

ファースト・キャストのシルヴィ・ギエムの相手は、スカラ座からのゲスト、マッシモ・ムッル。そしてロホの相手を務めたボネッリと、奇しくもアルマンは イタリア人ダンサー。こちらの勝手な思い込みがあるのを承知の上で、今回の再演で一番弱かったのがアルマンだった。
逆に、舞台に鮮烈な印象をもたらしたのが、アルマンの父親を演じたアンソニー・ダウエル。ロイヤル・バレエの芸術監督を退いてから様々な脇役(もしくは 準主役)を踊りつづけているダウエルだが、今回の父親役では、まだまだダンサーとしても現役、と言う印象が強まった。ギエム演じるマルグリットとダウエル の父親二人だけが舞台に居ると、父親役に新たな命を吹き込むようななまめかしさを感じた。

2000年にこの作品が再演されて以来、マルグリットといえばシルヴィ・ギエムの代表作のように語られる。今回も、彼女なりに役を深めたようだった。特 に最期、目をかっと見開いたまま息を引き取る様は、マルグリットの人生は悲しくも美しい物語として思い出されるのではなく、凄絶な人生として残された人々 は語るべきものだ、と訴えているような印象だった。



シルヴィ・ギエム

シルヴィ・ギエム

ギエム、ドリュー