ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2005.12.10]

●『ラ・シルフィード』他の別キャストと『ル・ランデヴー』

『ザ・レッスン』
 エドワード・ワトソンの「バレエ教師」役へのアプローチは、ヨハン・コボーとはかなり違っていた。舞台に登場 するやいなや、「あ、どうしてだか判らないけど、この人どこか怖い」と思わせたコボーに対し、ワトソンが舞台奥から居心地悪げに出てきたとき、人付き合い がちょっと下手な青年、という感じだった。それが生徒(コジョカル)が彼の腕を払いのけた途端、がらりと表情が変わった。まるで、子供が「このおもちゃ、 僕の思い通りに動かない。懲らしめてやらなきゃ」、そんな印象をもった。

コボーとワトソン、どちらのアプローチが振付にあっているのかは観る人次第だろう。ワトソンのほうはより攻撃的な面が強調されたようだったのに対し、コ ボーからは倒錯的な雰囲気を強く感じた。個人的には、コボーとヤナウスキーの間から感じた、力関係の切迫感から醸し出される倒錯的な雰囲気のほうが面白 かった。
生徒役のアリーナ・コジョカルの演技からは、昨シーズンの『ウェディング・ブーケ』(アシュトン振付)で花嫁を演じた彼女から感じたことを思い出した。 バレエの内容は全く正反対だが、「人を疑うことを知らないが故に人をトラブルに巻き込む純真無垢な仕種」、そしてその「天真爛漫さが、周りの人々の心の傷 をうずかせる」。まさにはまり役だった。

『ル・ランデヴー』
『ル・ ランデヴー』の初演は、1933年。プログラムによれば、アシュトン自身が1959年に手を加えたものが、現在の振付の基礎になっているようだ。ロイヤ ル・バレエでは2000年冬のミックス・プログラム「アシュトン・リヴィズィテッド」以来の上演。舞台のセットはアンソニー・ワード。
主役の女性は、マリアネラ・ヌニェスと吉田都のダブルキャスト。女性は、白地に、色とりどりの大きな水玉模様のふんわりしたドレス。男性は、主役を除い て、太い縦ストライプのジャケットに白いタイツ。パ・ド・トロワの女性のドレスの水玉模様は黄色、そして主役の女性は鮮やかなピンク。二人とも水玉模様と 同じ色のひじまである長い手袋をしていた。アシュトンの『バレエの情景』同様、特別な筋立てはなく、満月が明るく照らし出す森の中で、男女の楽しげな踊り が繰り広げられるもの。

吉田都とホセ・マーティン


吉田都とホセ・マーティン
吉田都とホセ・マーティンが主役を踊った日を見たが、この二人の踊りはアシュトンの抽象的なバレエの美しさを十二分に堪能できるものだった。更に、踊るべき人が踊れば、舞台上で「物語」が始まる、そう確信してしまうクォリティだった。
吉田は、まるで体全体から音楽を奏でているよう。指先から、肩から、美しくそらせた背中からと、体のそこかしこからメロディが流れ出し、彼女に導かれて オーケストラが音楽を紡いでいるようだった。ひじから指先にかけての動きが殊のほか美しく、思わず見とれてしまうほど。また、回転一つをとっても、ただ回 りました、というものではなく、足首、腰、背中、肩、そして首それぞれの回転の速度が微妙に違っているようで、どうすればあのようなボディ・コントロール ができるのか。

 相手役のホセ・マーティンは、『ラ・シルフィード』でのガーン役に続いて会心のパフォーマンス。昨シー ズン、急遽踊った、同じくアシュトン振付の『ラプソディー』では難易度の高いジャンプにてこずっていたようだった。が、この夜は跳躍も回転も音楽から外れ ることなく、流れの中できちんとまとめていた。また、この二人からはほぼ全く足音が聞こえず、ロイヤル・バレエのダンサーが踊るアシュトンバレエの素晴ら しいお手本を観ているようだった。
パ・ド・トロワを踊ったラウラ・モレーラも、上半身の動きと下半身の動きの調和が取れていた。昨シーズン、多くのアシュトン作品を踊ったことで自信を深め たのだろう。反面、トロワを踊った男性二人や、コール・ドの踊りは、ちぐはぐとは言わないが、どこかぎこちなく、笑顔もなんだか引きつっているようで、ア シュトンの振付が如何に難しいものなのかを実感したパフォーマンスでもあった。


吉田都

ホセ・マーティン

吉田都

『ラ・シルフィード』
 後半2回、ジェイムズを踊る予定だったヨハン・コボーが病気のため降板。結局、ジェイムズ役はプトロフの他に は、ソロイストのルパート・ペニファザーを見た。恐らく、ロイヤル・バレエの、次代のイギリス人男性プリンシパルになって欲しいという期待を一身に背負う ペニファザー。昨シーズン以来、大きな役を演じてきたからだろう、成長途上という印象はあるものの、自分の踊りに対する自信がより強く感じられた。技術的 には、プトロフや評判の高かったサモドゥロフにはまだ及ばないのかもしれないが、これからの活躍への期待が高まる。
シルフ役は、コジョカルの他にタマラ・ロホで、技術的には恐らく現在のロイヤル・バレエの中では、トップクラスだろう。すべてが安心してみていられるも のだった。一つ難あげるとすれば、彼女は地に足がついた情念の役を踊るバレリーナであって、妖精にしては余りにも人間らしかった。