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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.04.10]

●ロイヤル・バレエ、『ラプソディー』他ミックス・プログラム

「アシュトン100セレブレーション」の一環として『ラプソディー』の再演を中心とする、アシュトン/ウィールドン/バランシンのミックス・プログラムが3月11、14,18日の3日間ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されました。

フ レデリック・アシュトン振付『ラプソディー』(音楽:パガニーニの主題による狂詩曲(ラフマニノフ作曲))は、1980年エリザベス皇太后80歳御誕生日 記念ガラコンサートでミハイル・バリシニコフとレスリー・コリアーによって初演された作品。バリシニコフの類まれなる身体能力と技術そして彼のカリスマ性 を称えたショーケース的この作品は、バリシニコフのために振付けられたというのが一目でわかるほどに観客を興奮させるジャンプや大技の連続が特徴と言える でしょう。今回キャストされたのはRBの大人気ダンサー、カルロス・アコスタとイヴァン・プトロフ、両ダンサーとも技術とスター性では現在のバリシニコフ 的存在でしょう。アコスタはどんな難度の高いジャンプでも余裕の面持ちでこなし、彼の非の打ち所の無いテクニックが印象的でした。しかしウィットに富んだ バリシニコフの魅力が色濃く映し出されているお辞儀などの仕草的なステップからは、観客の心をつかむ魅力を感じることは出来ませんでした。一方、プトロフ は初役の緊張のためか、観ている側がハラハラしてしまうような技術的に不安定な部分、さらに立ち姿からは弱々しさを感じる部分があり残念なデビューとなっ てしまいました(3月14日)。

『ラプソディー』


『ラプソディー』
女 性ダンサーの振付もまさにレスリー・コリアーの姿が目に浮かぶ軽やかなアレグロ・テクニックが特徴的。アコスタのパートナーとして初日を飾ったリアン・ベ ンジャミンの空気のような軽やかさと透明感はため息が出るほどに感動的でした。ターナーの水彩画を思い起こさせるような背景(美術:ジェシィカ・カーティ ス)に、浮かび上がるイメージからはこの世のものとは思えない霊的な印象を覚えました。一方プトロフのパートナーとして2日目の舞台を飾った、吉田都の軽 やかでありながらも非常にクリアーなステップからは喜び溢れるイメージが見られ、リアンの舞台とまったく異なる作品であるような印象を受けました。

その他特筆すべき点として、主演ダンサーに劣ることなくザン レールやアントゥルシャ・シスなどで非常に安定したテクニックを魅せた、6人の男性コール・ド・バレエ(佐々木陽平、リカルド・セルベラら)と6人の女性 コール・ド・バレエの中で、ひときわしなやかで詩的なアームスが印象的だった崔由姫が挙げられるでしょう。


『ラプソディー』

『亡き王女のためのパヴァーヌ』

『亡き王女のためのパヴァーヌ』

本来このミックス・プログラムではクリストファー・ウィールドンの新作発表が予定されていましたが、ウィールドンの病気のためにキャンセルとなり、2つの 小作品:ウィールドン振付『亡き王女のためのパヴァーヌ』とバランシン振付『デュオ・コンチェルタント』が代わりに上演されました。『亡き王女のためのパ ヴァーヌ』は1996年の初演キャスト:ダーシー・バッセル&ジョナサン・コープで再演。2人のジャンプは目に焼きつくように印象的でしたが、作品全体と してはラベルの涙が出てくるほどに叙情的で美しい音楽に対して、ドライな印象を与えるネオ・クラシックのイメージに違和感を覚えました。

ジョー ジ・バランシン振付『デュオ・コンチェルタント』(曲:ストラヴィンスキー)は、バレエ作品であると同時にコンサートでもある一風変わった作品。舞台上で のピアニストとヴァイオリニストの演奏をダンサー(アリーナ・コジョカル&ヨハン・コボー)は踊らずにピアノの横で寄り添って聞き入っているという演出/ 振付は興味深いものがありました。アリーナはバランシン・テクニックの特徴と言える長いアームスと存在感のある手先、そしてクリアーで音楽性の高いアレグ ロ・テクニックで観客を魅了しました。さらにコボーはオリジナル・キャストのピーター・マーティンスのイメージを呼び起こす雰囲気と、重さ/軽さの異なる 質感の絶妙なバランスの保ったステップとジャンプが非常に印象的でした。

プログラムの最後を飾ったのは、バランシンの『シンフォニー・イン・C』。押し寄せてくる波のような迫力と爽快感溢れる第4楽章のフィナーレは何度観ても 鳥肌が立つほどの興奮と感動を覚えますが、11日初日のフィナーレでは4人のプリマ(マラキス、バッセル、チャップマン、ロッホ)にばらつきが見られ、 14日のセカンドキャスト(マラキス、バッセル、モレラ、ランム)ではばらつきは見られなかったものの、どこか4人のプリマの競演という迫力に欠けている 感があり、非常に残念に思いました。6月に予定されている異なるミックス・プログラムでの『シンフォニー・イン・C』再演に期待が寄せられます。

『シンフォニー・イン・C』
第2楽章

(2005年3月11、14日、ロイヤル・オペラ・ハウス)