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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.09.10]
From Nagoya -名古屋-

ロボット2体と俳優6名が共演した平田オリザのロボット版『森の奥』世界初演

平田オリザ 脚本・演出 ロボット版『森の奥』
平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)あいちトリエンナーレ2010
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あいちトリエンナーレ2010のパフォーミングアーツのオープニングとして、平田オリザ脚本・演出のロボット版『森の奥』が上演された。これは平田と同じ大阪大学教授で知能ロボット研究の世界的第1人者、石黒浩がタッグを組んで、推進している<ロボット演劇プロジェクト>の初めての劇場公開作品の世界初演だという。
俳優6人が近未来の研究者と研究に関わる開発業者を演じ、イチロウとヨシエという男性と女性の名前を持つ2体のロボットが共演する、会話を主体とした演劇である。
ロボットは写真のように、2足歩行ではなくキャスターで移動する。台詞や動作はあらかじめプログラムされているが、会場内のセンサーと交信しながら遠隔操作されて<芝居>をしていた。
 

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2030年、コンゴの霊長類の研究所のサロンが舞台。ここでは、500万年かかった進化を人工的に五十年くらいの促成で実現するプロジェクトが進行中である。そのプロジェクトの実験には、ボノボという乱交して生殖するため、親子の意識の極めて希薄な類人猿が使われている。
そこに一人の子供の病気に悩む女性研究者が登場して、ロボット演劇が始まる。
DNA的に人間に極めて近く、ある種の感情的反応もある猿を、人間の病気を治すために生体実験をすることは許されるのか、というテーマから、どこからが人間でどこからが猿なのか、そも人間とはなにか、といった会話が交わされていく。研究者たちはそれぞれキャラクターがあり、過去の体験もあって会話の中には、当然、感情の流れがみてとれるのだが、ロボットは状況に対する反応があるだけ。

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映画やアニメ、漫画などの中でロボットと人間は昔から共演してきたが、生の舞台で意見を言うロボットと俳優が共演することはなかった。実際、イチロウとヨシエの2体が会話に加わったことで、研究者たちの感情の動きがおのずと浮かび上がり、じつに興味深かった。
淡々とした未来の研究室のサロンで、生殖や子殺し、研究者とカネ、母親のモラルなどの重い会話が交わされるが、イチロウとヨシエの意見には重さや軽さはない。
イチロウもヨシエも意見を言ってはなにかにつけて「すみません」と言う。このロボットの配慮がなかなか興味ふかかった。
結局、ゴリラのドラミングやアフリカの巨大な虹、シンデレラのガラスの靴などのエピソードの中に、人間独特のDNAがあるのかもしれない、などとも思った。
「この命なにを齷齪/明日をのみ思ひわづらう」と詩ったのは藤村だが、平田オリザは「未来には夢も希望も絶望もない」とじつに冷静だった。
(2010年8月21日 愛知芸術文化センター・小ホール)