阪神淡路大震災から30年。かじのり子は宮城県の水彩画家・加川広重が描いた「2011 3 12 夜明け前」の前で踊った
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
藤田佳代舞踊研究所「かじのり子モダンダンスステージVI」
『この世にあるものたち』藤田佳代:作舞、『光の在処』かじのり子:作舞
藤田佳代舞踊研究所モダンダンス公演として行われた「かじのり子モダンダンスステージVI」。かじのり子が中心を務めるステージとして6回目の公演。
まず上演されたのは、師である藤田佳代の作舞による『この世にあるものたち』。かじがヒト役を踊り、その "ヒト"の目を透して、夏のヒヨドリ(菊本千永、石井麻子、板垣祐三子)や、秋冬のオミナエシに雲、春のハイタカに白カタバミといった季節のもの、ヘール・ボップ彗星(山本奈央)、メタセコイヤ(向井華奈子)、アリといった自然界のさまざまなものを見つめていく。
そして後半が、かじが今回のために作舞した『光の在処』。今年は阪神・淡路大震災から30年の節目だ。藤田佳代舞踊研究所は神戸の団体、あの日を振り返りながら創作した作品。
舞台のバックには、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県の水彩画家、加川広重が描いた「2011 3 12 夜明け前」の巨大な絵画。この絵を見たかじが、「この絵の前で踊りたい!」と恐る恐る電話をしたという。そうすると加川は「あれでは舞台装置としては小さいですよね。大きいものを描きますよ」と快諾。その大きな絵が舞台で使われ、元の作品はロビーに飾られ観客が近くで観ることができた。

『光の在処』
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦
「夜明け前、復興、復旧などという言葉も口に出せないほどの絶望のなか、あとから考えるとあれが光の在処だったのかな、と思える小さな光に、それでも立ち上がりたい、一歩でも前に進みたいと願った30年前の神戸が重なりました」とかじはプログラムに書いている。
4つの場に別れた作品で、地震の前兆を思わせる不気味な「闇 蠢く」、さらに迫る「漆黒の」。そして起こってしまった、大切なものが瓦礫と化してしまったところでの、かじのソロ「大切だったもの」。地に伏し、悲しみながら、けれどもがく、かじの悲痛な踊りが心に辛く響いた。そして、静かな群舞「夜明け前」に。
正直なところ、高い身体能力を見せる踊りではない。けれどもテーマに真摯に、丁寧に向き合って、よけいなことをせずに真っ直ぐな思いのなかで創り、踊っていく──そんなところに好感が持てる作品だった。
(2025年11月8日 神戸ファッション美術館オルビスホール)

『光の在処』
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦

『光の在処』
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦

『光の在処』
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦

『光の在処』
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦

『この世にあるものたち』ヒト:かじのり子
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦

『この世にあるものたち』
メタセコイヤ:向井華奈子(中央)
© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦

『この世にあるものたち』© 藤田佳代舞踊研究所 撮影:中野良彦
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