ダンサーたちそれぞれの魅力を活かして仕上げられた貞松・浜田バレエ団『海賊』
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
貞松・浜田バレエ団
『海賊』貞松正一郎:振付、ジョセフ・マジリエ、マリウス・プティパ:原振付
1856年にパリ・オペラ座でジョセフ・マジリエの振付で初演され、その後、1863年、ロシア、マリインスキー劇場でマリウス・プティパ振付で上演された『海賊』。高度のテクニックを含む踊りの見せ場がふんだんに散りばめられた演目だ。グラン・パ・ド・ドゥやパ・ド・トロワは、ガラ公演となれば必ずといってよいほどプログラムに入っているのではないだろうか。優れたテクニックを持つダンサーが多く育っている関西では、『海賊』に愛着を持つ人が他の地域よりも多いように思える。実は、『海賊』の日本初演は関西なのだ。グラン・パ・ド・ドゥやヴァリエーションは全国でしばしば上演されていたものの、全幕の日本初演は意外に最近のことで、21世紀に入ってから。2002年の日本バレエ協会関西支部主催バレエ芸術劇場でコンスタンチン・セルゲイエフ版の『海賊』が上演されたのが全幕日本初演。この時、東京など全国から多くのバレエ関係者やファンが訪れたという。

『海賊』
コンラッド:水城卓哉、アリ:幸村恢麟、ビルバント:後藤俊星
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

『海賊』
ギュリナーラ:井上ひなた、ランケデム:小森慶介
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

『海賊』メドーラ:名村空
撮影:岡村昌夫(テス大阪)
貞松・浜田バレエ団が、貞松正一郎の改定振付により、『海賊』全幕をレパートリーに入れたのは2021年。古典に敬意を払いつつ、高いレベルの技術と表現力を持つダンサーたちの魅力を引き出し、この年の文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。4年前ということで、まだ記憶に新しいこの作品が今回再演されることになった。音楽は井田勝大指揮、びわ湖の風オーケストラ。
コンラッド役の水城卓哉とアリ役の幸村恢麟は前回通りのキャスティング、女性主役はガラッと変わって、メドーラに名村空、ギュリナーラに井上ひなた。また、男性もビルバントを後藤俊星、奴隷商人ランケデムに小森慶介とフレッシュな顔ぶれも並んだ。
コンラッドの水城は、経験を重ね、リーダーらしい風格、包容力を観せ、アリの幸村のゴムのように弾む高い身体能力を活かした高度なテクニックの数々にも目を奪われた。そして、とにかくメドーラの名村は、優雅さ、気品を持った落ち着きのある踊り、必要な場では毅然とした知性を滲ませ、物語を引っ張っていった。ギュリナーラの井上は、登場しただけで舞台がパーッと明るくなるような天性の魅力と、奴隷市場の場面のグラン・パ・ド・ドゥでは売られる身という境遇のなかで清純な魅力を観せた。ビルバントの後藤は説得力ある演技で役を演じながら男性群舞の中心で迫力ある踊り、小森は奴隷商人ランケデムを伸びやかな踊りで楽しげに表現していた。
女性群舞のたおやかさ、男性群舞の荒々しさと、良いダンサーが次々と育っているバレエ団ということを再認識させた群舞も満足いくものだった。
(2025年9月21日 あましんアルカイックホール)

メドーラ:名村空、コンラッド:水城卓哉、アリ:幸村恢麟、ビルバント:後藤俊星
撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

『海賊』撮影:大藤飛鳥(テス大阪)

パシャ:川村康二
撮影:岡村昌夫(テス大阪

オダリスク:宮本萌、山本小海、高橋涼
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

メドーラ:名村空、ギュリナーラ:井上ひなた、コンラッド:水城卓哉、アリ:幸村恢麟
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

コンラッド:水城卓哉
撮影:岡村昌夫(テス大阪)

メドーラ:名村空、ギュリナーラ:井上ひなた 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
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