神原ゆかりが振付けた『春の祭典』をメインに──ゆかりバレエ創立35周年記念公演
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
「ゆかりバレエ」
『春の祭典』神原ゆかり:振付
神原ゆかり主宰の「ゆかりバレエ」の創立35周年記念の公演。これまでの節目、10周年から5年毎の周年公演には、佐多達枝の『カルミナ・ブラーナ』を6回に渡って上演してきたと聞くが、今回は主宰の神原自身が振付けた『春の祭典』をラスト、メインの作品として行われた。
3部構成、順を追って印象に残った踊りをご紹介したい。
まず、第1部は「バレエ・コンサート」。大人の落ち着いた魅力の村川幸樹とさすがのテクニックを観せた市橋万樹の『ライモンダ』よりグラン・パ・ド・ドゥ。そして芯の強さを感じさせた志賀香梨と、きっちりと気持ちの良いバレエの パ をいきいきと観せた末原雅広の『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ。『ダイアナとアクティオン』のグラン・パ・ド・ドゥは、齊藤耀と牧村直紀が踊った。軽やかで輝きに溢れた齊藤のダイアナ、雄々しくダイナミックな牧村のアクティオン、息のあった2人の踊りを楽しんだ。

ダイアナとアクティオンのグラン・パ・ド・ドゥ
齊藤耀、牧村直紀
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『クララの夢』金平糖のグラン・パ・ド・ドゥ
神原ゆかり、須藤悠
© エー・アイ 撮影:山崎光彦
第2部は「クララの夢」。タイトルから想像できる通り『くるみ割り人形』からの抜粋だ。全体の改訂振付は神原だが、アラビアの踊りを志村昌広が、あし笛の踊りと人形の踊りを今村早伽が振付けた。楽しげなクララ(小松蒼央)を中心に様々なディヴェルティスマンが繰り広げられる。アラビアの中心の長友麻衣花の毅然とした魅力を持った踊りが特に印象に残った。
金平糖のグラン・パ・ド・ドゥは神原と須藤悠。須藤の優しげな王子、そして、神原の繊細な危うさを持った踊りが、金平糖のヴァリエーションのチェレスタが奏でる、どこか憂いを感じさせるメロディーにとても合う。
ラスト第3部が、いよいよ神原振付の『春の祭典』だ。バレエ・リュスでニジンスキーが1913年に振付けて以降、このストラヴィンスキーの音楽には、世界中の錚々たる振付家たちが挑んでいる。レオニード・マシーン、モーリス・ベジャール、ケネス・マクミランやジョン・ノイマイヤー、ピナ・バウシュ、ウヴェ・ショルツ......と挙げればきりがなく、近年の日本でも続々と。振付家それぞれがそれぞれの思いで形にしているわけだが、今回の神原の『春の祭典』から強く感じたのは "生と死" ──それは静かに淡々と受け入れるのがふさわしい自然なもの、そんなふうに思わせる世界観。舞台の奥上方には"蟲"と書いた大きな垂幕。これは名古屋の混声合唱団グリーン・エコーが、1977年に柴田南雄の『念佛踊』を演奏した時に舞台奥に飾られていたものだそうで、朝日新聞学芸部の兼松伸之記者によって書かれたものだそう。
「人間も蟲(むし)である」という思いのもとで振付けたという。神原はバレエからスタートした人で、もちろん今もバレエを踊っているわけだが、現代舞踊や舞踏など様々なパフォーマンスを積み重ねて来ている人。だからこそと思える、東洋的、日本的な世界観を感じさせる『春の祭典』。高いテクニックを持ち、自由自在に身体が動くように見える鮮やかな技を駆使しながら表現した男性3人、末原雅広、市橋万樹、牧村直紀の踊りに惹きつけられ、須藤と神原の複雑さ、深みを感じさせる表現にしみじみとする、見応えある作品だった。
(2025年11月3日 Niterra 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール)

『春の祭典』牧村直紀
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』牧村直紀
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』牧村直紀(中央)
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』牧村直紀
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』神原ゆかり、須藤悠
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』神原ゆかり、須藤悠
© エー・アイ 撮影:山崎光彦

『春の祭典』
© エー・アイ 撮影:山崎光彦
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