ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2011.10.11]
From Osaka -大阪-

ロシアの新進振付家のトリプルビル、地主薫バレエ

振付:コンスタンチン・セミョーノフ『カンマームージク』『テアトロ・ダモーレ』『魔法の筥』
地主薫バレエ団

ここ数年、観る度に全体のレベルが上がっていることが感じられる地主薫バレエ。昨年秋の『ドン・キホーテ』でキトリ役だった金子扶生は英国ロイヤル・バレエに入団、バジル役だった奥村康祐は、その役で文化庁芸術祭新人賞を受賞したとともに、全国のさまざまなバレエ公演で主要な役をこなし、この秋からは新国立劇場バレエに入団している。さらに素晴らしいと感じるのは、レベルが上がっているのが、主役級のダンサーだけではなくて群舞の隅々までだということ。膝がきちんと入った美しい脚のダンサーが多いのも良い。

osaka1110a01.jpg 『魔法の筥』撮影:OfficeObana

そんな伸び盛りの地主薫バレエ、これまではクラシック・バレエの全幕作品の上演で成果を上げて来たわけだが、今回はガラッと変わり創作作品ばかりのトリプル・ビル。それも、全作品がロシアの26歳の新進振付家コンスタンチン・セミョーノフのオリジナル作品、初演なのだ。
2009年のモスクワ国際コンクールで彼の作品を観て感動した地主が、その後コンクール用の小品などを依頼し、やはりその作品も気に入るなかで、今回、彼に公演を任せてみることにしたのだという。彼は国立モスクワ舞踊アカデミー卒業後、モスクワ音楽劇場バレエに入団、その後国立モスクワバレエアカデミーの舞踊振付教師コースに入学して振付を学び、モスクワ国際バレエコンクールの振付部門での受賞経歴もある。だが、今回のように大人数のダンサーが出演する作品を振付けるのは初めてだったそう。
公演を観終わって、3つの作品がそれぞれ違ったタイプの魅力を持っている上に、どれも彼の音楽を大切に愛おしく感じているからこそ出るようなセンスの良さが溢れているとともに、“新しい時代の感性”といいたくなるようなものを感じ、フレッシュな振付家の本格デビューに立ち会えたことがとても嬉しく思えた。
まず、最初に上演されたのは、P・ヒンデミットの曲に振付けた『カンマームージク』。クラシックの基礎がしっかり入ったダンサーだからこそのテクニックを活かした軽快で速度のある動きは、まるで音楽そのものが目の前に現れたよう。なかでも自由自在に身体を使っているようでイキイキと印象的だったダンサーは末原雅広、観ていて気持ちがスカッとするような鮮やかな踊りだった。

osaka1110a04.jpg 『カンマームージク』撮影:OfficeObana osaka1110a06.jpg 『カンマームージク』撮影:OfficeObana
osaka1110a05.jpg 『テアトロ・ダモーレ』撮影:OfficeObana

2つ目に上演されたのは、C・モンテヴェルディの曲での『テアトロ・ダモーレ』。プログラムに「イタリアルネッサンスの名作彫刻の立体さを」とあるのだが、本当に美しい彫刻が滑らかに動いているように感じさせる作品。バレエのことを“動く彫刻”という人がいるが、まさに。振付者本人もダンサーとして出演し、パートごとにさまざまな愛が表現される。奥村唯と奥村康祐のパ・ド・ドゥ、奥村唯の持ち前の明るさと清純な雰囲気を同居させての踊りが魅力的で成長を感じた。また、この作品、深紅のベルベットの幕が、さまざまな吊られ方をすることで、場面の変化が表され、そこにも視覚的なセンスの良さを感じた。

最後の作品は、G・ロッシーニとO・レスピギの曲を使っての『魔法の筥(こばこ)』。大きなおもちゃ箱から飛び出すおもちゃたちとの、少年(奥村康祐)と少女(安井遥子)の不思議体験。可愛らしくコミカル、そして全体が優しい視点で描かれているのがなんとも心地よい。黒縁メガネの少年、奥村康祐が本当に無邪気で可愛らしく、この人は良いダンサーであるとともに、さまざまな役をそれぞれ魅力的にこなせる役者だなとつくづく感じる。また少女役の安井遥子も美しくしなる脚、確かなテクニックを持っている同時に、自然な演技力も持っていて観客を物語に引き込んだ。クリスマスに世界中で『くるみ割り人形』が上演されるように、この作品も大人も子どもも楽しめるバレエとして繰り返し上演されると、きっと多くの人が楽しめるだろうな……と、そんな風に思えた。
(2011年8月24日 NHK大阪ホール)

osaka1110a02.jpg 『魔法の筥』撮影:OfficeObana osaka1110a03.jpg 『魔法の筥』撮影:OfficeObana
osaka1110a07.jpg 『魔法の筥』撮影:尾鼻文雄 osaka1110a08.jpg 『魔法の筥』撮影:尾鼻文雄