ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2012.06.11]
From Nagoya -名古屋-

バレエと和太鼓のスリリングなコラボレーション

テアトル・ド・バレエカンパニー ダンス・ボザール/First Red
振付:深川秀夫、井口裕之『Symphony in AA』

深川秀夫が芸術監督を務めるテアトル・ド・バレエカンパニーが「ダンス・ボザール」と称したダンス公演を行った。春の公演では秋の本公演とは対照的に、より実験的な創作作品に挑みながら、若手の起用にも積極的に取り組んでいる。このトリプル・ビルでは、新国立劇場バレエ団で活躍後、昨年からバレエ団の専属振付家として名古屋在住となった井口裕之による2つの振付作品と芸術監督の深川秀夫の3作品が披露された。
「ダンス・ボザール」とは、19世紀のパリに設立された総合美術学校エコール・デ・ボザールにちなんだ名称。伝統的、古典的でありながらも、なおかつ総合的な視点を盛り込んでいたこの学校の精神を受け継ぎながら、さらに現代的なダンスに取り組むという目的で開催したという。

nagoya1206a01.jpg 『Drum'n』撮影:岡村昌夫

『Symphony in AA』は、井口が初めて振付けたバレエ作品。サン=サーンスの音楽を使用し、バレエ団の若手を全面的に起用。全国コンクールでも毎年優秀な成績を収めているバレエ団ゆえに基礎が徹底的に教え込まれたバレリーナの卵も豊富だ。彼女たち若手の技術に合わせて振付けられた4つの章は、古典の技術に基づきながらもオリジナリティが高く、生徒のステップアップ用のメソッドにもなるだろう。今後のバレエ団を率いることになるであろう若手・直塚美穂の身体の伸びやかさと、命が宿ったかのように意志をもって動く脚の表現力に魅了された。

nagoya1206a02.jpg 『Drum'n』撮影:岡村昌夫

そしてこの公演の最大の見所は、奥三河の太鼓集団"志多ら"との共演『Drum'n』(井口裕之振付)。バレエと和太鼓の共演というと少々安易なコラボレーションを想像してしまうが、ダンスと音楽が対等に拮抗したスリリングな作品に仕上がっていた。
かつぎ桶、長胴太鼓と曲によって太鼓を持ち替えて場所を移動する"志多ら"の男性演奏者3名と、杉浦有稀はじめ4名の女性が登場。始まりは中央に4人のダンサーが座り、それ囲むように太鼓の男たちが陣取っている。身体のラインに沿ったゆったりとたおやかな動きは、内から外へと向かうエネルギーの軌跡を視覚化させるかのようだ。次第に高まっていくリズム、しかし安易にそのリズムに合わせて動くことはない。音楽とダンスがいずれかに従属されることを拒むかのような前半。ある場面では中央の太鼓が主役で、女性が周りで静かに床に伏せているままだ。
動物が求愛や威嚇のために音をたてる動作、ドラミングを太鼓の振動にみたて、日本の祭に潜在するエロティシズムを女性たちの動作と呼応させる。
ダンスと太鼓の掛け合いも決して音楽が伴奏的になることはなく、スリリングな緊張関係が続く。途中、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのラテン系の音楽を挿入し、少々唐突感があったものの、和楽器を使うときにありがちなジャポニズム的印象を逸らす工夫も行い、動きとリズムによる新たなチャレンジは成功したといえるであろう。

nagoya1206a07.jpg 『Glazunov Suite』撮影:岡村昌夫

ラストは、芸術監督の深川による名作『Glazunov Suite』。グラズーノフの『ライモンダ』や『四季』などの音楽に乗って、女性ダンサーの美しさを前面に打ち出し深川スタイルの定番作品だ。パ・ド・ブレなどバレリーナのトゥ立ちを多用した表現で、女性の繊細さや危うさ、それゆえの美しさを理屈抜きで感じさせてくれる。ひとつの動作を大勢で踊る場面が多いだけに、統一感のあるバレエ団でなければ踊ることは難しいが、基本に忠実なダンサーたちによるアンサンブルは深川世界を体現するのに十分な力量を備えていた。
(2012年5月12日 名古屋市芸術創造センター)

nagoya1206a03.jpg 『Drum'n』撮影:岡村昌夫 nagoya1206a04.jpg 『Drum'n』撮影:岡村昌夫
nagoya1206a05.jpg 『Drum'n』撮影:岡村昌夫 nagoya1206a06.jpg 『Drum'n』撮影:岡村昌夫
nagoya1206a08.jpg 『Glazunov Suite』撮影:岡村昌夫 nagoya1206a09.jpg 『Glazunov Suite』撮影:岡村昌夫