ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2009.05.11]

川口節子バレエ団創立30周年記念公演 『舞浪漫 My Roman 2009』

川口節子、太田一葉振付『舞浪漫 My Roman 2009』
川口節子バレエ団
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バッハ、モーツァルト、マーラー、バッハルベル、ショパン、ドビュッシーにフォスター……そんな誰でも知っている作曲家たちの曲で、こんなにもオリジナリティのある世界を創ることができるなんて──30周年ということで、過去からの代表作品も多く上演された今回の公演を観て川口節子作品の魅力に素直に驚いた。彼女の作品には、それぞれにドラマ性があり、私見だが、どこかジョン・ノイマイヤー作品のドラマ性に通じるような心の震えを覚えた。
なかでも特に印象に残ったものを紹介したい。2007年に川口が振付けた『オー!マイリトルマエストロ』は、モーツァルトの曲に乗って、小さな男の子を指揮者に女の子たちが踊る作品。子どもの可愛らしさがとても上手く現されていた。また、ヘレン・ケラーを題材にした2003年の作品『奇跡の人』は、マーラーの曲とヘレン・ケラーの生き方があまりにもよく合っていて、このためにこの曲が出来ているのではないかと思うほど。川本知枝のヘレンは、とても生々しく、生き方を確信した後は穏やかに輝くようで、サリバン先生役の桐村真里の熱演とともに見入った。
太田一葉振付の『フィアス』は、スティーブ・ライヒの曲を使っての新作。NY留学を経ての仲間たち、パメラ・パーキンズ、ジャックリン・キルゴア、カイリー・サキャンディ、チャッド・ドーソン、ジャーミー・ネッドとともに自らも踊った。川口の娘でもある彼女の作品は、現代音楽を効果的に使った抽象的で現代的なもので、川口作品とはまったくタイプが違う。そのことによって、公演全体に変化が生まれているのも良かった。
 

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続いての川口振付『Yerma』、私にとって、この公演でこれだけは観るのが二回目、昨年、ダンスオペラ『神曲』と同時上演されていたのを観たのだ。2000年に作られた作品でガルーシア・ロルカの書いた石女(うまずめ)の苦悩を描いたもの。音楽はショパン、バレエファンなら聞き慣れた『レ・シルフィード』の曲が使われている。『レ・シルフィード』の場面が浮かんできそうなショパンの曲に乗せて迫ってくるのは、まったく異質のもの──夫婦の苦悩、中谷友香と碓氷悠太による表現力を充分にともなった踊りも素晴らしかった。
そして、最後に上演されたのが川口の新作『心地よく眠るアリス』。舞台じゅうにはためく洗濯物、風の音から始まるこの作品。ドビュッシーやフォスター、そしてジョン・ケージまでの曲を組み合わせ、小さな女の子アリス(野黒美茉夢)を亡くした母(高木美月)の絶望的な悲しみと、女の子は向こうの世界で楽しく暮らしている──そんな癒しを描いた。幸せな親子に突然訪れる不幸、母のパニックが痛いほど伝わる。“かけがえのない人々”と名付けられた、向こうの世界の人たちのダンスは明るく軽やかでピュア。そんなに素敵なところにいるのならと、離れてしまった苦しみが少し和らぐような……。母がお墓に供えたブドウを、向こうの人たちに一粒ずつ楽しげにお裾分けするアリスの姿を見ていると、子どものいない私でも、体が震えて、つい涙ぐんでしまった。
(2009年3月29日 愛知県立芸術劇場大ホール)

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