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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.05.12]
From Nagoya -名古屋-

'08宮西圭子バレエ団定期公演『コッペリア』

 宮西圭子バレエ団定期公演の今年の演目は、楽しくって、でもちょっと不気味で滑稽な『コッペリア』。ホフマンの原作『砂男』から、恋人がいるのに人形に夢中になる青年の姿と、人形に魂を入れようとする奇怪な老博士像を強調し、バレエ用に再構成したコメディ・バレエである。レオ・ドリーブの音楽は、バレエ音楽最初の傑作ともいわれている。
 パリ・オペラ座のオーソドックスな初演版や、ローラン・プティが洒落た老博士を演じてあたり役となっているプティ版が、つと有名であるが、宮西バレエが今回選んだのはキーロフ版だ。

 スワニルダ(板垣優美子)とフランツ(高宮直秀)は結婚間近の恋人同士。でもフランツは最近コッペリュウス博士の窓辺から顔を覗かせている人形のコッペリアに心を奪われている。ミステリアスなコッペリアの真相を知るべく、夜になるとスワニルダとその友人は、コッペリュウス博士の仕事場に忍び込む。
 この舞台の一番の特徴は、人形コッペリアをダンサーが演じることだろう。宮西バレエ団の二人のプリマ、板垣優美子と石栗麻美は普段でも顔や体型がそっくりで、姉妹かと見間違えるかのよう。その二人がそれぞれにスワニルダ、コッペリアとなり、一緒に登場して踊り出すから、一瞬どちらがスワニルダでどちらがコッペリアか当惑してしまう。そこで観客は、スワニルダとコッペリアの間で心揺れるフランツの気持ちを追従しているような感覚に陥いるのだ。
 板垣は清純で若さ溢れるスワニルダを生き生きと演じ、また石栗はコミカルな人形ぶりで笑いを誘う。スワニルダの友人たちも好奇心に満ちあふれた様子でスワニルダを取り囲み、群れてはしゃぐさまは現代っ子にも通じるところだ。バレエ団の若いバレリーナたちはみな、仲の良い友だちらしい息のあった踊りを見せた。


 第2幕のコッペリュウスの仕事部屋。
 不気味な一室に忍び込んだスワニルダたちは、暗闇でバラバラにもぎ取られた手足に触れながら、コッペリアを探し出し、それが人形であることを知る。バラバラに歪んだ人形が不気味に天井から吊り下げられ、舞台狭しと配された民族人形たちが、突如として踊り出す。照明を駆使した宮西の暗闇の演出が見事で、照明の濃淡でスワニルダたちの不安な様子が手に取るように実感できる。
 コッペリアになりすましたスワニルダに、愛を求めるフランツと、スワニルダの逆襲も爽快だ。大きな顔型の人形の中に足早に逃げ込んだフリッツをスワニルダが引っ張り出し、徹底的に懲らしめるさまは滑稽で、フリッツ役の高宮は、優柔不断な気の弱そうな青年を好演。おどおどした高宮の様子には明るい笑いももれる。

 『コッペリア』は、民族舞踊が初めて本格的にバレエに取り入れられた作品であるが、第1幕のハンガリーのチャルダッシュ、第2幕のスワニルダがコッペリアになりすまして踊るスペイン舞踊などに続いて、第3幕の結婚式の場面でもコッペリアの舞台となったポーランドのマズルカなど、バラエティ豊かな踊りが披露される。なかでも男女4組による8人の踊りは窪田弘樹、碓氷悠太はじめ4名の男性ゲストを迎えての大人のアンサンブルで、エネルギッシュな踊りが一層際立ち、観客を大いに魅了していた。
 仲直りをした結婚式でのスワニルダとフランツのパ・ド・ドゥは、若さ溢れる二人のスピーディーな振付がその魅力。パ・ド・ドゥの後半、公演前から体調を崩し、点滴を受けながら舞台に立った板垣にとっては、体力的に辛そうなシーンも見られたものの、高宮の確実かつさりげないサポートで、リフトなどの難度の高い激しい踊りを踊りきり、主役の大役を果たした。
 キーロフ版の振付に沿いつつも、宮西のこだわり貫いた細部の演出が秀逸な『コッペリア』であった。
(2008年4月3日(木) 中京大学文化市民会館 オーロラホール)



‘08宮西圭子バレエ団定期公演『コッペリア』
2008年4月3日(木) 中京大学文化市民会館 オーロラホール
[演出・振付] 宮西圭子
[出演] スワニルダ:板垣優美子、フランツ:高宮直秀、コッペリア:石栗麻美、コッペリュウス:森充生、市長:幸田律