ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

安住 恭子 text by Kyoko Azumi 
[2004.10.10]
From Nagoya -名古屋-

第2回あいちダンス・フェスティバル「ダンス・ファンタジア」

愛知県は、バレエとダンスが盛んな土地柄として知られる。多くのカンパニーがしのぎを削り、コンクールの受賞者や海外で活躍するダンサーを輩出していることでも明らかだ。愛知県文化情報センター主催の「あいちダンス・フェスティバル」は、その魅力と力量をカンパニーを越えて観客に広めるとともに、ダンサーたちにも幅広い機会を与えることを意図して始められた。第2回の今回は、『ダンス・ファンタジア~物語をみる・音楽をみる~』と題し、ダンスの表現力やイメージ喚起力を多彩に追求しようとした試みだ。それらの多彩さ、多様さを改めて知るとともに、ダンスの歴史と現在をみつめる場でもあった。

 プログラムは、『物語をみる』『音楽をみる』『特別プログラム』の3部構成で、計9作品が3時間半にわたって上演された。上演作品をざっと紹介すると次のとおりである。

 物語をベースにした第1部は、『ドン・キホーテ』より『夢の場』(豊田シティバレエ団)、『薔薇の精』(越智インターナショナルバレエ)、『奇跡の人』(川口節子バレエ団)の3作品。そうした物語性よりも、音楽を基調にした作品を集めた第2部は、ベン飯田振付の『NO WAY』(塚本洋子バレエ団)、島崎徹振付の『OUR SONGS』(松岡伶子バレエ団)、近江貞実振付の『BEAT TIME』(市川せつ子バレエ団)の3作品。そして世界的に活躍しているダンサーたちによるコンテンポラリー作品を集めた第3部は、ジャン・クロード・ガロッタ振付の『99Duos』(倉知可英、杉山昌)、アレッシオ・シルヴェストリン振付の『戸外にて』(AACオーディション・ダンサー)、熊川哲也振付の『パッシング・ヴォィス』(荒井祐子、芳賀望)の3作品である。

 『戸外にて』は、芸術文化センターがプロデュースして今回のために作られたオリジナル作品だ。 寄せ集めのフェスティバルが多い中にあって、企画意図にそった多彩な作品をプログラミングし、さらに、こうした新作も上演するところにも、主催者の意気込みが感じられた。

 さて、その盛りだくさんの公演を見てまず思ったのは、愛知県のダンサーたちのレベルの高さだ。『ドン・キホーテ』や『薔薇の精』など手慣れた作品をそつなく踊るだけではない。太鼓などリズムだけの民族音楽を使い、それも拍子の違うリズムの組み合わせで踊った『BEAT TIME』や、いくつかの光のスクエアで、人間の出会いや別れ、葛藤を抽象的にスタイリッシュに見せた『NO WAY』も、若々しい群舞の中に一人一人の個性や息吹も感じさせた『OUR SONGS』も、振付けられた作品をうつくしく踊り上げる力がどのダンサーにもあると感じられた。

 要は、そうしたダンサーからどう潜在力を引き出し、現代の魅力的な作品を創り上げていくかだろう。それは、第1部の川口節子振付の『奇跡の人』と、第3部の3作品がみごとに検証していたと思う。

 愛知芸術文化センターとしては初めてのバレエ作品のプロデュースとなった『戸外にて』は、ベジャール・ローザンヌ、そしてフォーサイスのフランクフルトと、最先端の現場で活躍していたシルヴェストリンの振付に、オーディションで選ばれたバレエ・ダンサーたちが挑んだ作品だ。<戸の内と外>を示す簡素なスケッチの映像と呼応しながら、新しい動きやスタイルに精いっぱい挑戦した息吹が感じられた。

 倉知と杉山が、キュートで力強く、ときにはコミカルなダンスで、現代の女の子の生をはつらつと表現した『99Duos』は、まさにガロッタの振付によって、二人の個性と力が十全に引き出されていた。なにかしら重く難解になりがちなコンテンポラリー作品の中で、舞台から哄笑が聞こえてきそうなこの作品は、この公演自体を開放したようにも思えた。また、『パッシング・ヴォイス』には、美しい美術と繊細なダンスで、見る幸せがあった。

『戸外にて』

『99Duos』

『パッシング・ヴォイス』

 そして今回、最も振付と演出の力を感じたのは、川口節子振付の『奇跡の人』だった。見えない聞こえない語れないの三重苦のなかで苦しむヘレン・ケラーに、言葉を教え、人間として生きる喜びを与えたサリバン先生の、よく知られた物語のバレエ化である。それを川口はまず、暗闇の中でものが激しく壊れる音から始めた。そして舞台に一筋の光の輪が浮かび、そこから遠いところで行われていた二人の格闘が、次第に光に近づいていく。

 何よりもみごとだったのは、ヘレン・ケラーが言葉を獲得した瞬間の表現だ。壁面いっぱいに作られた何層かの棚に、ダンサーたちが立って並んでいるのが浮かび上がった。ただそれだけのことなのに、その一瞬が、からだ中の細胞がぱっと活性化したように、あるいは脳細胞がぱっと目ざめたように見えた。そしてそれが人間であることの何よりの証だと思えたし、生きる喜びはそこから生まれると、体で感じた。

 最後に川口はこの短い作品を、ヘレン・ケラーが発見した証と喜びを次から次へと伝えていくところで終えた。それは障害者に限らず、生が見失われている現代の子供たちに、生きることの本当の意味を伝えていくということだろう。そうした哲学を、ダンスの動きの追求だけでなく、舞台全体の表現にしたところに川口の力がある。愛知県にはダンサーだけでなく、すぐれた振付家もいることを示した舞台だった。



『奇跡の人』

 このように、「第2回あいちダンス・フェスティバル」は、バレエとダンスが今やさまざまな方向に解放され、多様な可能性を前にしていることを、改めて示す舞台でもあった。
なお、愛知芸術文化センターがプロデュースしたバレエ作品『戸外にて』は、さらに再考され、2005年2月11日に行われるダンス・オペラ『青ひげ城の扉』において、バルトークの名作オペラをダンス化した『青ひげ公の城』と同時上演される予定だという