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唐津絵理 text by Eri Karatsu 
[2004.04.10]
From Nagoya -名古屋-

愛知の 5 つのバレエ団が参加した「第 20 回中部にバレエを育てる会」

 越智實の呼びかけにより1980年に発足した『中部にバレエを育てる会』は、毎年振付家を招聘して、作品を創作してきたが、記念すべき20回公演では、キエフクラシックバレエの芸術監督ワレリー・コフトン振付で、1827年初演の『サムナンブラ(夢遊病の女)』を上演した。このメインプログラム以外にも、愛知の5つのバレエ団が参加し、小作品を発表した。

 第1部の「バレエコンサート」では、鳥居ゆき子バレエスタジオによる『冬の情景』、川口節子バレエ団による『Sorrow Dance』、市川せつ子バレエ団による『Beat Time』、越智インターナショナルバレエによる『ジゼル 第2幕より』、仁科伶子バレエ団による『ポストホルン』が、すべてバレエ団の代表者による振付によって上演された。なかでも、『Sorrow Dance』と『Beat Time』は、愛知のバレエ界でもようやくコンテンポラリーが定着しつつあることを感じさせる現代的な作品であった。

 サン=サーンス作曲の「死の舞踏」に想を得た『Sorrow Dance』は、創作作品に定評のある川口節子による振付作品。シンプルなモノクロの衣裳を着た大勢の女性ダンサーたちを縦横無尽に動かし、桐村真里の演じる白骨と、黒い衣裳を身に付けた24名の悪魔を対比させ、宙をさまよう女の魂を巧みに表現していた。様々なフォーメーションを駆使することによって生れる動きの流れは、純粋に抽象バレエとしてみても面白かった。

 近江貞実による振付による『Beat Time』は、3拍子から7拍子まで、拍子の異なる6曲を組み合わせて、拍子の違いとバレエの動きの関係に着目した作品。バレエのパを一歩推し進めるようなバレエ・テクニックをはみ出した振付は、初期のフォーサイスやキリアンの作品を想起させるが、この作品で近江は、名古屋の観客に、バレエの動きの可能性を拡大してみせた。このところ成長著しい土屋文乃の柔軟性かつバネのある動きが、さらに作品に勢いをつけていた。
 コンテンポラリー作品が成功するためには、現代的な作品の創作に励む振付家の存在は欠くことができないが、一方ダンサーには、作品に見合った身体訓練が要求される。今後継続的にコンテンポラリー作品に必要な身体訓練を行っていくことが課題ではないかと思う。

 第2部メインプログラムは、『サムナンブラ(夢遊病の女)』。パリ・オペラ座の初演によるこの作品は、脚本をスクリブ、作曲をゲロルドが担当し、初めての物語性のあるバレエとして注目を浴びたとされているが、この公演では振付家のコフトンが原作のストーリーに基づきながらも、音楽にチャイコフスキーの「弦楽セレナード」を使用することにより、現代的な感覚の作品に生まれ変わらせることに成功していた。

 夢遊病であるがゆえに複雑な人生を送る女性を演じたのは越智久美子。恋人役の越智友則との出会いから結婚まで、簡単なストーリーはあるものの、「弦楽セレナード」の曲の流れに即した音楽的な作品に仕上がっていた。主役の越智久美子は、前半の『ジゼル』(越智久美子振付)で醸し出した優美さとは対照的に、夢遊病の無垢で明るい女性を演じきった。越智友則は安定感もあり、すでに堂々とした風格も持ち合わせている。音楽の流れに合わせて次々に展開されていくコール・ドの回転やジャンプは途切れることがなく、そのスピード感が現代にマッチしていて心地よい。古い作品を題材にしながらも、曲のテンポに適した動きの流れを作り出し、ひとつひとつの動きに現代的なセンスで微妙なニュアンスをつけ加えているコフトンの振付は秀逸である。

 日本で見ることのできるロマンティック・バレエ時代の作品は非常に限られており、そういった意味からも過去の作品を現代に甦らせる試みは貴重である。『サムナンブラ』は、さらにその中に今日的な身体感覚をも感じさせることのできる現代的な作品に仕上がっていた。

(3月14日 名古屋市民会館中ホール)

写真3枚とも「サムナンブラ」