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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2017.11.10]

高田茜がアリス役でデビューし、華やかな雰囲気で舞台を彩った

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
“Alice's Adventures in Wonderland” Choreographed by Christopher Wheeldon
『不思議の国のアリス』 クリストファー・ウィールドン:振付

英国ロイヤル・バレエ団は9月27日に本拠地であるロイヤル・オペラ・ハウスで2017-18新バレエ・シーズンの幕を開けた。
幕開け作品は2011年2月の世界初演以来、上演の度にチケット完売記録を更新中のウィールドン振付『不思議の国のアリス』。シーズン初日を務めたのはローレン・カスバートソンとフェデリコ・ボネッリのペアで、バレエ団はその後、同作品を10月23日まで6配役で11公演開催した。

london1711_08.jpg 高田茜(アリス)
Photo:Angela Kase(すべて)

配役発表以来、イギリスのバレエ・ファンは高田茜のアリスやアレクサンダー・キャンベル、マシュー・ボール、マルセリーノ・サンベの男性主役ハートのジャック・庭師ジャックのデビューを心待ちにしていたが、サンベが故障のために降板したため、ソリストのトリスタン・ダイアーが代役を務めた。また9月28日と10月14日にスティーブン・マックレーを相手役にアリスを主演するはずであったサラ・ラムも先シーズン末以来の故障のために降板。入団6年目のイギリス人ソリスト、アナ・ローズ・オサリバンが代役に抜擢されるなど、新シーズン初めより配役変更が相次いだ。
高田茜は、まず9月26日(火)にロイヤル・バレエのサポーター組織であるフレンズ・オヴ・コベントガーデンのメンバーが見守る公開ドレス・リハーサルに登場。その後10月2日(月)にアリス役でデビューし、10月21日(土)のファミリー・パフォーマンスでもアリス役を主演した。
10月2日の高田茜とアレクサンダー・キャンベルのデビュー公演を鑑賞した。

ウィールドン版アリスを演じ踊るバレリーナに必要とされるものは何だろう? まずは様々な登場人物が入り乱れる全3幕を引っ張ってゆく主役にふさわしいスター・オーラの持ち主であること、そして斬新な振付のソロやパ・ド・ドゥを速いテンポで踊るための高い技術と音楽性、アリスの体が大きくなったり小さくなったりする場面他で見せる多彩な顔の表情使い、残酷なハートの女王を前にした裁判で主要登場人物全員をほろりとさせる演技力と説得力、そして初恋を知る10代の少女らしい清純な魅力といったすべての要素を満たせない限り、この全幕作品を成功させることは出来ない。
高田は1幕の登場より自らの個性である空間使いの大きさを見せ、スター・オーラ全開で舞台を華やかな雰囲気で染めあげた。盤石なダンス技術でウィールドンの、時に難解な振付にも難儀することなく、少女アリス役に集中してなりきることができた。母親に使用人のジャック(キャンベル)との身分違いの恋を咎められ、仲を引き裂かれる冒頭のシーンでは少女の初恋の甘やかさと切なさを表現して観客の心をつかんだ。

体が大きくなったり小さくなったりする場面では、これまでファンに見せたことの無い表情の変化を披露し、アリスの涙で出来た池で群舞の生き物と共に泳ぐ場面はのびのびと演じ、またアリスと生き物たちが泳いだ後の体を乾かすために行うレースの場面も主役らしく生き生きとしており、観る者の目にたいへん楽しく映った。

london1711_05.jpg 高田(アリス)とキャンベル(ジャック)  london1711_09.jpg 高田茜(アリス) london1711_10.jpg 高田茜(アリス)

2013年の日本公演や映画館でこの作品を観たことのある読者はご存知の通り、ウィールドン版はレースの場面以降、アリスが様々な登場人物と遭遇する。
1幕後半の侯爵夫人(ベネット・ガートサイド)の家の前では、魚(トリスタン・ダイアー)とカエル(デイヴィッド・ユーデス)の召使いがダイナミックな跳躍を見せるデュエットを披露。日本の伝統芸能の黒子のようなダンサー多数によって操られる巨大なチェシャ猫や、ティー・パーティでタップダンスを披露するマッド・ハッター(カルヴィン・リチャードソン)や、彼と踊る眠りネズミ(アシュリー・ディーン)と三月ウサギ(ケヴィン・エマートン)、ウィールドン版では印象に残るダンスを披露するイモ虫(ニコル・エドモンズ)、ハートの女王(ラウラ・モレーラ)のクロッケー場のたくさんのフラミンゴやハリネズミなどなど。高田のアリスはこれらたくさんの登場人物と共に、このカラフルな全幕作品をたいへん思い出深い舞台に高めた。

london1711_06.jpg 高田(アリス)とチェシャ猫 london1711_07.jpg 高田(アリス)とマッドハッター他
london1711_11.jpg london1711_12.jpg

ハートのジャックと庭師のジャック主演のアレクサンダー・キャンベルは、この役のデビューとは思えない落ち着きと舞踊技術でソロやパ・ド・ドゥをエキサイティングなものとし、いつもながらの巧みで力強いパートナー技術でこの作品初主演の高田を良く助けた。
主役以外ではハートの女王とアリスの母を演じたモレーラの演じ分けと狂気が圧倒的。
ジェイムス・ヘイは3幕の白うさぎのソロが白眉であったし、イモ虫のエドモンズはバーミンガム・ロイヤル・バレエから移籍し、今シーズンより活躍が期待されているウィリアム・ブレイスウェルの突然の降板の代役を見事に務めて、観る者に強い印象を残した。これまでも抜擢の多かったファースト・アーティストのカルヴィン・リチャードソンは、今回はマッド・ハッターに配役され、持ち前の容姿の良さに狂気のアクセントを加味し、また侯爵夫人のガートサイド、ハートのキングとアリスの父役のアリステア・マリオットといったベテラン勢も、この作品に深みや奥行きを与え忘れがたい。

london1711_02.jpg カルヴァート(ハートの女王) london1711_01.jpg ブレイスウェル(イモ虫)

日本出身のダンサーは、2013年の日本公演でもアリス役を好演した崔由姫が、9月30日に新しい相手役のマシュー・ボール(デビュー)と全幕主演したほか、佐々木万璃子が1、2幕のフラワー・ワルツと3幕のトランプのカード役で、桂千里はフラワー・ワルツとフラミンゴ役を踊った。2014年のローザンヌ国際コンクール受賞者で、この夏ロイヤル・バレエ・スクールを卒業、ヤング・ダンサー・プログラムの一環で今シーズン、バレエ団と活動を共にしている前田紗江も群舞の1員として、ハートの女王の宮廷のカップル役などで出演。アクリ瑠嘉は夏以来脚の故障のため、舞台への復帰準備に励んでいる。
(2017年10月2日 ロイヤル・オペラ・ハウス。9月26日午後公開ドレス・リハーサルを撮影)

london1711_03.jpg フラワーワルツ:佐々木万璃子(中央) london1711_04.jpg ブレイスウェル:カルヴァート
london1711_15.jpg 高田(左)、桂千里(中央)
london1711_13.jpg
london1711_14.jpg

Photo:Angela Kase(すべて)(subete)

注)舞台写真はハートの女王、ラジャとイモ虫、マッド・ハッターのみ10月2日と配役が異なり、写真は女王役がクレア・カルヴァート、イモ虫がウィリアム・ブレイスウェル、マッド・ハッターはポール・ケイ。