マシュー・ボーン『ロミオ+ジュリエット』のロミオ役、ジャクソン・フィッシュ 「『白鳥の湖』のモデルに選ばれ、白鳥のパンツを纏った時は、まるでウェディングドレスを着るような気分でした」

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』日本公演が4月10日に東急シアターオーブで開幕する。ロミオを演じる3人のダンサーのインタビューを過去2回に渡ってお届けしてきた。
パリス・フィッツパトリックのインタビューロリー・マクラウドのインタビュー、最後に登場するのは、ジャクソン・フィッシュ。マキューシオの恋人バルサザーの初演キャストも務めた実力派だ。日本公演でもロミオとバルサザーを演じる予定となっている。

――2019年『ロミオとジュリエット』の初演でもロミオを演じましたか。

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ジャクソン・フィッシュ

フィッシュ もともと2019年のオリジナル・キャストでは、僕はロミオ役のカバーに入っていました。その時は、フルタイムのロミオではなかったものの、初演のツアーでは何度もロミオを演じることができました。そして、今回のインターナショナル・ツアーの前半では、再びロミオの代役に入り、今ではロミオ役をレギュラーで演じる機会に恵まれ、とても光栄です。ロミオは大好きで素晴らしい役です。

――ニュー・アドベンチャーズのキャスティングについて教えてください。

フィッシュ このカンパニーの素晴らしいところは、いつも違う人たちと組んで踊ることです。ある晩は僕とブライオニー(・ペニントン)が主演し、別の日にはパリス(・フィッツパトリック)とモニーク(・ジョナス)が、そして次の夜には僕とモニークの主演になる、といった具合です。ロミオとジュリエットの演者の組み合わせに加えて、マキューシオとバルサザーのペアも毎回変わるので、様々な配役を見に劇場に通い詰めていただく価値は大いにあります。

――キャストが変わると、演技の面でも変化がありますか。

フィッシュ ええ、毎回変わるキャスティングこそが、舞台をとても特別なものにしているのだと思います。ロサンゼルスでの昨夜のソワレでは、ブライオニーと初めて組んでロミオを演じました。舞台上で相手がどのように演技し、その役についてどのように考えているかがすぐに分かるときは、本当に特別な瞬間です。新しい相手と共演したとき、以前のパートナーとは異なる反応が舞台で起こるので、それが新鮮に感じられて、とても生々しい感情が保たれます。

――ニュー・アドベンチャーズの『ロミオ+ジュリエット』は完全にマシュー・ボーンによるオリジナルのプロットですね。

フィッシュ 以前から、彼の元には、原作に忠実な『ロミオとジュリエット』を作る提案がたくさん届いていたと思いますが、彼はニュー・アドベンチャーズにふさわしいフックを見つけられずにいました。「青少年プロジェクトをやろう」とカンパニー・スタッフが話していたときに『ロミオとジュリエット』の構想が生まれたと思います。スタッフが若者たちと向き合っていくうちに、若者の自由を奪う大人たちに管理される若者の矯正施設を舞台にした今回のストーリーが生まれました。青年のみずみずしい感情の発露と愛の力、そして自分に忠実であることのへ葛藤など、さまざまな要素が加わり、原作から独自の物語へと展開していったのです。

――2020年に劇場公開された『マシュー・ボーン IN CINEMA ロミオとジュリエット』では、バルサザーを演じていらっしゃいました。彼とマキューシオが愛し合う設定はマシュー・ボーン版ならではのユニークなものです。この役に選ばれたときはどう思いましたか。

フィッシュ 『ロミオ+ジュリエット』で、この役を作るようにオファーをいただけたのは本当に特別でした。バルサザーはシェイクスピアの原作の中に登場しますが、このような設定ではありません。このカンパニーで、僕はゲイの人物をこれまでたくさん演じてきたことを光栄に思っていました。今回、ニュー・アドベンチャーズ作品で、バルサザーというゲイのキャラクターを自分が新たに作る機会を得られたことは、格別なことでした。この役のキャスト三人で、彼の出自やどのように行動するのか、といった性格のことなどたくさん話し合いました。またニュー・アドベンチャーズの他の作品のゲイのキャラクターがコミカルだったり、あるいは不気味だったりするのに比べて、バルサザーは少し異なっていることについても議論を交わしました。バルサザーは非常に真面目で冷静で、騒々しく活発なマキューシオの保護者のような役割を果たしています。

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右、ジャクソン・フィッシュ(バルサザー役)Photo by Johan Persson

――マキューシオを失った悲しみを表現するバルサザーのソロのパートはしなやかでとても美しく、観客の涙を誘います。この振付はどのようにして作られたのでしょうか。

フィッシュ そのソロ・パートもバルサザー役のキャスト三人で一緒に作りました。マシュー・ボーンから「トップ・アンド・テール」と呼ばれるタスクを与えられ、バレエのテクニックに感情を混ぜ合わせた動きを、上半身と下半身に分けて振付を考えました。それらをすべて組み合わせて、一つの動きにまとめていきます。その後、空間を実際に動いてみるということを繰り返していきます。振付の多くは、心の中の感情に体がどのように反応するかを念頭に置いて作られています。この振付には大きなジャンプがたくさんあり、踊りのスタイルは非常にバレエ的です。

――ダンスのキャリアについてお伺いします。ダンスに興味を持ったきっかけは何ですか。

フィッシュ 僕はほかの兄弟3人と、両親に連れられて放課後にバレエを習ったり、タップやジャズを踊ったりしていました。僕は4歳からダンスを始めました。年月が経つにつれて、他の兄弟は別の分野に興味が移っていきましたが、僕だけはダンスを続けました。そして、10歳のときにオーストラリア・バレエスクールに進学し、8年間在籍しました。18歳の卒業の年に、出身地のメルボルンでニュー・アドベンチャーズの『蠅の王』のプロダクションのオーディションを受けました。その時、マシューは『赤い靴』の初演ツアーに参加するよう、僕を誘ってくれました。このオーディションでロンドンのメジャーなカンパニーに入ることができて、本当に幸運でした。そのときからニュー・アドベンチャーズの仕事をしています。『赤い靴』『シンデレラ』、そして『ロミオとジュリエット』の初演への出演が続きましたが、『赤い靴』再演のときに新型コロナウイルスが流行し、舞台は中止を余儀なくされました。そこで母国オーストラリアに戻り、1年間シドニー・ダンス・カンパニーに参加しました。それはとても素晴らしい経験でしたが、コロナ禍の間中、僕はニュー・アドベンチャーズに戻ってくるために、常にカンパニーと話し合ってきました。幸運なことに『眠れる森の美女』でニュー・アドベンチャーズに復帰することができました。その後、今回の『ロミオとジュリエット』再演に参加することができたのです。

――オーストラリア・バレエスクールでは、コンテンポラリー・ダンスよりもクラシック・バレエを多く練習しましたか。

フィッシュ はい。オーストラリア・バレエスクールでは、常にコンテンポラリーダンスのクラスがありましたが、焦点はクラシック・バレエに置かれていました。ニュー・アドベンチャーズに入団したとき、僕はコンテンポラリー・ダンスをただ習っただけ、という状態でした。入団後は、これまで経験したことのない、さまざまなスタイルのダンスをするようになり、ダンスに対する目が開かれました。

――コンテンポラリー・ダンスの分野では、オハッド・ナハリンやシドニー・ダンス・カンパニーなどで豊富な経験を積まれています。これらのキャリアはマシュー・ボーンの作品を演じるのに役立ちましたか。

フィッシュ 演者が経験豊富であればあるほど、自身の知識を新たな環境に持ち込むことができると思います。コロナ禍で大変な時期にはシドニーに戻っていましたが、オハッド・ナハリンの『デカダンス』やシドニー・ダンス・カンパニーの『ab[intra] 』などに出演させていただき、感謝しています。クラシックの型にはまらない、斬新な体の動かし方や、ダンスとパフォーマンスについて新たな思考法を得るなど、ダンスに関する僕の経験と知識は増す一方でした。「学びを得てヴァージョンアップした自分をニュー・アドベンチャーズの作品を高く評価してくれる観客の皆様にお届けしたい」とずっと思っていました。

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左、ジャクソン・フィッシュ(バルサザー役)Photo by Johan Persson

――かの有名な『白鳥の湖』 2024/25 英国ツアーのポスター・モデルに選ばれましたね。衣裳を着て白鳥のポーズを取ってみて、どう感じましたか。

フィッシュ 本当に信じられないことでした。この作品に出演することを夢見る若者はたくさんいます。レズ・ブラザーストンのデザインによる白鳥のパンツを纏うのは、まるでウェディングドレスを着るような気分でした。白鳥のメイクをしてもらったのですが、とても興奮して、信じられないほど非現実的な体験でした。あの衣裳とメイクをした素晴らしいダンサーたちを何年も見てきた後、そのイメージに扮した自分自身を見て、さらに出来上がったポスターを眺めるのはとても特別な気分でした。

――2018年の『シンデレラ』日本公演に参加されたときの思い出についてお話しください。

フィッシュ ええ。東急シアターオーブは素晴らしい劇場ですし、東京も素敵な街ですが、とりわけ、観客の方々からの愛、感謝、そして敬意には圧倒されるほどでした。終演後、観客の方々が感謝の気持ちを僕たちに直接伝えようと楽屋口で待っていてくれたことは、特別な経験でした。

――日本のお客様にメッセージをお願いします。

フィッシュ この公演を日本の観客の皆様に見ていただくのが本当に待ち切れません。この『ロミオ+ジュリエット』で私たちがお目にかけるドラマを気に入っていただければ幸いです。
(2024年2月17日インタビュー)

マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』

2024年4月10日(水)~21日(日) 東急シアターオーブ
上演時間:1時間50分
公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/mbrj2024/

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