熊川哲也版 新制作『眠れる森の美女』が2月23日より期間限定で劇場公開される

ワールドレポート/その他

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

K-BALLET TOKYOの創立25周年記念として新制作された熊川哲也版『眠れる森の美女』が、2月23日(金・祝)より3月7日(木)まで期間限定で、エビスガーデンシネマ他全国42劇場で「眠れる森の美女 in Cinema」として公開される。
昨年10月、熊川哲也 演出・振付・台本・音楽構成によりK-BALLET TOKYOが新制作した『眠れる森の美女』( 原振付 マリウス・プティパ )は大きな反響を呼んだ。というのも、熊川はこの新制作の上演にあたって「典型的な古典を夢見る人は、この舞台を見ないほうがいい」と言い切ったからである。実際、古典バレエの最高傑作と称えられる『眠れる森の美女』に現代的な視点を持って大胆に切りみ、新たに振付・演出された舞台は衝撃的なものであった。

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©︎ K-BALLET TOKYO

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© Hidemi Seto

まず、熊川版の『眠れる森の美女』は、プロローグはなく第一幕から物語が始まる。通常版のような王宮のセレモニーとしてではなく、王家のプライベートなお祝い会のような催しが、巨大な薔薇の花弁の中のような円形の幻想的空間で開かれており、自然とこのフロレスタン王家自体の運命に関心が集まる開幕となっている。
そしてその特別な集いに招待されなかったカラボスの呪いは、一度はリラの精により封印されるのだが、デジレ王子が無意識のうちに解放してしまう。さらにカラボスに心を占拠されてしまったデジレ王子は、恐ろしい行動に走る。一方、オーロラ姫は森のブルーバードや猫たちと仲良く楽しく遊んで育つが、オオカミに襲われた際に、デジレ王子との運命的な出会いを経験する。やがて、隣国の王子たちが集まってオーロラ姫に求婚するローズアダージオでは、マインドコントロールされたデジレ王子が、黒い薔薇を手にして姿を現して、実にスリリングな展開となる・・・・。

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© Hidemi Seto

シャルル・ペローの童話を原作にマリウス・プティパとイワン・フセヴォロシスキーが台本を書き、チャイコフスキーが作曲しプティパが振付けた『眠れる森の美女』は1890年に初演されたが、善の妖精が悪を制し、美しい愛が完結する物語だった。しかし、それから130年以上の時を経て作られた熊川哲也によるバレエは、マインドコントロールといったような超心理的な奇怪な事象をともなって、次々と恐ろしい事件が起こる現代を背景に潜めた物語になっているのである。
そして、こうした人間の深層にかかわるドラマは、カメラワークによりダンサーの動きを細やかに捉える映像作品によって、よりいっそうその陰影を深く観ることができるはずである。また、ダニエル・オストリングの魔法で作られたような魅力的な舞台美術、華やかで色彩が美しいアンゲリーナ・アトラギッチの衣装デザインの細やかなディティールまでを生き生きと感じることができるだろう。
オーロラ姫は日髙世菜、デジレ王子は山本雅也、カラボスは小林美奈、リラの精は成田紗弥が踊っている。
管弦楽はシアター オーケストラ トウキョウ、指揮は井田勝大。2023年10月27日の東京文化会館の舞台を4K収録している。
詳細はhttps://www.k-ballet.co.jp/performance/cinema_sleepingbeauty.html

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© Hidemi Seto

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