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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2014.05.12]

クリストファー・ウィールドンの最高傑作に観客が熱狂、ロイヤル・バレエ『冬物語』世界初演 

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
"The Winter's Tale" Choreographed by Christopher Wheeldon
『冬物語』クリストファー・ウィールドン:振付

英国ロイヤル・バレエは4月10日、クリストファー・ウィールドンの『冬物語』を世界初演。その後5月8日まで全11回公演した。4月28日の公演はイギリス国内400を含むヨーロッパの映画館にてライブ中継され、日本では翌29日で上映されたのでご覧になった読者もいらっしゃることだろう。
『冬物語』はシェイクスピアの晩年の戯曲を基にした3幕仕立ての物語バレエ。英国ロイヤル・バレエがシェイクスピアの戯曲を全幕バレエ化するのは、1965年のケネス・マクミランによる『ロミオとジュリエット』以来約半世紀ぶり。今年4月23日はシェイクスピア生誕450周年で、『冬物語』はその記念すべき年にちなんだ新作であった。
振付はロイヤル・バレエ出身で、現在はニューヨークを拠点に世界のバレエ団に作品を提供しているクリストファー・ウィールドン。ロイヤル・バレエに新作全幕作品を創作するのは2011年世界初演の『不思議の国のアリス』以来3年ぶり。オリジナル・スコアはジョビー・タルボット、装置・衣装デザインはボブ・クローリーが担当、『不思議の国のアリス』でもウィールドンと組んだ仲間たちである。

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前作『不思議の国のアリス』と『冬物語』の相違は、『不思議の国のアリス』が世界中の人々に知られる物語であるのに対して、『冬物語』はシェイクスピア作品でもさほど知られていない戯曲であること。『ロミオとジュリエット』『ハムレット』『真夏の夜の夢』といった人気作品に対して『冬物語』はイギリスの上流階級や知識人階級ですらも知らない人が多い。
 一方『冬物語』と『不思議の国のアリス』の共通点は、それぞれ多数の登場人物を擁することだろう。通常、古典バレエの全幕作品の主要登場人物が2、3名であるのに対して、ウィールドンの『不思議の国のアリス』には主人公アリス、ルイス・キャロルと白うさぎ、庭師のジャックとハートのジャック、アリスの母とハートの女王、帽子屋、ダッチェスなどユニークなキャラクターでいっぱいだったし、『冬物語』は、シチリア王レオンティーズ、王妃ハーマイオニ、息子のマミリス、娘のパーディタ、シチリアの貴族とその妻で王と王妃の忠臣であるアンティゴナスと妻ポーリーナ、ボヘミア王ポリクシニーズと息子フロリゼル、羊飼いとその息子ら多数の魅力的な登場人物を擁する。
今回バレエ団はダブル・キャストでこの新作に挑み、世界初演のファースト・キャストはシチリア王レオンティーズをエドワード・ワトソン、王妃をローレン・カスバートソン、ボヘミア王ポリクシニーズにフェデリコ・ボネッリ、ポーリーナをゼナイダ・ヤノウスキー、パルディタをサラ・ラム、フロリゼルをスティーブン・マックレーとバレエ団の6人の人気プリンシパルが踊った他、羊飼いにプリンシパル・キャラクター・アーティストのギャリー・エイヴィスが扮するという豪華キャストであった。

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バレエのあらすじ
プロローグ
シチリアの王子レオンティーズとボヘミアの王子ポリクシニーズは幼馴染であったが、それぞれ少年時代に即位し、その後長い間再会を果たせずにいた。レオンティーズはハーマイオニを娶り王妃とし、自分のブローチと対の大きなエメラルドの首飾りを贈る。その後、世継ぎの王子マミリウスも生まれ、王レオンティーズは幸せを謳歌していた。旧友で今ではボヘミアの王であるポリクシニーズが宮廷を訪ね9か月もの間滞在し、レオンティーズとハーマイオニ、王子らと共に楽しい時を過ごす。ポリクシニーズが国に帰ろうという時、王妃ハーマイオニは2人目の子供の出産を間近に控えていた。

london1405a_02.jpg photo/Angela Kase

1幕
帰国しようとするポリクシニーズをハーマイオニが引き留めたため、彼は滞在を1週間延ばす。第2児の出産を控え幸せの絶頂にある王妃は大きくなったおなかを夫であるレオンティーズと友人ポリクシニーズの双方にさわらせる。その瞬間レオンティーズは実は妻とポリクシニーズは密通しており、おなかの子はポリクシニーズの子ではないかと激しい嫉妬に駆られる。王はポリクシニーズを追放し、王妃を不義と国家への裏切りの罪で捉え牢につなぐ。王子マミリウスは両親の不仲と母が獄に送られた心痛から重い病気に罹ってしまう。王妃は獄中で女子を出産。王は女官長ポーリーナのはからいによって、第2子と対面するが王妃の不義の子であるとして、ポーリーナの夫で臣下のアンティゴナスに子供をボヘミア領内に捨ててくるよう言い渡すのだった。嵐の中、船でボヘミアに渡ったアンティゴナスは、王妃が身に着けていたエメラルドの首飾りなどの宝物と共に赤ん坊を置き去りにする。そしてその後、熊に襲われて命を落とす。宮廷では王妃の裁判が行われている。ハーマイオニは無実を訴えるが、嫉妬に狂うレオンティーズは信じようとしない。裁判を目撃した病身の王子マミリウスがショックから命を落とすと、王妃もまたわが子を失った心痛から息を引きとる。王子と王妃を次々に失ったレオンティーズは悲しみの中、やっと自らの犯した過ちを悟るのだった。その頃ボヘミアの浜辺では、捨てられた赤ん坊が羊飼いとその息子に発見され、無事保護されていた。

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2幕
16年の時が過ぎ、ボヘミアに捨てられた王女パルディタは羊飼いに育てられ美しい娘に成長していた。王ポリクシニーズの息子で王子フロリゼルが彼女の美しさに目を留め恋に落ちる。王の忠臣がこの噂を聞き、王を伴いそれぞれ楽師に姿を変えて春の祭りがおこなわれている村に忍んでゆく。パルディタは祭りで春の女王に選ばれる。羊飼いの父はこの機会にパルディタが捨てられていた時に見つけた大きなエメラルドの首飾りを彼女に贈る。羊飼いに身をやつしたフロリゼルがパルディタに結婚を申し込み、彼女がうなづいたその時、王と臣下の者がその姿を現し、パルディタと羊飼いの父子に死を宣告する。フロリゼルはパルディタと羊飼いの父子を伴い船でシチリアに逃げる。父王ポリクシニーズは自らの船で息子たちを追ってゆくのだった。
 
3幕
シチリアの国の崖の上の霊廟
王レオンティーズは今日も王妃と王子の死を悼んでいる。自らの過ちを悔い孤独をかこつ王の傍らには、寡婦となったポーリーナの姿がある。2人は知る由もないが、その頃ボヘミアの王子フロリゼルとパルディタを乗せた船が崖下に近づきつつあった。
 
シチリアの王宮
フロリゼルとパルディタが現れレオンティーズに助けを求める。王はかつての友人ポリクシニーズの若かりし頃に生き写しの王子に魅了され、生きていたら2人と同じ位の年であったであろう自らの子供たちを思い出させる、若き恋人たちを匿うことを誓うのだった。するとそこに息子を追ってきたポリクシニーズが現れ、パルディタを手荒に扱う。パルディタの服がはだけ、かつて王妃ハーマイオニが身に着けていた大きなエメラルドの首飾りが露わになる。それに目を留めたのはポーリーナ。羊飼いの娘だと思われていた美しい少女は、かつて王の命で捨てられたシチリアの王女であった。レオンティーズとポリクシニーズは和解し、フロリゼルとパルディタの婚礼が執り行われる。宴の後レオンティーズはポーリーナから、今は亡き王妃ハーマイオニと王子マミリウスの新しい彫刻を見せられる。再び訪れた幸せの絶頂で自らの過ちを悔やむ王が彫刻を前に膝まづくと、彫刻に命が宿ったかのように動き始める。実は王妃は落命してはおらず、女官長ポーリーナによって16年間匿われていたのである。王と王妃は和解し、奇跡的に両親のもとに戻った王女パルディタと共に再び家族は堅い絆に結ばれ、バレエは幕となる。
 
それぞれの幕共に息もつかせぬ展開が素晴らしく、観る者を物語の世界に絡め取って離さない。1幕は嵐の中、船でボヘミアに渡ったアンティゴナスがエメラルドの首飾りと共に王女を捨て、直後に熊に襲われ落命。羊飼いの父と子が赤ん坊と宝物の箱を発見する場面で終わり、2幕は父王にフィアンセと家族の命を狙われる王子フロリゼルが船でシチリアに向かい、激高した父王ポリクシニーズがそれを追う場面で終わる。特に2幕の終わりはタルボット作曲のドラマティックな音楽とダンサーの演技により臨場感にあふれ胸に迫る。そして3幕の最後、美しい彫刻に命が宿ったかのように王の前に王妃ハーマイオニが、再びその姿を現す場面は詩情あふれる音楽と共に大変感動的で、観る者を涙させるのである。

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1幕で描かれるフォーマルで洗練されてはいるが、暗く息詰まるようなシチリアの王宮内の情景と、2幕の明るい陽光が降り注ぎ村人が自由を謳歌するボヘミアの村の対比も見事だ。作曲家タルボットは2幕のために摩訶不思議な音色のフォークロアといった趣の曲を提供し、デザイナーのクローリーは1幕と3幕で美しい彫刻の数々を、2幕では明るい照明の中で緑に輝く大きな木のセットデザインで舞台を美的に彩った。衣装についてはシチリア貴族の衣装がオリジナルでありながら気品にあふれ、シチリア王レオンティーズ、ボヘミア王ポリクシニーズの衣装もまたそれぞれ美しい立ち姿を強調しながら、ダンサーが跳躍やグラン・セゴンドのようなアクションを見せる際には、観客に男性ダンサーの足のラインの美しさを際立たせた。1幕の衣装の一部は現代的でありながら違和感はなく大変スマートである。ボヘミアの村人たちの衣装については観客によって好みが分かれるかもしれない。
 
たいへん演劇的な作品で最もドラマティックな1幕では、英国ロイヤル・バレエが世界に誇る稀代の演技派プリンシパル、ワトソンが嫉妬に狂うレオンティーズの心の襞や王としての威厳や尊厳を見せて観客を圧倒した。王妃役のカスバートソンは王族らしい気品に満ちながらまろやかな女らしさで好感度が高く、クライマックスの彫刻に命が宿ったかのように再び舞台に現れる場面も、スポットライトの中に人間離れした美しさで佇み、作品をいっそう印象的に高めた。
ファースト・キャストのボヘミア王はボネッリで、ワトソン、カスバートソンと共に長身で長く美しい手脚の持ち主が揃った。冒頭でレオンティーズとポリクシニーズが共に踊る場面では、ワトソンとボネッリの長い手脚が描くラインがたいへん美しく、2人の醸し出す気品や友愛も観客の心を温かく満たす。ヤノウスキーは相変わらず威厳に満ちた貴婦人らしい美しさと存在感で、ポーリーナ役が良く似合い作品を引き締めたし、『オネーギン』のタイトル・ロールを踊っても良い人らしさがこぼれたボネッリが、2幕で息子フロリゼルが身分違いの恋に落ちた娘や羊飼いの父子を亡き者にしようとする、激高しやすいボヘミア王を熱演する姿も新鮮であった。2幕で美しく成長した娘として登場するサラ・ラムは、王子の心を射止めても無理はない透明な美しさに満ち、マックレーはダイナミックな跳躍の数々に王子フロリゼルの若さを印象付けた。

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振付について言うと前作『不思議の国のアリス』同様『冬物語』もまた、主役から群舞にいたるまでよく踊る。特に「ボヘミアの村の春の祭」を描いた2幕に踊りが満載されている。振付スタイルについて言及すると1幕の「シチリアの宮廷」を描いた幕では古典バレエに近い品格高い舞踊技術が使われ、2幕では王子とパルディタのパ・ド・ドゥにユニークなリフトやパートナーリングが多用され、パルディタも足をフレックスにして踊るなど、現代的で個性的な振付が施されていた。村人たちの踊りには勢いがあり、1幕のシチリア貴族の宮廷舞踊と比較した際、身分の違いがはっきり判るようなスタイルに仕上がっている。
2幕の「春の祭」ではパルディタと兄・妹のように育った羊飼の息子が演舞に活躍する。ファースト・キャストでこの役を踊ったのはヴァレンティーノ・ズケッティ。まるで直伝のバランシン・ダンサーさながらに小さなステップや素早いムーブメントを美的にまとめ、音楽性に満ちたパフォーマンスで印象に残った。
この戯曲が劇として舞台で演じられる場合、1幕の終りで王女をボヘミアに捨てに行ったアンティゴナスが、熊に襲われ殺害される場面の演出が大きな見どころであるのだという。ウィールドンはこの場面では、ダンサーたちに熊を演じさせるのではなく、熊の顔が淡く描かれた布を使うことで作品を格調高く仕上げた。

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世界初演の4月10日、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)は、約半世紀ぶりにイギリス人振付家の手によってバレエ化されたシェイクスピア劇を観ようという、英五大新聞付の有名舞踊評論家からバレエ・ファンで埋め尽くされた。
観客は1幕のワトソンの鬼気迫る演技と、王子マミリウスと王妃ハーマイオニの死に涙し、2幕の最後、船でシチリアに逃げる王子フロリゼルとパルディタ一行、それを追うポリクシニーズを、手に汗を握る思いで見守った。3幕の最後に王妃ハーマイオニが現れ、王と和解する感動の場面で心を揺さぶられた観客も多かったことだろう。
通常ROHにロイヤル・バレエを観に来る観客は、他国のオペラハウスやイギリス国内の主要劇場に集う観客より大人しいのだが、カーテンコールは大変盛り上がってスタンディング・オベーションとなり、最後はそれぞれ涙ぐんだ振付家ウィールドンと主演のワトソンが熱い抱擁を交わし、観客の声援に応えた。
ちなみに世界初演当日は、ボリショイ・バレエの黄金時代に王子も悪魔も踊って名を馳せた稀代のドラマティック・ダンサーであるボリス・アキモフも客席にいて、幕間に会話するとこの新作が大変気に入った様子で「素晴らしい」と、ご満悦であった。
 
ウィールドンは91年のローザンヌ・コンクールのゴールド・メダル受賞者。87年よりロンドンで英国ロイヤル・バレエを見続けている私は、91年の入団以来ダンサーとしてのウィールドンも頻繁に見たし、振付家として彼がロイヤル・バレエに作った全ての作品を撮影、公演されるのを観てきた。他にも彼のカンパニー「モルフォーシス」の全ロンドン公演の様子も日本の媒体に紹介し続けて来た。
振付家としては、これまでイギリスでは音楽性と美意識の高さに貫かれた抽象バレエの小品ほうが得意かと思われていたが、今回の『冬物語』の大成功でドラマティック・バレエの振付家としての評価も高まるだろう。
ダンサーとしてのウィールドンは、柔軟な身体が紡ぎ出すラインの美しさが秀逸で、入団初年度に『くるみ割り人形』の群舞で後列にいても、グラン・ジュテなどの跳躍で他から抜きんでており強い印象を残した。それを思えばダンサーとして男性離れした柔軟性とラインの美しさで知られるエドワード・ワトソンは、ウィールドンにとってはまるで自分の分身のような存在なのではなかろうか。

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ワトソンは稀代の演技派ダンサーとしてこれまで『大地の歌』の死の使者や『春の祭典』の生贄、『グロリア』の戦士などのマクミラン作品の数々、ウィールドンの『不思議の国のアリス』のルイス・キャロルと白うさぎ、アーサー・ピタの『メタモルフォーセス』などに技量と個性を奮い、バランシンの『四つの気質』ではラインの美しさと役の解釈で、かつてバレエのアカデミー賞であるブノワ賞の最優秀男性ダンサー賞にもノミネートされている。そのワトソンにもう一つ「生涯の役」ともいえるシチリア王レオンティーズが加わり、キャリアを豊かな物にした。
映画であればアカデミー賞の作品賞・音楽・デザイン・主演男優賞・女優賞・助演女優賞あたりを総なめにしそうな『冬物語』。今後イギリス国内のダンス賞で、どのように評価されるかが楽しみである。
 
こうして作品は大成功をおさめたが、ハプニングもあった。世界初演2日前の4月8日に、コベントガーデン友の会会員に披露される予定であったセカンド・キャストによるドレス・リハーサルが,、直前にキャンセルされたのである。その後、4月12日に行われるはずであったセカンド・キャストによる初公演も「十分な準備が出来ていない」を理由に配役が変わり、セカンド・キャストのお披露目は結局公演2週目に延期された。
当初セカンド・キャストは、ティアゴ・ソアーレスをシチリア王レオンティーズとして上演されるはずであったのだが、怪我のために降板。最終的にファースト・キャストでアンティゴナスを踊っていたベネット・ガートサイドが代役となることが決まった。
Wキャストの両方を観る予定にしていたロイヤル・バレエ・ファンの多くが、ワトソンの圧倒的なレオンティーズを観た後に、果たしてセカンド・キャストによるパフォーマンスを楽しめるものか、はなはだ疑問に感じたものである。
ガートサイドは数年前にバレエ団が『マイヤリング』を上演した際に、やはりルドルフ皇太子の代役をつとめたことがある。その際と同じように今回も主役を踊って「地味にまとまってしまう」のではないか、と危惧する者が多かった。
 
4月26日、セカンド・キャストによる公演を観る。当日はシチリア王をガートサイド、王妃ハーマイオニーをマリアネラ・ヌニェズ、ボヘミア王をヴァレリー・フリストフ、ポーリーナをラウラ・モレーラ、パルディタをベアトリス・スティックス・ブルネル、王子フロリゼルをワディム・ムンタギロフが踊った。
やはり演技達者なロイヤル・バレエのトップ・ダンサーたちが踊ると、それぞれの配役が異なる物語を織りなすから不思議だ。この配役では王妃のヌニェズの艶やかな魅力とフリストフの美男ぶりゆえに、「魅力的な妻を娶った王が妻と友の不義を疑う」という筋書きが、手に取るように理解できるのである。

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ガートサイドの王はワトソンに比べ感情表現など控えめながら、その節度ある演舞は古のロイヤル・バレエの名男性舞踊手の数々を思い出させた。2幕でパルディタを踊ったスティックス・ブルネルも、大人びて華やかな魅力の持ち主だから、ヌニェズ演ずる王妃の娘役が似合った。王子フロリゼルを踊ったムンタギロフは長身のスティックス・ブルネルと踊りながら、得意のパートナーリングで難易度の高いリフトの数々を美しく纏め、ソロは優美に、そして村人たちと踊る場面では群舞に良く溶け込むという彼らしいチームワークの良さを見せた。スティックス・ブルネルはウィールドンのユニークな振付をスピーディかつ正確無比に踊り、見事というしかなかった。またこの配役で羊飼の息子を踊ったのは日伊ハーフのアクリ瑠嘉で、闊達なステップと気風の良さを見せ、村人という身分を良く表現していた。

1幕の洗練された宮廷舞踊の場面も男性ダンサーにとってはパートナーリングが難しいようで、少々タイミングがずれると相手役の女性を支えることが出来なくなってしまう。実際この日はガートサイドとヌニェズが踊る場面でヌニェズが転倒するハプニングがあった。
土曜日の正午からであったこの日の公演には、当日売りの席や立ち見に日本人を含むバレエ学校の生徒たちが多かった。日本人生徒たちの多くが100パーセント、ストーリーを把握できずにいたにもかかわらず、物語の視覚化が巧みで手に汗握らせる場面展開もあり、みんな大いに感動して観ていたのが印象的であった。
ドラマティックな作風は、マクミランの名作全幕の数々を思い出させ、最終的に2つの配役とも主役のシチリア王をイギリス人男性ダンサーが踊ったとこともあり、『冬物語』は大変イギリス的でロイヤル・バレエのスタイルに貫かれた公演となり、古くからこのバレエ団を見続けるバレエ関係者やファンを喜ばせた。
バレエ団の広報活動も実を結び、第2週目には全公演チケットが完売。28日のライブ・シネマも映画館によっては人気の高さから2つのスクリーンで上演したという。
 
ドレス・リハーサルと世界初演の4月10日、26日、そして映画館ライブを観たが、マシュー・ボーンがそうであるように、ウィールドンもリハーサル以来、舞台を観ては作品の細部に手直しを加えてゆく。26日までは2幕の最後に王子とパルディタが船で逃げ、父王がそれを追う場面では双方同じ舟のセットに乗ったが、ライブの28日は王はより豪華で白い帆に、王家の紋章が映し出された船に乗っている、と作品がより進化していた。セカンド・キャストで王子を踊ったムンタギロフは、4月第4週はタマラ・ロホが芸術監督に就任して以来、初のスペイン公演を行っていたイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)にも客演し、ロホを相手役に『海賊』全幕を踊っており、『冬物語』公演前後にマドリッドとロンドンを何往復もする忙しさであった。またファースト・キャストでボヘミア王を踊ったボネッリは怪我に倒れ、最後の2公演はフリストフが代役をつとめることになった。
 (2014年4月10日、26日と28日の映画館ライブを鑑賞。舞台写真は最終ドレス・リハーサル)

london1405a_08.jpg photo/Angela Kase