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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.12.10]

ロイヤル・バレエは英国人振付家のトリプルビル、ドーソン『ザ・ヒューマン・シーズンズ』が好評

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
"Chroma" by Wayne McGregor、"The Human Seasons" by David Dawson、"The Rite of Spring" by Kenneth MacMillan
『クローマ』ウェイン・マクレガー:振付、『ザ・ヒューマン・シーズンズ』デイヴィッド・ドーソン:振付、『春の祭典』ケネス・マクミラン:振付

ロイヤル・バレエ(RB)は11月9日〜23日まで3人のイギリス人振付家の作品による「バレエ小品集」を5、6日上演した。
 今回のトリプル・ビルは、バレエ団の常任振付家ウェイン・マクレガーの代表作である『クローマ』とヨーロッパで人気の高いデイヴィッド・ドーソンによる『ザ・ヒューマン・シーズンズ』の世界初演、バレエ団のかつての常任振付家であるケネス・マクミラン版『春の祭典』を一挙上演するというたいへん興味深い試みであった。
 11月8日にファースト・キャストによる最終ドレス・リハーサルを撮影し、初日である9日の公演を鑑賞した。

初日に『クローマ』を踊ったのは、フェデリコ・ボネッリ、崔由姫、ローレン・カスバートソン、トリスタン・ダイアー、メリッサ・ハミルトン、サラ・ラム、スティーヴン・マックレー、ダヴィッド・トルゼンスミエッヒ、エリック・アンダーウッド、エドワード・ワトソンの10人。
怪我による長期休養とその後のリハビリから見事に復帰したカスバートソン、09年入団以降一時故障で一線を離脱しながら、その後克服し、今シーズン抜擢が続くファースト・アーティストのトリスタン・ダイアーら、バレエ団のスターや新星が健闘した。
だがなぜか今回の再演は今一つ輝きに欠けて見えた。思えばこの作品の世界初演時にオープニングで、目を見張るばかりの身体能力の高さを振るったアリーナ・コジョカル、再演の際にコジョカルのパートを踊ったマーラ・ガリアッツィら、この作品でおなじみのメンバーの3人が今やバレエ団を離れている。そのせいなのだろうか? 音楽だけでも充分盛り上がるはずのこの作品を、今回は楽しむことが出来ない自分が不思議でならなかった。

3作品中最も光を放ったのがデイヴィッド・ドーソンの新作『ザ・ヒューマン・シーズンズ』である。
ロンドン生まれのドーソンは、ロイヤル・バレエ・スクール在籍時にローザンヌ賞とアリシア・マルコヴァ賞を受賞し、91年にピーター・ライト芸術監督時代のバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)に入団。ダンサーとしてライト版の古典作品やマクミラン、アシュトン、ビントレー作品の数々を踊った後、94年にソリストとしてイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)に移籍して1年を過ごし、翌95年、当時ウェイン・イーグリングが芸実監督をつとめていたオランダ国立バレエに入団。クラシックからバランシン作品、ルディ・ヴァン・ダンツィヒ、ハンス・ファン・マーネン振付による現代作品を踊っている。
ダンサーとして活躍していたオランダ国立バレエ時代の97年に振付家デビューし、処女作品を発表。その後バレエ団に『ミリオン・キシィズ』『スキン』などの作品を振付けた。2000年以来ドーソン作品の衣装を担当するYUMIKOこと竹島由美子は、オランダ国立バレエ時代からの仲間だ。
バレエ・フランクフルトに客演した後、若くして振付活動に専念することを決意。2004年〜12年までの9年間をドイツのドレスデンにあるゼンパー・オーパー(ドレスデン・バレエ)の常任振付家として数々の作品を発表した他、ベルギー王立バレエや古巣であるオランダ国立バレエ、ENBにも作品を提供。今ではアメリカのボストン・バレエをはじめ、スェーデン王立バレエ、フィンランド国立バレエ、ノルウェー国立、ハンガリー国立、ニュージーランド・バレエなど世界の25カ国もの国々で作品が上演されている。
今回ドーソンが振付家としてロイヤル・オペラ・ハウス・デビューすることになった発端は、ロイヤル・バレエ現・芸術監督のケヴィン・オヘアがBRB時代の後輩で現在、振付家として世界的な活躍をするドーソンに打診し、作品提供をうながしたことから。

london1312a02.jpg (C) Angela Kase london1312a04.jpg (C) Angela Kase

『ザ・ヒューマン・シーズンズ』はイギリスのロマン派詩人ジョン・キーツの詩に触発されたという34分の小品。
初日をつとめたのはローレン・カスバートソン、エドワード・ワトソン、メリッサ・ハミルトン、エリック・アンダーウッド、サラ・ラム、スティーヴン・マックレー、マリアネラ・ヌニェズ、フェデリコ・ボネッリの8人。
幕が上がると暗い照明の中、4人の男性ダンサーが舞台前方に横一列に並び、相手役のバレリーナを両腕で高くリフトしている。バレエはこのポーズで始まり、その後8人のダンサーが縦横無尽にステージを疾駆したり大きな跳躍を見せた後、男女のペアが叙情的なデュエットを踊り、また冒頭と同じ求心的なポーズに戻って終わる。
時にショッキングな音楽を用い一部グロテスクな振付のマクレガー作品『クローマ』の後に見たドーソンによる新作は、心が洗われるような清涼感と美意識の高さに彩られ、グレッグ・ヘインズによる美しい音楽と共にたいへん心に残った。衣装はドーソン作品には欠かせない竹島由美子(YUMIKO)によるシンプルかつシックなものだった。

london1312a03.jpg (C) Angela Kase london1312a05.jpg (C) Angela Kase london1312a06.jpg (C) Angela Kase

初日である9日に満場のロイヤル・オペラ・ハウスを埋め尽くした観客やバレエ関係者も、この作品には深く心を打たれた様子。観客は作品終盤のヌニェズとボネッリによるデュエットや最後の求心的なポーズを堪能した後、静かに余韻をかみしめていたのか、観客席が一瞬、静寂につつまれた。が、直後にこれまで母国より海外で高い評価を受けてきた振付家ドーソンと、世界初演作品を見事に踊りきったロイヤル・バレエのダンサーたちに、劇場中から大きくそして暖かい拍手が贈られたのた。
ロイヤル・バレエ団公認舞台写真家が撮影した8日のドレス・リハーサルは、バレエ団のサポーター組織である友の会のメンバーではなく、RBとBRBの付属であるロイヤル・バレエ・スクール、バーミンガムにあるエルムハースト・スクール、ENBの付属校であるイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールの3校の生徒たちが招待され、客席は将来世界の檜舞台での活躍を夢見る若者たちの熱気であふれていた。
ロイヤル・バレエの場合、友の会のメンバーに公開されるドレス・リハーサルは、パフォーマンスとほぼ同様に行われ、振付家や指導者からのダメ出しは一切入らない。今回は学生たち向けのゲネプロであったせいか、ドーソン作品の後には幕を下ろさず、振付家本人が舞台に上がり10分弱ほどダンサーにポーズの模範を見せるなどしていた。
ロイヤル・バレエのダンサーのほとんどにとってドーソンと仕事するのは今回が初めて。翌日に初日を控えていることもあり、ヌニェズ、ボネッリ、ワトソン、アンダーウッドらは、観客席に背を向け舞台下手に立ってダンサーを指導するドーソンと熱心にコミュニケーションを取り、作品をより完璧なものにしようとしていた。その一群から離れ、舞台上手にポツンと座って一人の世界に埋没していたのがマックレー。ソロを踊ることにかけては天才的なダンサーだが、小柄で腕力に欠ける彼とサラ・ラムとのデュエットは、マックレーのサポート面の弱さから決して完璧とは言えなかった。だがステージでリハーサルできる貴重な時間を使って練習することもなく一人グループから離れて座っている。その後ラムにう ながされ、やっと夢から覚めた人のように立ち上がって少しだけ問題があった部分をやり直していた。
当日招待された学生たちの多くもドーソン作品がたいへん気に入った様子。翌日の初日を観に行こうとコベント・ガーデンへの道を急いでいると、「昨日も観たけどドーソン作品が気に入ったから、また当日券を買って観に来たんだ。」と語るバレエ学校の最上級生たち数人と出会った。
来年の卒業を控え、そろそろ各国のバレエ団やダンス・カンパニー入団のオーディションを受け忙しい彼らが日参することからも、ドーソン作品の魅力のほどがうかがえようというものである。

london1312a01.jpg (C) Angela Kase

マクミラン版『春の祭典』の初日に生贄を踊ったのはゼナイダ・ヤノースキーであった。
前回の再演はモニカ・メイスン芸術監督時代で、メイスンのたっての希望で通常は女性が踊る生贄役をワトソンとマックレーというロイヤル・バレエが世界に誇る2人の男性ダンサーが主演し話題となった。
前回の試みもエキサイティングであり、私自身2人によるパフォーマンスを楽しんだものだが、今回久しぶりに女性(ヤノースキー)主演公演を見て、マクミランが若きメイスンを抜擢して、この作品を世界初演した際のビジョンを時代を超えて共有したように感じた。この役は前々回の再演の際にタマラ・ロホで撮影、鑑賞したが、ヤノースキー主演で撮影、鑑賞した際に感じたスリルを味わうことはなかったのである。
感情表現に優れ『白鳥の湖』のオデット・オディール、『ラ・バヤデール』のニキヤのような古典作品からアシュトンの『田園の出来事』『マルグリッドとアルマン』のような物語バレエのヒロインまでを得意としながら、マクミラン版『春の祭典』に見られるセンセーショナルな現代作品の主役を踊っても観客を興奮の坩堝に陥れるヤノースキーというダンサーの芸域の広さと、ダンサーとしての充実に大いに心打たれた一夜であった。
 当日はローザンヌ・コンクールの研修賞で秋からバレエ団と活動を共にしている山本雅也も、ザ・エルダーの3人の内の1人に扮し、マスクを通してではあるが、満場の観客やバレエ関係者に向き合った。
 通常今回のような演目のトリプル・ビルはチケット・セールスに苦戦することも多い。だが今回は初日直前に全てのチケットが完売となり、同じ作品を違う配役で見たいというバレエ・ファンや、新聞評を読んで興味を持った一般のダンス・ファンがチケット入手に苦労し、奔走する結果となった。ケヴィン・オヘア芸術監督率いるロイヤル・バレエは、先シーズン多くのスター・ダンサーがバレエ団を離れたにもかかわらず、2シーズン目も現在までチケット・セールスに圧倒的な強さを見せ、関係者を驚かせている。
(2013年11月8日世界初演キャストを撮影。9日初日の舞台を鑑賞。ロイヤル・オペラハウス)