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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.07.10]

小林ひかる、崔由姫、高田茜、金子扶生が主要な役を踊った『ラ・バヤデール』

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
"La Bayadère " by Natalia Makarova
『ラ・バヤデール』ナタリア・マカロワ振付

バレエ団は4月5日〜5月22日まで『ラ・バヤデール』を13公演したが、5日に初日を踊るはずのアリーナ・コジョカルも怪我で降板。カスバートソン、コジョカル、スティックス・ブルネルと日本公演の主役を踊るはずの3人が怪我に倒れていたのである。4月初旬の段階で在英日本人バレエ関係者の1人として、7月の日本公演の主演ダンサーの顔ぶれをたいへん心配した。

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先年のシーズン後半、怪我によるプリンシパルの降板が相次いだ際にバレエ団を救ったのは平野亮一など日本人ダンサーであった。今年もその現象は続き『ラ・バヤデール』を降板したカスバートソンの代役に立ったのは小林ひかる。4月5日午後の公開ドレス・リハーサルに登場後、9日にニキヤ役でデビューし、ネマイア・キッシュのソロル、崔由姫のガムザッティを相手に充実した舞台を見せた。
ゲネプロと9日共に高僧ハイ・ブラーミンはギャリー・エイヴィス、ラジャはウィリアム・タケット、マグダヴェーヤをジェイムス・ヘイ、ブロンズ・アイドルはブライアン・マロニーが踊った。ゲネプロを撮影していた私が感動したのは、小林、キッシュ、崔それぞれの素晴らしさに加え、主要な役を踊った日本出身ダンサーの数である。小林と崔以外に、2幕「影の王国」の3人のソリストのうち第1と第2ソリストを高田茜と金子扶生が踊ったのだ。英国ロイヤル・バレエを撮影するようになり17年になるが、日本出身のバレリーナ4人もが古典バレエの主要な役に抜擢される場面に立ち会うのはこれが初めて。個人的に大変感慨深いものがあった。
小林、キッシュ、崔による『ラ・バヤデール』はベテランの小林の役作りと表現力から、ニキヤとガムザッティの身分の違いが手に取るように判った。根っからの貴公子ダンサーであるキッシュは戦士というにはややロマンティックな雰囲気だが、2人の女性に愛され、運命に翻弄されて命を落とす役は似合っている。バレリーナのサポートに長けているダンサーだけに、小林、崔それぞれの好演をよく助けた。

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小林と崔の2人は過去にセルゲイ・ポルーニンをソロル役に、崔がニキヤ、小林がガムザッティを踊って共演している。その際は崔のニキヤ、小林のガムザッティという配役に納得したものだが、今回小林のニキヤ、崔のガムザッティを観て、この配役の方が2人の個性がより生きるのではないか、と思った。
ソロルとの婚約披露宴のグラン・パ・ド・ドゥを踊る崔は、グラン・ジュテやイタリアン・フェッテなどの大技をも難なくまとめ華やかであったし、全幕を通じて驕慢な美貌の姫役が良く似合ったし、小林はソロルを一途に愛しながらも周囲の者たちの欲望の犠牲者として、若くして落命するニキヤの無念を演技でよく表現しただけでなく、2幕「影の王国」のグラン・パ・ド・ドゥでは波打つようなパ・ド・ブレ、豊かなバランス、美しい腕使いで観客を幽玄の世界に誘った。
元々スター性の大きな小林と『不思議の国のアリス』を踊ってバレリーナとしての魅力が増す崔との『ラ・バヤデール』での競演は、2人のスター性と技量が炸裂し、見ごたえがあり、古参のロイヤル・バレエ・ファンの多くをも喜ばせたのであった。
5月1日、オランダ国立バレエのプリンシパル、マシュー・ゴールディングのコベントガーデン・デビューがあった。これは長身のゼナイダ・ヤノウスキーの相手役として招聘されたもので1日と13日に2公演が予定されていた。
震災直後の2011年4月に東京バレエ団に客演して以来、同年6月の『白鳥の湖』、昨年の世界バレエ・フェスティバルなど、日本のバレエ・ファンの間で知名度の高いゴールディングも(ローザンヌ・コンクールの縁でロイヤル・バレエ・スクールで学んだとはいえ卒業前の1年だけのこと)ここイギリスではほぼ無名の存在である。
だがバレエ団が男性のゲストダンサーを招くのは久しぶりで、また3月以来プリンシパルの降板による配役変更に失望していたロイヤル・バレエ・ファンは、ゴールディングの客演に期待を寄せ、ロイヤル・オペラ・ハウスに集結した。

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デビュー公演を観る。コベントガーデンの舞台に颯爽と登場したゴールディングは野生的で、ロイヤル・バレエの男性プリシパルたちとは異なる雰囲気を醸し出していた。ここ数年カリスマを持ったダンサーが激減しているバレエ界にあって、ゴールディングはスター性の大きさでは世界のトップクラスだろう。
コベントガーデン・デビューにあたって緊張があったのか。それとも長身ゆえ舞台の使い方に注意する必要があったのか。
グラン・パ・ド・ドゥのマナージュが気持ち尻すぼみに終わってしまったとはいえ、幕が進むごとに調子は上向きとなり、感動的な幕切れとカーテンコールとなった。
ヤノウスキーは寺院の巫女らしく清廉で、高僧ハーブラーミンに懸想されても仕方がない女性的な魅力にあふれていた。ワイルドなゴールディングとはなかなか絵になる顔合わせ。長身の男性ダンサーにとってもヤノウスキーは相手役としては大柄である。ゴールディングが冒頭から自分のソロ以上にヤノウスキーに対するパートナーリングに心を砕いている様子がうかがえた。

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ガムザッティはイツァール・メンディザバル、ハイ・ブラーミンはエリック・アンダーウッド、ラジャはウィリアム・タケット、マグダヴェーヤをヴァレンティーノ・ズケッティ、ブロンズ・アイドルはジェイムス・ヘイが踊った。
ズケッティはシャープなソロとニキヤに見せる思いやりとで印象に残った。アンダーウッドのハイブラーミンは仏教的な静謐さと磁力のような魅力にあふれ、ギャリー・エイヴィスやアリステア・マリオットとは一線を画した役作りで忘れがたい。
ゴールディングは2度目の主演公演の前日である5月12日(日)には、サドラーズ・ウェルズ劇場でアリーナ・コジョカル主催のチャリティー・ガラにも出演。コベントガーデン・デビュー直前の4月末には、タマラ・ロホ率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエ団より、6月に6000席のロイヤル・アルバート・ホールで行うアリーナ版『白鳥の湖』の初日にゴールディングがロホの相手役をつとめるとのアナウンスもあり、短期間の内にイギリスの有名バレリーナと観客の心を掴み、大いにその知名度を上げたようだ。

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