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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.07.10]

崔由姫がアリス役でデビューした『不思議の国のアリス』

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ
" Alice's Adventures in Wonderland " by Chirsopher Wheeldon
『不思議の国のアリス』クリストファー・ウィールドン振付

2012・13シーズン後半のロイヤル・バレエは、3月に『不思議の国のアリス』を再演した頃から主演ダンサーに怪我人が相次ぎ、多くの配役変更が加えられる結果となった。
『不思議の国のアリス』は、3月14日~4月14日まで12公演が行われ、当初日本公演と同じ3配役が予定されていた。だが世界初演の際にタイトル・ロールを踊ったローレン・カスバートソンが故障から回復せず舞台復帰を果たせなかったため、アリス役がサラ・ラムとベアトリス・スティックス・ブルネルの2名のみになってしまった。この欠員を埋めるべくタイトル・ロールに抜擢されたのが崔由姫で、3月23日(土)にニーアマイア・キッシュを相手役にアリス役でデビューした。
原作はバレエ・ファンでなくとも誰もが知っている物語であるため、世界初演以来バレエ・ファン以上に一般人の間で人気が高沸し、今回の再演も早くからチケットが完売になっていた。崔のデビュー当日は土曜のマチネであったことから家族客が多く、観客席には初めてのバレエ鑑賞のためにおめかしをした子供たちでいっぱいだった。
この週はロイヤル・バレエとバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)の双方がロンドン公演を行っており、BRBはコベントガーデンから徒歩15分のコロシアム劇場でビントレー振付『アラジン』全幕を上演し家族客動員を狙ったが、観客動員数においてロイヤル・バレエをしのぐことはできなかった。
崔のアリスは上品で内省的な雰囲気。少女のような容姿も大いに生かされビクトリア時代の令嬢そのものである。相手役のキッシュも彼特有のおっとりした持味がこの作品では生きて、夢物語の登場人物がたいへん良く似合った。
ルイス・キャロルと白うさぎ役はセルヴェーラ、アリスの母とハートの女王役はヤノースキー、マッドハッターとマジシャンはアレクサンダー・キャンベル、、ダッチェスはギャリー・エイヴィス。セルヴェーラは白うさぎにコミカルな魅力を奮ったが、オクスフォード大学の数学の教授ルイス・キャロルには見えない。やはりこの役が最も似合うのは世界初演しているワトソンである。また今年この役でデビューしたブライアン・マロニーのルイス・キャロルは、お気に入りの少女であるアリスに対する優しさと愛があふれ、好感度が高く、ファンの多くがマロニーのルイス・キャロルと恋に落ちたようだ。ウィールドンは今回の再演にあたって作品に少々手を加えた様子。冒頭にその後のバレエの展開がよりわかり易くなるような短い場面が挿入されていた。
世界初演以来、全キャストでこの作品を観ているが、今回初めてこのバレエの主役アリスを演じ、踊る難しさを痛感した。作品にハートの女王やマッドハッター、ダッチェスなど強烈な印象をふりまく登場人物が多数存在することから、地味なバレリーナが踊ると作品にうずもれてしまう。それを避けようとダイナミックに踊ったり振舞えば演技過剰に陥り、ビクトリア時代の令嬢にも夢物語の主人公にも見えなくなってしまうのである。
崔は主演日にアリスの姉妹の1人を踊ったのはベアトリス・スティックス・ブルネル。振付家ウィールドンの抜擢によりコール・ド・バレエの1員であった2012年にアリス役で突如デビューし、話題になった大型新人だ。昨年に続いて今年も作品の主役もつとめたが、ロイヤル・バレエとオペラの友の会組織であるコベントガーデン友の会会員向け公開ドレス・リハーサルと、その後の主演公演を1度踊った後、怪我に倒れてしまった。