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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.06.10]

ノーザン・バレエ『華麗なるギャッツビー』『みにくいあひるの子』をロンドン初演

Northern Ballet  ノーザン・バレエ
" The Great Gatsby" by David Nixon / London Premiere. "Ugly Duckling " by Dreda Blow & Sebastian Loe / London Premiere. "The Ultimate Form" by Kenneth Tindall / UK premiere
『華麗なるギャッツビー』デイヴィッド・ニクソン振付(ロンドン初演)、
『みにくいあひるの子』ドレダ・ブロウ&セバスチャン・ロウの振付(ロンドン初演)
『ジ・ウルティメイト・フォーム』ケネス・ティンダル振付(英国初演)

ノーザン・バレエは,5月11日(土)に本拠地のリーズ市にほど近いウェイクフィールドにある現代美術館、ザ・ヘップワース・ウェイクフィールドにて『ジ・ウルティメイト・フォーム』をイギリス初演。翌週5月14日(火)〜18日(土)には話題の新作『華麗なるギャッツビー』と子供向け新作バレエ『みにくいあひるの子』のロンドン初演を行った。

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『華麗なるギャツビー』
『華麗なるギャツビー』は、バレエ団の芸術監督で振付家のデイヴィッド・ニクソンの最新作。バレエ団の本拠地リーズでは2月に世界初演されている。ニクソンと言えば振付のみならず、自らの作品の衣装も手がける。これまでも1920年代〜30年代の古き佳き時代を舞台に数多くの物語バレエを振付ており、20年代〜30年代のファッションにたいへん造詣が深い。振付家の嗜好や作風を良く知る英バレエ関係者やファンの多くが「ニクソンが手がけるのなら新作『華麗なるギャツビー』の成功は間違いなし。」と、作品の製作発表が行われて以来、大いに期待していた。
ノイマイヤー率いるハンブルグ・バレエ、ビントレー率いるバーミンガム・ロイヤル・バレエなど、芸術監督が振付家であるバレエ団は、舞踊技術のみならず、容姿に優れ、個性豊かな演技派ダンサーを多数擁するのが常だ。ノーザン・バレエもまた然りで、プルミエ・ダンサーと呼ばれるプリンシパルには、演舞に優れニクソン作品の多くを世界初演するアメリカ人バレリーナのマーサ・リーボルト、舞踊技術とサポート、品性に優れ、爽やかな魅力でイギリスのバレエ・ファンを心をつかむ演技派の高橋宏尚、貴公子ダンサーのトバイアス・バトリー、包容力に富むキューバ人ダンサーのハヴィエ・トレがおり、リーディング・ソリスト以下にも魅力ある男女が多数在籍。たくさんの主要登場人物を必要とする『華麗なるギャッツビー』を、複数の配役で上演するだけの役者が揃っているのであった。
世界初演の本拠地リーズとその後の国内ツアー先、そしてロンドンでの初日にギャツビーを踊ったのはトバイアス・バトリー。ニック・キャラウェイをジュリアーノ・コンタディーニ、女性主役のデイジーはマーサ・リーボルト、デイジーの親友でゴルファーのジョーダンをハナ・ベイトマン、デイジーの夫で金と権力を持つ男トム・ブキャナンをケネス・ティンダル、トムの愛人マートルをビクトリア・シブソン、マートルの夫でガレージ経営者のジョージをベンジャミン・ミッチェルが踊った。
バレエは物語の準主役であるニックが、ロング・アイランド、ウェスト・エッグのギャツビー邸の隣に引越してくる場面から始まり、ほぼ原作通りに進行する。

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第1幕で披露されるニューヨークの街並みと道を行き交う人々、デイジーの夫トムが愛人との密会に使うNYのアパートでのジャズ・エイジならではのパーティー・シーン、ギャツビー邸の華麗なパーティーの場面で群舞が踊るチャールストンやタンゴは、たくさんのダンサーを存分に用いる技量に優れるニクソンらしい演出・振付で、作品に勢いを与えている。これら群舞が多様される場面に前後して、大邸宅に住みながらデイジーを想う孤独なギャツビー、若き日のギャツビーとデイジーを描いた回想シーンや、妻の浮気を疑うガレージ経営者のジョージがタイヤと戯れ、物憂げに踊るソロなど、少数のダンサーが登場する印象的なシーンの数々が織り込まれ挟まれ、作品にメリハリを与えている。
音楽はリチャード・ロドニー・ベネットの名曲(映画『オリエント急行殺人事件』『ジャズ・カレンダー』『ニコラスとアレキサンドラ』などからの抜粋)の数々が、時にドラマティック、時にはロマンティックにとたいへん効果的に用いられている。ロード・アイランドの海辺や、ギャッツビーとブキャナン邸、パーク・プラザ・ホテル、ジョージが経営するガレージなどの美しいセット・デザインは、フランス人のジェローム・カプランが担当した。

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ロンドン公演は3配役で行われ、5月14, 15, 16, 18日夜を前述のファースト・キャストが、16日昼と17日夜をセカンド・キャスト、18日昼をサード・キャストがつとめた。
ファースト・キャストは、タイトル・ロールを踊ったトバイアス・バトリーが役に似合いで、1974年版映画のロバート・レッドフォードのような優美な姿で孤高の人ギャツビーを良く表現し、デイジー役のマーサ・リーボルトも喜怒哀楽の表現に富み、また確かなダンス技術で2人の男性の間で揺れ動くデイジーの心を巧みに演じた。いかにも20年代の御しがたい女性ジョーダンを踊ったハナ・ベイトマンもたいへん魅力的で、粗暴な権力者トムを踊ったケネス・ティンダルの存在感も作品を大いに引き締めた。パーティーのチャールストンの場面では大型新人のケヴィン・パンがソロを踊って観客の目を奪った。
この配役では、リーボルト、ティンダル、ベイトマンら個々のダンサーの個性が鮮やかに作品から浮かび上がって観客を圧倒すると共に、バトリー演ずるギャッツビーの孤独が強調され、過去の美しい想い出に生き、夢を追い求めたギャッツビーの回想シーンが、ニクソンの優れた振付と共に胸に迫った。

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この配役では、リーボルト、ティンダル、ベイトマンら個々のダンサーの個性が鮮やかに作品から浮かび上がって観客を圧倒すると共に、バトリー演ずるギャッツビーの孤独が強調され、過去の美しい想い出に生き、夢を追い求めたギャッツビーの回想シーンが、ニクソンの優れた振付と共に胸に迫った。
役者揃いでチームとして纏まりが良く、ラストで観客を涙させたのが、キューバ人のハヴィエ・トレのギャツビー、高橋宏尚のニック、ドレダ・ブロウのデイジー、ピッパ・ムーアのジョーダン、ジョン・ハルのトム、ジュリー・シャーレが若き日のデイジーを踊ったセカンド・キャストである。美しく繊細なギャツビーを演じたファースト・キャストのバトリーとは対照的に、ハヴィエ・トレは包容力に富み、壮大な男のロマンを感じさせるタイプのダンサー。再びデイジーを手にするため、悪に手を染めてまで財を得ようとしたギャツビーの心の闇を観客に大いに納得させる魅力の持ち主である。善良で育ちの良さを感じさせる高橋のニックがまた素晴らしかった。トレ扮するギャッツビーと固い友情で結ばれ、親友の夢を何とか現実の物にしてやりたいと、優しく支え助ける姿には誠があり、観客の心を温かいもので満たしたのだ。
この作品には、ギャツビーとデイジーが踊るロマンティックな男女のデュエットと共に、ギャツビーとニックの男性2人や、男性2人と女性主人公であるデイジーの3人が踊る場面が多く、たとえばギャツビーがリフトしたデイジーを空中に投げ、親友のニックが彼女を受け止めるといった印象的な見所が数多くある。舞踊技術やバレリーナを美しく踊らせるサポート技術に優れたトレと高橋の共演は、それぞれの場面で作品を大いに盛り上げたいへん見ごたえがあった。

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また作品の終盤でロードアイランドの海を背景に、ギャツビーとニックが静かに語り合う場面がある。演ずるダンサーによっては印象に残らないシーンにもなり得るが、トレと高橋の2人が並ぶと観る者に2人の会話が今にも聞こえてくるかのような饒舌な場面になる。男性的な体格のトレとすらりとした長身の高橋は視覚的にもまた対照的だが、恰幅よくスーツを着こなしたトレ扮するギャッツビーと燕尾服をった貴公子のような姿の高橋が桟橋の上に佇む姿は絵になり忘れがたい印象を残した。
デイジー役のドレダ・ブロウは、1920年代のフラッパーを見事に体現。包容力に満ちたトレのギャツビーと、華奢で小柄・愛らしいブロウのデイジーも魅力的な取合わせであり、個々のダンサーの個性が際立ったファースト・キャストより、より原作を生きているように見えた。ガレージ経営者のジョージを演じたのは、ロイヤル・バレエ・スクールから今シーズン入団したばかりのアイザック・リー・ベイカー。荒削りながらソロの所々に黒人系ダンサーらしい身体能力の高さを見せ、将来が期待される。
最終日18日(昼)に若き日のデイジーを踊ったアントワネット・ブルックス・ダウも、『美女と野獣』の美女、『くるみ割り人形』のクララに続き、充実したパフォーマンスを見せ強い印象を残した。
ここ数年ノーザン・バレエのロンドン公演初日ともなれば、劇場入り口に赤いカーペットが敷かれ、たくさんのセレブリティが招待されることでも有名だ。

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『華麗なるギャツビー』ロンドン初日の5月14日も、映画『ガンジー』の名優ベン・キングスレーや映画『レ・ミゼラブル』でマリウスを演じた若手演技派俳優のエディ・レッドメインやダーシー・バッセルなどのセレブが招かれ、写真家たちから盛んなフラッシュをたかれていた。また事前発表はなかったものの公演3日目、16日夜はバレエ団のパトロンであるエドワード王子ご観覧バレエであった。
ロンドン公演は早くからチケットが完売で、公演前日や当日にオンライン予約に上がったリターン・チケットもあっという間に買い手がつく人気。作品も好評で連日カーテンコールでは興奮したロンドンっ子が歓声を上げ、盛り上がりを見せた。ニクソン版『華麗なるギャツビー』は世界初演以来、イギリスで5万人の観客を動員し、バレエ団は最も成功したスプリング・シーズンを締めくくった。ちなみにバズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『華麗なるギャッツビー』のロンドンでの封切りは、バレエのロンドン初日2日後の5月16日。映画とバレエの両方を観たバレエ関係者や観客の多くが、ニクソン振付のバレエ版に軍配を上げている。
(2013年5月14日、16日、17日、18日 サドラーズ・ウェルズ劇場 写真はバレエ団提供)

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写真に登場するダンサー
ジェイ・ギャッツビー  トバイアス・バトリー
ニック・キャラウェイ  ジュリアーノ・コンタディーニ
デイジー・ブキャナン  マーサ・リーボルト
トム・ブキャナン    ケネス・ティンダル
ジョーダン・ベイカー  ハナ・ベイトマン

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『みにくいアヒルの子』
ノーザン・バレエは5月17日(金)午後には、幼児向けバレエ『みにくいアヒルの子』をロンドン初演。11時30分と12時30分から2公演行った。
『みにくいアヒルの子』は、バレエ団ソリストのドレダ・ブロウとコリフェのセバスチャン・ロウの振付で、昨年秋にバレエ団の本拠地リーズで世界初演されて以来、イギリス国内をツアーし好評を博している作品。
アンデルセン童話を基に、みにくいアヒルの子が卵から生まれ、自らの容姿を苦に悩む姿、その後、美しい白鳥となり巣立って行くまでを描いている。幼児を対象にした作品であるため、上演時間は30分の小品。上演時間こそ短いが、愛らしく夢のある作品に仕上がっている。
お母さんアヒルとアヒルの子の兄弟姉妹、キツネ、黒ネコや雨ガエル、白鳥など様々な動物が登場。美と天上界の象徴である白鳥を踊るバレリーナと、自分を白鳥のヒナであるとは知らないみにくいアヒルの子を踊る2人だけがトウ・シューズで踊り、他の動物を演ずるダンサーたちはバレエ・シューズで踊ることで、幼い観客にも分かりやすくバレエとダンスの技術の違いを印象付けている。

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主人公は、黄色く可愛い姿の兄弟姉妹に容姿の違い(みにくい灰色の姿)を指摘されるが、昨今のバレエ作品に見うけられる激しい苛めの場面はない。一人ぼっちになって絶望した主人公の前に、美しいチュチュを纏ってパ・ド・ブレで舞台を横切り登場する白鳥役バレリーナの何と優美なことか。客席のちびっこたちや童心に帰ったご両親たちが白鳥役のバレリーナに心を奪われ、目を輝かせて見入っている姿が何とも微笑ましかった。
終演後、劇場の2階席から階段を降りる途中、階下を見ると正面玄関近くにたくさんのベビー・カーが並んでちびっこ客を待っている。階下ではベビーカーに子供を乗せた母親の多くが携帯で家族に「今ノーザン・バレエの『みにくいアヒルの子』を見終わったところなの。こんな可愛いバレエ初めて見たわ」「素晴らしかったわ」と電話する姿も見受けられた。
観客に無料で配られる公演プログラムの中には、塗り絵や子供用クロスワードのページもあり、劇場を後にした子供たちの情操教育にも役立ちそうだ。
イギリス人はヨーロッパ大陸諸国とは違い、子供にドライな国民として悪名高い。世界の最高峰として評価の高いイギリスの絵本やファンタジー小説も、子供のためというより「真の意味で童心を理解しないイギリスの大人が自分たちのために作るので、格調が高いのだ。」と言われている。
同じことが英バレエ界にも反映されており、ロイヤル・バレエのレパートリーのほとんどは成熟した大人のための作品である。子供向けのバレエは『ベアトリクス・ポターの世界』『ピーターと狼』『不思議の国のアリス』と、たいへん数が少ない。その隙間を埋めるようにバーミンガム・ロイヤル・バレエは、ピーター・ライトやアシュトン、ビントレー振付のファミリー・バレエを、ノーザン・バレエはニクソン振付の老若男女にアピールする物語作品を上演。イングリッシュ・ナショナル・バレエも最近まで子供向けの『アンジェリーナ・バレリーナ』を公演していた。
2001年以来12年に渡りノーザン・バレエを率いて、芸術監督・振付家として活躍するデイヴィッド・ニクソンは、オンタリオ州出身のカナダ人。英ダンス界への貢献を称えられ2010年に大英帝国勲章第4位OBEを授与されている。子供に優しい外国人であるニクソンは、自作の『くるみ割り人形』を振付けるに当たっても「子供達を怖がらせないよう心を砕いた。」と語る。ニクソンとノーザン・バレエは今後も幼児向けの演目を増やしてゆく意向で、この秋には新作『三匹の子豚』の世界初演が予定されている。
ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスを本拠地として、ほとんど国内を回らないロイヤル・バレエに対し、国内ツアーが中心のバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)やイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)、ノーザン・バレエは、イギリス各地を公演するため、イギリス国民の心をつかみ易い立場にある。ここ5年程はバーミンガム・ロイヤル・バレエとノーザン・バレエが「イギリス国民に最も愛されるバレエ団」という称号を争っている。この春、ウェイクフィールドやロンドンでニクソンの新作やバレエ団の現役ダンサーで振付家でもあるティンダルやブロウ、ロウ振付の新作に触れ、私自身ノーザン・バレエが国内の老若男女を魅了する魅力の一端を見たように思った。
(2013年5月17日昼 ロンドン サドラーズ・ウェルズ劇場。 写真はバレエ団提供)

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現代美術館の内部や中庭で行われたアート・ダンスと音楽の融合『ジ・ウルティメイト・フォーム』

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『ジ・ウルティメイト・フォーム』は、バレエ団のプリンシパル・ダンサー(このバレエ団ではプルミエ・ダンサーと呼ばれている)兼、振付家のケネス・ティンダルの新作。今年1月にパリの現代美術館で世界初演され話題になった。ケネス・ティンダルは2003年にバレエ団に入団。芸術監督で振付家のデイヴィッド・ニクソンに才能を見出され、振付の道を示唆されたという。処女作『プロジェクト#1 』が、昨年6月に北ドイツで開催された第26回ハノーファー国際振付家コンペティションで若手振付家賞を受賞するという早熟な作家で、以来ローザンヌ国際コンクールでプロ研修賞を受賞した菅井円加が研修先に選んだハンブルグ・ユース・バレエ他に新作を提供するなど、フリーランスの振付家としてヨーロッパを中心に活躍している。
『ジ・ウルティメイト・フォーム』はイギリス、リバプール出身の女流コラージュ・アーティストであるリンダーとのコラボレーション。「生きたコラージュ」をテーマに、世界の現代美術館の内部や庭園を空間とし、アート・ダンスと音楽の融合を披露する試みである。
作品のイギリス初演地に選ばれたヘップワース・ウェイクフィールドはノーザン・バレエの本拠地のある古都リーズから、電車で南に30分の街ウェイクフィールドに2011年5月にオープンした現代美術館。この地で生まれ世界的な名声を博す女流彫刻家バーバラ・ヘップワースの作品を常設展示する庭園を持つ。
『ジ・ウルティメイト・フォーム』英国初演は、2月16日〜5月12日まで同美術館で行われていたリンダーのエキシビション(ダンサーの写真と動植物や貝殻をコラージュした作品の展示)の最終日の前日にあたる5月11日(土)午後2時から、美術館中庭の特設ステージで1日限りの野外公演として企画された。事前に申し込めば無料で館内のエキシビションとバレエ公演が観られるとあって、当日はニュースを耳にした約1000名の老若男女が集った。

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イギリス北部といえば北西部や湖水地方を中心に1日に1度は雨が降る雨の通り道。公演当日も午後一時的に雨が降るとの天気予報であったため、美術館スタッフは急遽舞台に覆いをつけた。またバレエ団は翌週ロンドンで新作『華麗なるギャッツビー』を披露する予定で、『ジ・ウルティメイト・フォーム』主演ダンサーのうちベイトマン、シブソン、パンの3名が『華麗なるギャッツビー』の主要キャストに配役されていた。バレエ団芸術監督のデイヴィッド・ニクソンは「ダンサーが怪我をしてはいけない」と、美術館スタッフに特設舞台上の空間を摂氏20度以上に保つよう指示。舞台上の四隅に大きな電気ストーブが据えられることになった。 
特設舞台前は午後1時頃から折りたたみの椅子や、ピクニック用のマットを持参のカップルや家族客でいっぱいになった。
1時半、公演に先駆けてヘップワースの彫刻に触発されて作られたという弦楽器オクトベースの演奏が始まった。そして午後2時、ノーザン・バレエのリーディング・ソリストのハナ・ベイトマン、ファースト・ソリストのミカエラ・パオラッチ、ソリストのヴィクトリア・シブソン、群舞のジェシカ・モーガン、ニコラ・ゲルヴァシ、ジョシュア・バーウィック、ケヴィン・パンの男女計7人が、リンダーのエキシビションで展示されているダンサーをモチーフにしたコラージュ作品がプリントされた衣装を纏い、スチュワート・マッカラン作曲の音楽と共にヘップワース・ウェイクフィールドの中庭の特設舞台に現れた。
作品はベイトマン、シブソン、モーガンの女性3人が様々なフォルムを見せる前編に始まり、パオラッチとゲルヴァシ、バーウィックとパンの女性1人、男性3人による第2部、パオラッチとゲルヴァシによる男女ペアのデュエット、バーウィックとパンの男性2人のデュエットが披露される第3部、ダンサー7名全員によるフィナーレという構成。
ベイトマンの清潔な色香、スフィンクスのように謎めいた魅力を見せたパオラッチ、彼女と踊って絵になったゲルヴァシ、圧倒的な身体能力の高さを見せたパンの4人が見る者に強い印象を残した。
パリでの世界初演は作品の一部が紹介されたのみであったが、ヘップワース・ウェイクフィールドでの英国初演は、衣装のデザインやフォルムも一新され、作品の全貌が明らかになった。振付家ティンダルはインタビューで「現代美術館内の1部屋で公演したパリと美術館中庭の特設舞台で公演したウェイクフィールドでは、舞台面積も異なる上、客席からの視覚的アングルや観客の視点も違ってくることから、(同じ振付作品ではあるが)見せ方に更なる工夫を加えた」という。今後は「1つの作風に固執せず、作品ごとに新しい何かに挑戦してゆきたい」と語る。
『ジ・ウルティメイト・フォーム』は、今後バーバラ・ヘップワースの美術館で有名な南西部の風光明媚な海辺の街セント・アイヴスやニューヨーク、ロス・アンジェルスでも公演が予定されているという。
(2013年5月11日 ヘップワース・ウェイクフィールド。同日にパフォーマンスを撮影)

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写真に登場するダンサー
女性 ハナ・ベイトマン、ミカエラ・パオラッチ、ヴィクトリア・シブソン、ジェシカ・モーガン
男性 ニコラ・ゲルヴァシ、ジョシュア・バーウィック、ケヴィン・パン

ザ・ヘップワース・ウェイクフィールド美術館情報
ロンドン キングス・クロス(Kings Cross)駅 より直通電車で2時間 
最寄り駅 ウェイクフィールド・ウェストゲイト(Wakefield Westgate)
開館時間 火曜日〜日曜10時〜17時  第3木曜日10時〜19時 月曜定休、12月25. 26日閉館
The Hepworth Wakefield
Wakefield, West Yorkshire
WF1 5AW, U.K.
T: +44 (0)1924 247360
E: hello@hepworthwakefield.org
www.hepworthwakefield.org