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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2013.05.10]

マシュー・ボーン流の悪も善も男も女も渾然、胸のすく仕掛け『眠れる森の美女』大ヒット! 

New Adventures ニュー・アドヴェンチャーズ
Matthew Bourne's Sleeping Beauty マシュー・ボーン版「眠れる森の美女」 

昨年12月4日、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されたマシュー・ボーンの『眠れる森の美女』が空前の大ヒットとなっている。
昨年カンパニー発足25周年を祝して、ボーン振付作品のうち人気の小品を携えイギリス全国をツアーしたニューアドベンチャー。今回の新作は『ドリアン・グレイ』以来4年ぶりの新作とあって、製作発表以来関係者やファンの関心が加熱。世界初演以前からチケット・セールスに圧倒的な強さを見せていた。初日から1週間が過ぎた12月12日には1月26日までのロンドン公演全チケットが完売となった。
作品は4部構成で、第1部は1890年 オーロラの誕生、第2部は1911年 オーロラの誕生パーティー、第3部は2011年 オーロラの目覚め、第4部は オーロラの結婚。幕間は1度のみ。作品はスピーディーに展開する。
振付家マシュー・ボーンらしさは、バレエ『眠れる森の美女』でお馴染みの登場人物の性別や階級に一ひねりあること。バレエでは女性が扮するリラの精が、ボーン版ではライラック伯爵・妖精たちの王、という名称で男性ダンサーによって踊られる。悪の存在カラボスは、闇の妖精・カラボスとして冒頭では女性として登場するが、オーロラに呪いをかけた後、王国から追放され命を落とす。第3部で登場するのは母の遺志を継ぎオーロラの幸せを阻み我が物にしようとするカラドックという名の息子である。(男性ダンサーによる1人2役)。またオーロラを100年の眠りから目覚めさせる、バレエのデジーレ(フロリムンド)王子に相当する男性はレオという名で貴族階級ではなく王国の狩猟番として登場する。

london1305b_01.jpg 撮影/Angela Kase

オーロラ役は第1部は赤ん坊を模った人形が、第2部から作品最後のエピローグまでは主役ダンサーが演じ踊る。第2部はジョージ5世王朝時代のイギリス。白い夏服の衣装に身を包んだ男女群舞とオーロラによる王宮庭園でのサマー・パーティーの様子とダンス・シーンが美しい。第3部の冒頭は暗い寝室の内部。カラドック(カラボスの息子)は100年の眠りについたオーロラの目を何とか覚まさせようと奮闘するが、その努力も空しくオーロラは眠り続けるばかりだ。この部分のカラドックと眠るオーロラのデュエットは、どこかマクミラン版『ロミオとジュリエット』の3幕、キャピュレット家の墓所でパリスを殺めた後、仮死状態のジュリエットと踊るロミオとジュリエットのデュエットを思いおこさせる。
オーロラはレオのキスによって目覚めるが、レオは直後にカラドックの手下に捕らえられてしまったため、目覚めたオーロラの目の前に立っているのはカラドックだ。果たしてオーロラは運命の男性レオと結ばれることができるのだろうか。
第1部のライラック伯爵以下の妖精たちの踊り、第2幕のサマー・パーティー、第3部のカラドックと眠るオーロラのデュエット、第4部の観客をあっと驚かせ幸せな気持ちで帰路につかせるエピローグ、とそれぞれの幕にボーン作品ならではの仕掛けや見所があり観客を飽きさせない。いつもながらにレズ・ブラザーストンの衣装と装置のデザインが白眉で、ボーンの世界を見事なまでに具現化している。
ボーンは世界初演前のインタビューで「長い間子宝に恵まれなかった国王と王妃は本当に自分たちの子供を授かったのだろうか。実は健康な平民の娘を秘密裏に養女に迎えていたのではないか」と語っている。そのボーンの「疑問」を裏付けるかのように、第2部の誕生パーティーの場面で登場する主人公には淑女らしいマナーがうかがえないばかりか、ダンスシーンの振付にも彼女のおてんばぶりや奔放さに満ちている。
12月4日の世界初演キャストでオーロラ役を踊ったのはハナ・ヴァッサロ、カラボスとカラドックはベン・バンスによる1人2役、ライラック伯爵はクリストファー・マーニーが踊った。また1幕で情熱の精を踊ったのは日本人ダンサーの鎌田真梨である。

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撮影/Angela Kase(すべて)

12月3日夜にロンドンの舞台写真家を集めて行われたゲネプロ撮影は通しではなく、第1部のオーロラの誕生の場面から妖精たちの踊りと第3部のオーロラの目覚めから2つの場面のみのダイジェスト版。第3部第2場でオーロラに口付けしようと、グレーのトップにジーンズ、手に赤い薔薇の花を持ってジョギングしながらレオが舞台に登場した時、私をはじめとする1部の舞台写真家たちが一瞬凍りついた。舞台に現れたレオ役のドミニク・ノースの横顔が若き日のアダム・クーパーにたいへん良く似ていたからである。
ボーン版『眠れる森の美女』は、サドラーズ・ウェルズ劇場で64公演を完売し9万7千人の観客を集め、現在のところ同劇場史上、またニューアドベンチャーにとっても最大のヒット作となっている。カンパニーは今も同作品と共にイギリス各都市を公演中。4月23日〜27日、カンパニーはロンドンに凱旋し、ニュー・ウィンブルドン劇場にて同作品を上演。この記事が読者に届く5月10日にはイギリス南西の都市ブリストルで公演中だ。4月中旬時点の統計によると、同作品は既に英国内で25万人の観客を動員しているという。
5月29日〜6月2日、カンパニーはイタリアの古都ラヴェンナで初の海外公演を行う。次いで6月11日〜16日はモスクワのチェーホフ・フェスティバルに参加予定だ。9月にはクリーブランドを皮切りにNY、LA、ワシントンDC他で米国公演も予定されており、同作品がヨーロッパ、ロシア、アメリカ全土を席巻する日も近い。
2007年の『ドリアン・グレイ』と、その後の長い沈黙期間を経て、振付家マシュー・ボーンが不死鳥のごとく蘇り、自らの独自性を封印することなく、万民にアピールする新作を持ってわれわれの元に帰って来た。この作品が日本のファンの歓呼に迎えられる日も遠くはないだろう。
(2012年12月23日 サドラーズ・ウエルズ劇場 12月4日撮影)

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撮影/Angela Kase(すべて)

写真に登場するダンサー
オーロラ    ハナ・ヴァッサロ
カラドック   ベン・バンス
レオ      ドミニク・ノース
ライラック伯爵 クリストファー・マーニー
情熱の精    鎌田真梨
再生の精    ケイト・ライオンズ
豊穣の精    ジョー・ウォルクィング
元気の精    ソフィア・ハードリー
感情の精    リアム・モーワー他