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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2012.10.10]

ENBのウエィン・イーグリング芸術監督、最後のロンドン公演『白鳥の湖』

English National Ballet  イングリッシュ・ナショナル・バレエ 
"Swan Lake" by Derek Deane 『白鳥の湖』デレク・ディーン振付

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)は8月3日〜29日まで、2011・12シーズン最後のロンドン公演を行った。8月3日と5日に2配役で鑑賞する。
当初初日にはダリア・クリメントヴァとワジム・モンタギロフが主演予定であったが、モンタギロフの就労ビザの延長に時間がかかったことから、ビザが一時的に失効し踊ることができなくなってしまった。そんな事情から急遽初日は、高橋絵理奈とズデニック・コンヴァリーナが踊ることになった。
ENBの『白鳥の』はかつて芸術監督を務めたデレク・ディーン版。ロイヤル・アルバート・ホールの円形舞台で披露されることもあるが、今回はコロシアム劇場の四角い舞台での上演である。名舞台美術家ピーター・ファーマーの手になる舞台デザインがたいへん美しい。

london1210a04.jpg photo:Angela Kase

初日はベテランでありながら若々しい容姿の高橋と貴公子らしい雰囲気のコンヴァリーナが演舞に好演。女王はジェーン・ハワース、王子の家庭教師をマイケル・コールマンなど英バレエ界の重鎮が務め舞台に深みを与えたこともあり、コロシアムに集まった関係者や世界からの観光客を含むバレエ・ファンを熱狂させた。
ゲネプロと5日の舞台に登場したのはフランス人ファースト・ソリストのアナイス・シャランダールとブラジル人の若手ジュニア・ソリスト、ジュノー・サウザであった。
シャランダールは例えば黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥで煌びやかなテクニックを披露するといった技巧派ではないが、物語を巧みに語る女優タイプのバレリーナで、白鳥オデットを踊る姿は美しく哀しく、黒鳥オディールは妖艶でいながらエレガントで登場から観客の心をつかんだ。

サウザはプロポーションに優れ、若手でありながら技巧をひけらかす事なく、演技と品性重視の役作りで好感度の高い踊り手。

主役以外では初日にチャルダッシュを踊ったクリスタル・コスタとバリー・ドラムント、四羽の白鳥を両日踊った赤星、バランタイン、ハリングトン、ハドソンの4人のバレリーナが充実していた他、ブラジルの双子の男性ダンサーで3年前のローザンヌ・コンクールのファイナリストであるギヨームとヴィットーのメンジズ兄弟、日本人の猿橋賢、今年ロイヤル・バレエ・スクールから入団したテオ・デュブロイら男性も群舞で活躍し、作品に花を添えた。

この夏まで芸術監督を務めたウェイン・イーグリングは、就任以来マクミランの『マノン』全幕や、バレエ・リュッス作品、ローラン・プティの小品をレパートリーに取り入れ、また自らが振付が好評を得ていた『くるみ割り人形』をイギリス人向けにアレンジして上演するなどして演目の充実を図ると共に、また芸術性高い踊り手を揃えてバレエ団のレベルアップに努めた。イーグリングの仕事は、英バレエ関係者とファンに高く評価されたのだが、玄人向けの演目は必ずしも興行成績に結びつかなかったことから、時満たずにバレエ団を離れることになりたいへん残念である。イーグリング時代の最後に、古典の名作『白鳥の湖』で彼が育んだバレエ団とダンサーの充実に触れることができたことに感謝し、バレエ団の今後を見守りたい。
(2012年8月3、5日 ロンドン コロシアム劇場 8月2日ドレス・リハーサルを撮影)

london1210a01.jpg photo:Angela Kase london1210a02.jpg photo:Angela Kase
london1210a03.jpg photo:Angela Kase london1210a06.jpg photo:Angela Kase

写真に登場するダンサー
オデット、オディール/アナイス・シャランダール
王子ジークフリート/ジュノー・サウザ
ナポリの踊り/クリスタル・コスタ、バリー・ドラムントほか