ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2011.10.11]

平野、蔵、小林、崔、金子などの日本人ダンサーが活躍した『ジュエルズ』

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
Jewels by Grorge Balanchine ジョージ・バランシン振付『ジュエルズ』
london1110a06.jpg © Angela Kase

9月中旬、ロンドン市民は長い冷夏の後の早すぎる秋の訪れを嘆いていた。
そしてバレエ・ファンの間では、夏にマリインスキー・バレエ団に客演し、コヴェント・ガーデン・デビューを遂げたABTのデイヴィッド・ホールバーグのボリショイ・バレエ団への移籍が大きな波紋を巻き起こしていた。
長らく世界の最高峰として君臨し、特に近年クレフツォフ、フィーリン、ウヴァーロフ、ツィスカリゼ、ベロゴロフツェフ、スクフォルツォフと男性ダンサーの充実で知られたボリショイ・バレエ団が、外国人男性プリンシパルを迎えないとこれまでのレベルを保てなくなってしまった、という事実。ロシア・バレエは一体これからどうなるのか。

そんな中、2011-12年の英国バレエの新シーズンが開幕した。
ロイヤル・バレエ団は9月20日にコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウス(大劇場)でバランシンの『ジュエルズ』を、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団は9月28日に本拠地バーミンガム・ヒポドロームでビントリーの『美女と野獣』を、またコヴェント・ガーデンのリンバリー・スタジオ(中劇場)では、9月19日からカフカの『変身』を原作にした新作『ザ・メタモルフォーセス』が上演され、芸術の秋を華やかに彩った。
 それぞれの作品の初日に主役や大トリの主役(『ジュエルズ』のダイアモンドの男性パート)を踊ったのは、ルーパート・ペネファーザー、イアン・マッケイ、エドワード・ワトソン。みんなロイヤル・バレエ・スクール出身のイギリスの男性ダンサーたちである。バレエ人口が激減の一途をたどるロシアに対して、映画『リトル・ダンサー』(2001年作品)の大ヒットでバレエの道を志す男子が増えたイギリスの、その後を物語るシーズンの幕開けである。

ロイヤル・バレエ団の新シーズン最初の作品はバランシンの『ジュエルズ』。2008年11月以来3年ぶりの上演となる。
今回は2キャスト全7公演で、初日9月20日は「エメラルド」をタマラ・ロホ、リアン・ベンジャミン、フェデリコ・ボネッリ、ネヘミア・キッシュが、「ルビー」をゼナイダ・ヤノースキー、サラ・ラム、スティーブン・マックレーが、「ダイアモンド」をアリーナ・コジョカルとルーパート・ペネファーザーが踊る予定であった。セカンド・キャストは「エメラルド」をロベルタ・マルケス、マーラ・ガリアッツィ、ヴァレリー・フリストフ、ベネット・ガートサイト、「ルビーズ」はローラ・マクロッホ、崔由姫、リッカルド・セルヴェーラが、「ダイアモンド」にはマリアネラ・ヌニェズとティアゴ・ソアーレスが予定されていた。

london1110a01.jpg © Angela Kase london1110a02.jpg © Angela Kase london1110a03.jpg © Angela Kase

ファースト・キャストによる公演を9月22日に鑑賞した。
ボネッリの降板により第1部「エメラルド」の中心男性に抜擢されたのは平野亮一。ロイヤル・バレエ団の男性ダンサーらしい奥ゆかしさと丁寧なサポート技術を奮って、バレエ団の大スターであるタマラ・ロホの相手役をつとめ好評を博した。ロホはバランスや優美な旋回技術、持ち前の愛らしさとスター性で作品に君臨、ベンジャミンは音楽性を発揮し、靴音を立てずにバランシン作品の敏捷なフットワークを披露し、コヴェント・ガーデンに集ったファンに、ヴェテラン・ダンサーの技量と充実を強く印象付けた。
 第2部「ルビーズ」はヤノースキーとラム、マックレーがそれぞれ陽性の魅力と音楽性を発揮。だが3人のパフォーマンス云々よりも、群舞を含めた全ダンサーの醸し出す躍動感とリズムが見事であった。
第3部「ダイアモンド」を踊ったコジョカルはスター性が増し、求心的なパフォーマンスで作品を引き締め、身長差がある相手役ぺネファーザーとの相性もまた良かった。ぺネファーザーはロイヤル・バレエ団を代表するダンスール・ノーブルらしい風格がますます備わり、長身を存分に生かしたラインの美しさやダイナミックにしてエレガントな跳躍で、舞台上にムーブメントの軌跡をくっきりと描いて見せた。

日本出身のダンサーは、「エメラルド」の中心男性を踊った平野、「ルビーズ」の蔵健太、「ダイアモンド」に小林ひかると崔由姫、セカンド・キャストでは「エメラルド」に金子扶生、「ルビーズ」の中心ダンサーを崔由姫が踊るなど、相変わらずシーズン開幕から大活躍。
特にバランシン作品を得意とする小林と崔がダイアモンドで左右に並んで踊る場面では、舞台が明るく華やいだ他、「ルビーズ」の蔵の躍動感も忘れがたい印象を残した。

london1110a04.jpg © Angela Kase london1110a05.jpg © Angela Kase

シーズン開幕前よりイギリスのバレエ・ファンを大いに心配させたのが、新シーズンのコジョカルの主演回数の少なさだった。秋のシーズン開幕から1月初旬までは「ジュエルズ」でダイアモンドを3回、『くるみ割り人形』を3回公演するのみなのである。
その後、一部の情報通のファンからコジョカルのハンブルグ・バレエ団への客演が明らかになったことから、ROHでの公演回数の少なさは、コジョカルが個人的にノイマイヤーとの仕事を優先した結果であろうと噂された。だがどうも真実は、新シーズンは『眠れる森の美女』の主役に若手を起用する方針を打ち出したロイヤル・バレエ団からオーロラ役を貰えないなどの諸事情があり、コジョカル自身がスケジュールのギャップを埋めるため、個人的に海外のバレエ団や招聘元に働きかけた結果なのだという。
コジョカルの場合、相手役として踊ることの多いヨハン・コボーとは年齢差があるため、コボーと踊るということに対してバレエ団から意見が入ったのかもしれない。ちなみにシーズン開幕から1月初めまでのコボーの主演予定はコジョカルの6回に対して、『くるみ割り人形』3公演のみとなっている。
(2011年9月22日 ロイヤル・オペラ・ハウス。9月20日午後の最終ドレス・リハーサルを撮影)

london1110a07.jpg © Angela Kase london1110a08.jpg © Angela Kase
london1110a09.jpg © Angela Kase london1110a10.jpg © Angela Kase