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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2011.05.10]

来日直前! BRBプリンシパル・インタビュー:ジェイミー・ボンド

ジェイミー・ボンド
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル・ダンサー
london1105c01.jpg Photo:Andrew Ross

5月の来日公演で『ダフニスとクロエ』のダフニスと『真夏の夜の夢』のディメトリウスを踊るのはバレエ団の新進プリンシパルのジェイミー・ボンド。2つの作品で彼を見ることのできた観客は、このダンサーの役ごとの豹変ぶりに驚くことだろう。
RBS時代から将来を嘱望され、芸術監督ビントレーの三顧の礼でBRBに迎えられたボンドは、バレエ団次代のダンスール・ノーブル、稀代の演技派として関係者の熱い注目を浴びながらも、これまで様々な怪我と闘い続けてきた。腰の問題とその再発により2009・10シーズンには「幻のプリンシパル」と言われた彼に怪我からの再起や日本公演への抱負を語ってもらった。

1982年12月29日生まれ イギリス エセックス州リー・オン・シー出身 身長180cm 体重70kg 
2000年、ヤング・ブリティッシュ・ダンサー・オブ・ザ・イヤー(YBDY)初代優勝
2001年、ユーロビジョン・ヤング・ダンサーズ・コンペティション イギリス代表
2002年、ロイヤル・バレエ・スクール卒業 秋、ロイヤル・バレエ入団
2003年秋、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団に移籍 09年秋プリンシパル

「バレエを始めたのは3歳の時でした。母がバレエ教師で地元にバレエ教室を持っているので、母のお稽古場でごく自然な流れでバレエを始め、子供なりにとても熱心に取り組んだのだそうです。11歳でホワイト・ロッジ(11歳〜15歳までが学ぶRBSの初等科)に入り、その後アッパー・スクール(15歳以上の高等科)で学びました。」

ボンドさんのようにとても小さい頃にバレエを始めた男性の場合、その後ご自分の進路に疑問を抱いたりしがちですが、いかがでしたか。
「人並みにそんな時期もありましたね。ホワイト・ロッジで、担任の先生とそりが合わない年があって、その時は真剣に他の道に進むことを考えました。」

どんな職業につきたいとお考えだったのですか。
「イギリス空軍のパイロットになりたかったんですよ。僕の生まれ育った街は、毎年夏に行われる航空ショーで有名で、子供心に<空を飛ぶってスゴイな>と思っていましたから。当時は子供の憧れ以上の気持ちを抱いていて、資料を取寄せたり、とても真剣だったのを覚えています。」

「アッパー・スクール時代はカルロス・アコスタに魅了されていました。99〜02年といえばカルロスが踊り手として最も素晴らしかった時期です。彼の舞台を初めて見たのは僕も生徒として出演したロイヤル・オペラ・ハウスの改装後のオープニング・ガラでした。僕たち生徒は、踊り終わったら即退場し、舞台袖から公演を覗き見したりすることのないよう、と厳しく言い渡されていたのですが、僕はどうしてもカルロスの『海賊』が観たくて、こっそり舞台袖に忍んで行き、彼のソロを観て大感動していたのも今では懐かしい思い出です。」

「アッパー・スクール時代はコンクールにも挑戦しました。YBDY、ユーロビジョンの後にはアデリーン・ジニー・コンクール(英国流派のバレエを学ぶ世界の若者を対象にしたコンクール)にも出る予定だったのですが、足首の故障と手術のために断念しなければなりませんでした。」

「卒業の年にはロイヤル・バレエ団とバーミンガム・ロイヤル・バレエ団の両方からコントラクト(入団契約書)を頂きました。子供の頃からロイヤル・バレエ入団を目標に頑張ってきましたからRBを選び入団したのですが、1年たっても群舞ばかりで何を踊ったわけでもなかったんですよ。入団当時の芸術監督ロス・ストレットンは僕を大変気に入って、将来を約束してくれていたのですが、RBにいるとどうしても準主役や主役をコンスタントに踊るまで何年も待たなければなりません。学生時代にチャンスが多かった僕には、毎日群舞ばかりというのは精神的に大変苦しいことでした。そんな時デイヴィッド(ビントレー)から再度、BRBに来ないか、君には、いろいろ踊ってほしいと思っているから、と声をかけて頂き、若手にも抜擢のチャンスの多いBRBに移籍しました。」

ボンドさんというと演技派ダンサーとして知られていますが、子供時代から演技することがお好きだったのでしょうか。

london1105c05.jpg Photo:Bill Cooper

「(演技に目覚めたのは)必要に迫られてのことだったんですよ。BRBに移籍してすぐ『ロミオとジュリエット』のマキューシォ役に抜擢されたんです。ティボルトの手にかかってから死んでゆく場面なんて長いですし、踊りだけでは見せられない役です。僕は性格的にとてもシャイで、自分の中に目立ちたがり屋な部分は全くないのですが、ある日、意を決してリハーサルに挑んだんです。するとバレエ団の皆が<ジェイミーって実はすごい演技派だったんだ。>と驚いて。マキューシォ以降ですね。僕が演ずることに目覚め、演技性の強い役を踊るのを楽しむようになったのは。」

ビントレーさんも私自身も、これまでボンドさんが踊った役の中では『エドワード2世』(07年11月参照)と『ペトルーシュカ』(08年12月参照)の演技や役の解釈が大変素晴らしかったと思っています。どのような準備をして役に望まれたのでしょうか?

「『エドワード2世』に抜擢された時(24歳)はデイヴィッドに、自分は<プリンシパルになれる可能性を持ったダンサー>であることをアピールすべき時期でした。ですから振付を覚える以外にも、原作であるマーローの戯曲を読んで実在の王についてよく学び、役について熟考すると共に、毎日ジムで身体作りに励みました。」

「『ペトルーシュカ』に抜擢された時はとても嬉しかった。ヌレエフやバリシニコフといった僕が尊敬する踊り手がみな挑戦した役ですから。デイヴィッド自身も現役時代にこの役を踊ってキャラクター・ダンサーとして高く評価されました。この時は人形劇をよく見たりして、人形の動きについて徹底的に勉強しました。」

london1105c02.jpg

プリンシパル就任直後の先シーズンは、怪我でほとんどの舞台から降板されました。昨年夏にはアメリカでリハビリ生活を送られたと聞いていますが。
「踊り手として一番良い時期に大きな怪我をしてしまい人生最大の危機に直面していました。ある日テレビでテキサス州ダラスにある怪我をしたアスリート専門のクリニックについて知り、インターネットで検索し、施設についてよく確認した後、現地に飛んで3週間の特別プログラムを作って頂きリハビリに励みました。秋にこちらに戻って相手役のナターシャ(オートレッド)と踊った時は、リフトなど<まるで別人のようだ>と随分驚かれました。腰は完治したわけではなく、今も身体の強化に励みながら問題と共に生きています。怪我のためにバレエ団のダンサーの中でも毎日最も長い時間をスタジオやジムで過ごさねばならなくなりましたが、それは僕にとって良いことなのだと思います。」

今回の日本公演で主役を踊る女性プリンシパル、エリーシャ・ウィリス、佐久間奈緒、ナターシャ・オートレッドについて教えてください。
「エリーシャ・ウィリスはデイヴィッドのお気に入りのバレリーナで、これまでたくさんのビントレー作品の主役に抜擢され、いつも振付家の期待によく答えました。佐久間奈緒はBRBの顔ともいうべきバレエ団の看板バレリーナです。僕にとって特別な相手役といえば、ナターシャ・オートレッドです。ナターシャと僕は共にイギリス人ですし、RBSで同じ教育を受けていますからね。」

日本公演ではアシュトン振付の『ダフニスとクロエ』のダフニスを踊られますね。
「数年前アントニー・ダウエルから直々に指導を受けました。アシュトン作品では他に『2羽の鳩』の若者役も踊っています。来シーズンはバレエ団が久しぶりに(アシュトン振付)『シンフォニック・ヴァリエーション』を上演するというので、今から踊るのを楽しみにしているんですよ。RBS時代にブルース・サンソム(RB元プリンシパル、日本でも大変人気があった)が踊るのを見て<いつか自分も踊れたら>と、憧れた作品でしたから。」

日本ではどんなことをしてみたいですか。
「神社仏閣を訪ねたりして日本文化を満喫してみたいですね。3年前は幸運にも京都を訪ねたり、箱根に行って美しい富士山を眺めたりしました。今回は時間があれば高野山に行ってみたいな。」

将来踊りたい役、共演したいバレリーナというと。
「どれもBRBの演目ではないのですが、『マノン』のデ・グリュー、『オネーギン』のタイトル・ロール、『マイヤリング うたかたの恋』のルドルフ皇太子を踊ってみたいと熱望しています。 
『マノン』か『マイヤリング』でタマラ・ロホと共演できたら素晴らしいでしょうね。」

好きなバレエ作品と好きな役について教えてください。
「マクミラン版『ロミオとジュリエット』のロミオ、ビントレー振付『エドワード2世』のタイトル・ロール。
「特に『エドワード2世』(振付も難解な上、全3幕を通しダンスと演技の目まぐるしいまでの繰り返しで、踊り手には相当な技量と集中力、スタミナが必要とされるバレエの男性主役の中でも難役中の難役)は、ドラマ性の強い作品を得意とする僕が、役に僕なりの深みを与え、演じ、踊ることを可能にしてくれる特別な作品です。また近い将来、この役に向き合い挑戦できるよう願ってやみません。」

london1105c03.jpg Photo:Bill Cooper london1105c04.jpg Photo:Angela Kase london1105c06.jpg Photo:Angela Kase

●趣味
ゴルフ、旅行、登山。山については当面の夢はキリマンジャロ登山。その後はネパールに行ってヒマラヤの世界の屋根にも挑戦してみたい。ゴルフは腰のことを考えて今はお休みしています。

●心に残る映画
尊敬する俳優モーガン・フリーマン主演の『ショーシャンクの空に』。ガス・ヴァン・サント監督作品『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』。チャン・イーモウ監督作品『LOVERS』

●心に残る本
最近はカルロス・ルイス・サフォン(スペイン人でLA在住の作家)、セバスチャン・フォークス(イギリス人作家 映画『シャーロット・グレイ』の原作者)、カーレド・ホッセイニ(アフガニスタン出身の作家、医師でもある)などの本を読んでいました。特にホッセイニの『君のためなら千回でも』は2日で読破してしまいました。

●好きな音楽
ジャック・ジョンソン、レディオヘッド、ブラック・キーズ、コールドプレイ、ダミアン・ライス、レイ・ラモンターニュなど様々なタイプの音楽が好き。

●世界の都市でお気に入り
旅行が好きで将来訪ねてみたい場所がたくさんある今、お気に入りの都市一つを上げるのは難しい。あえて上げるとすればアラスカ。辺境の地の大自然に魅了されてしまった。

●コーヒー党ですか、紅茶派ですか
紅茶派。コーヒーは香りをかぐのも苦手。

●世界の料理でお気に入り
イタリアンと日本料理。日本料理では、天婦羅やしゃぶしゃぶ が好き。

●お気に入りのアフターシェイブ
ヒューゴ・ボス

●モットー
自分を信じ、決してあきらめないこと。Believe in yourself and never give up!

london1105c08.jpg Photo:Angela Kase london1105c09.jpg Photo:Angela Kase

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