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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2010.10.12]

ワシリエフ、ロブーヒンのペトルーシュカ、『パキータ』『ロシアン・シーズン』に熱狂

Bolshoi Ballet's London Season ボリショイ・バレエ団 ロンドン・シーズン
Fokine,Vikharev:Petrushka / Ratmansky:Russian Seasons / Petipa, Burlaka:Grand Pas from Paquita.
『ペトルーシュカ』『ロシアン・シーズン』『パキータ』

7月19日から始まった3年ぶりのロンドン公演で、イギリスのロシア・バレエ・ファンが熱狂したのが、29日、30日に上演された『ペトルーシュカ』「ロシアン・シーズン」『パキータ』3作品による「バレエ小品集」。 
ザハロワとアレクサンドロワの降板により、『スパルタクス』『コッペリア』『ジゼル』の3演目が、ワシリエフ、オシポワ、ニクーリナといった若いダンサー中心の配役になっていたのが、『パキータ』でやっとアレクサンドロワ、ツィスカリーゼというボリショイを代表するスターを観ることができたからだ。
 
『ペトルーシュカ』でタイトル・ロールを踊ったのは、初日が今年初めマリインスキー・バレエ団からボリショイ・バレエ団に移籍したミハイル・ロブーヒン。2日目はイワン・ワシリエフ。
イギリスでこの作品が上演される場合は、美しいバレリーナ人形と、おつむは弱いが雄々しいムーア人、文弱なペトルーシュカという設定で、ペトルーシュカは年配のキャラクター・ダンサーか、繊細なプリンシパル・ダンサーによって踊られることが多い。
だがボリショイ・バレエ団の場合、7月のヴィハレフ版モスクワ初演も、8月のロンドンでもペトルーシュカを踊ったのはロブーヒン、ワシリエフという男性的な魅力と技量に優れる踊り手。
ムーア人を踊ったのは、初日がデニス・サヴィン、2日目がイゴール・ツブリコという繊細な持ち味の踊り手だったのだから、ロブーヒンやワシリエフの男らしさがますます引き立てられる結果となった。
バレリーナ人形は初日がニーナ・カプツォーワ、2日目がアナスタシア・スタシュケヴィッチである。

より心に残ったのは初日のキャスト。大きな目をパチクリさせる人形ぶりや、ムーア人の部屋で愛を告げるカプツォーワ扮するバレリーナ人形のマイムが表現力に富み、たいへん見ごたえがあったのである。
ロブーヒン、ワシリエフは共に大きな跳躍で観客を沸かせた。だが2人によるペトルーシュカが男らしく魅力的なだけに、われわれイギリスの観客には、なぜバレリーナ人形がそれほどムーア人に惹かれるのかがわからなかったのだが。
 
ディギレフのバレエ・リュスの代表作である『ペトルーシュカ』と古典バレエの名作『パキータ』に挟まれて上演されたのは、今世紀に作られた現代作品「ロシアン・シーズン」である。
初日、2日目とほとんど同じキャストで、中心となるペアを踊ったのはクリサノワとメルクーリエフである。初日はナターリア・オシポワやアナスタシア・ヤッツェンコといった古典・現代作品の双方に優れるバレリーナも出演。ラントラートフ、ロパーティンら男性若手も現代作品にはじけ強い印象を残した。
今回クリサノワとメルクーリエフはこの作品と『ドン・キホーテ』で共演したが、踊り手として共に洗練された魅力を持ち、品性の良さや爽やかで若々しい雰囲気も同じで、似合いのペアである。
『ロシアン・シーズン』は、シンプルな衣装ながら、ソプラノのヤーナ・イワニロワによるロシア民謡、イリーナ・ブランクのバイオリン、ラトマンスキーの振付、踊り手たちの魅力が素晴らしい相乗効果をかもし出し、短いながらも非常に充実した作品に仕上がっており、コベント・ガーデンの観客はロシア文化・ロシア芸術の魅力に大いに酔わされた。
 

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『パキータ』のタイトル・ロールはマリア・アレクサンドロワ。
艶やかで大人っぽい魅力、スター性の大きさと、モスクワっ子が大好きな魅力を持つ、ボリショイ・バレエ団が世界に誇るスター・バレリーナである。
対するリュシアンはニコライ・ツィスカリーゼ。
アレクサンドロワの美と貫禄、ツィスカリゼと共に見せる華麗なパフォーマンスにコベント・ガーデンに集まったファンは「これぞボリショイ!」と熱狂。
それぞれ違う美しいデザインのチュチュで踊るアラシュ、クリサノワ、カプツォーワ、ナターリア・オシポワといった女性ソリスト陣の充実、パ・ド・トロワを踊ったアンナ・ティホミロワやヴラディスラフ・ラントラートフなど注目の新人によるエレガントなダンス。宮廷の舞踏会場の舞台セットとデザイン、そこに集った貴公子と貴婦人たちが見守る中、ダンサーが次々と妙技を繰り広げるという舞台設定も古典バレエらしい高級感と夢にあふれ素晴らしかった。
 
公演後の楽屋口は、やっとロンドンに戻ってきたアレクサンドロワとツィスカリーゼに会いたい、写真を撮ったり、サインがほしいというファンで大変な混雑であった。
ファンに明るい笑顔で接するアレクサンドロワとツィスカリーゼの2人を囲んで、ファンたちは皆、大いなる幸福感に包まれた。
(2010年7月29日、30日  ロイヤル・オペラ・ハウス 29日午後の最終ドレス・リハーサルを撮影)

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撮影:Angela Kase
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