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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2010.07.12]

印象的だった新鋭振付家、スカーレットの新作『アスフォデルの花畑』

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
Asphodel Meadows by Liam Scarlett
リアム・スカーレット『アスフォデルの花畑』世界初演
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英国ロイヤル・バレエ団は、日本公演に旅立つ直前の5、6月に、現代振付家6人の作品を紹介するバレエ小品集2種を上演して、本拠地での09-10シーズンを締めくくった。
5月5日から15日まで5回上演されたのは、クリストファー・ウィールドン振付で2年前に世界初演された『エレクトリック・カウンター・ポイント』、マッツ・エクの『カルメン』とバレエ団のファースト・アーティストで振付家のリアム・スカーレットによる新作『アスフォデルの花畑』(世界初演)の3作品。
ウィールドンとエク作品については、過去(08年4月号と09年3月号)に今回とほとんど同じキャストをたくさんの舞台写真と共にご紹介していることから、ここではリアム・スカーレットの新作『アスフォデルの花畑』のみご紹介させて頂く。

スカーレットは05年にバレエ団に入団し今年で24歳。幼少の頃より振付に興味を持ち、ロイヤル・バレエ・スクール(RBS)在学中に、ケネス・マクミラン振付賞、ウルスラ・モートン振付賞を受賞。卒業直前の04年と05年には学校公演で自作を発表し、自らも踊り手の1人として出演している。
入団後は中劇場のリンバリー・スタジオで行われる「振付家の夕べ」で作品を発表してきたが、今回プロの振付家として初めてロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の大舞台で上演する新作を依頼されたのである。

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作品の題名であるアスフォデルとは、古代ギリシャ神話の「黄泉の国」に咲く花の名前。「死者が好む食べ物」とされた。
プーランクのスコアに、マリアネラ・ヌニェズとルパート・ペネファーザー、タマラ・ロホとベネット・ガートサイト、ラウラ・モレーラとリッカルド・セルヴェーラという3組を中心に計20名のダンサーに振付けた作品。
3組のペアの中では、ヌニェズとペネファーザーが、しっとりした大人の男女の関係をサイレント映画さながらに踊ってみせ印象的であった。
また2組目の女性を踊ったタマラ・ロホが、ステップや腕使い、目線やエポールマンといった所作のすべてに、フェミニンで求心的な魅力をほとばしらせ、表現者として際立った存在であることを証明してみせた。
抽象バレエの振付家としては先輩のウィールドンも、20代初めからROHの大舞台で上演する作品を任されたものだ。だが初期のウィールドンが少人数を中心に作品を作ったのとは対照的に、スカーレットはRBS時代から大人数を巧みに動かす才能の持ち主だった。
今回も蔵健太や高田あかね、ジェイムズ・ヘイ、トリスタン・ダイアーなどがひしめくグループに印象に残るムーブメントを刻んで見せた。
舞台デザインは、RBの『ラ・ロンド』やBRBの『妖精の接吻』などに洗練された美意識を発揮するジョン・マクファーデンが担当。プーランクの楽曲、墨絵を思わせるミニマルな舞台デザイン、「黄泉の国」をイメージさせる黄昏を灯りで表現した照明デザーナーのジェニファー・ティップトン、スカーレットの振付が見事に調和し、観客は23分という僅かな時間の中に非常な充実と満足感を感じることができる。
タイトルからも、スカーレットが現代の若者らしからぬ豊かな内的世界を持っていることがわかるし、作品の完成度も高く、新人の作品とは思えぬ老成がある。

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バッハとスティーブ・ライヒの音楽を使い、4人の踊り手の独白と、一遍の美しい夢のような映像が忘れがたい印象を残すウィールドンの『エレクトリック・カウンター・ポイント』、ビゼーの音楽とエクのユニークな振付、タマラ・ロホの魅力を200%堪能できる『カルメン』と、スカーレットの新作。一晩に3つの異なる小品を見るまたとないチャンスであったが、広報活動に問題があったのか一部のコアなファン以外にはチケットが売れなかった。
バレエ団は最終的にfacebookを使って学生を対象に破格の値段でチケットを放出し、ROHを埋めたのであった。
(2010年5月15日ロイヤル・オペラ・ハウス 5月4日、最終ドレス・リハーサルを撮影)

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撮影:Angela Kase
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